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サイバーダインの技術によって税収を高め公的費用の支出も抑える。そうすると必然的に、未来や世界に目を向けていかないといけません―「賢人論。」第17回山海嘉之氏(前編)

「賢人論。」第17回(前編)山海嘉之さんは「サイバーダインの技術によって税収を高め公的費用の支出も抑える。そうすると必然的に、未来や世界に目を向けていかないといけません」と語る。

サイボーグ型ロボットHAL®(Hybrid Assistive Limb®)の開発を手がけた、サイバーダイン設立者の山海嘉之氏。2009年に全国発明表彰21世紀発明賞を受賞。現在は、海外でHAL®医療用(下肢タイプ)を展開させるなど、いまや活躍の場は国内のみならず世界へと広げている。最先端の技術を介護の現場に取り入れることで、さらに高度な仕事ができるのではないかと期待を寄せる山海氏に、話を伺った。

取材・文/篠塚祭典(編集部) 撮影/編集部

介護ロボットというよりも、ロボット技術が介護分野で活躍する日がやって来たといえる

みんなの介護 本日はロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb®)の開発拠点となる『サイバーダイン』まで押しかけさせていただきました。早速ですが、HAL®について教えてください。

山海 HAL®は、身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる世界初のサイボーグ型ロボットです。例えば、人が歩きたいと考えたときには、脳から神経を通じて筋肉に微弱な電気信号が流れているのですが、HAL®にはその信号を読み取り、思い通りに動作して、身体の動きを随意的にアシストするという仕組みが搭載されています。

またHAL®は、人工知能的な情報処理・制御機能を活用することで、動かせず脳・神経系由来の信号が検出できない人に対しても同様に使えるのです。さらに、このような装着者の動作意思に従った支援動作を繰り返すことで脳や神経系の再学習や機能再生を促すと考えられています。つまり、脳が動きを学習していくためのサポートをするんです。

脳や神経系が備えている性質を活かして身体・神経系の機能改善を促進することが可能となるというのは大変興味深いことで、2016年4月からは進行性の神経筋難病疾患に対する医療用HAL®による進行抑制治療に対して医療保険が適用されることになりました

みんなの介護 そもそも介護ロボットを開発するキッカケは何だったのでしょう?

山海 介護ロボットという言葉ですが、実は私自身は現段階では介護ロボットという言葉を使うことはありません。キャッチーなキーワードで使いやすいと思いますが、介護ロボットというと、一般的にどういうイメージをお持ちでしょうか?いわゆる人間の様な形をしたロボットがおじいさんやおばあさんを持ち上げて…という姿を思い浮かべていませんか?

みんなの介護 一般的にそうかもしれませんね。

山海 でもそれはどこかで見たことはありますかと聞けば、恐らく見たことはなく想像したくらい。イメージしかないでしょう。介護ロボットというと、そういうイメージかと思います。HAL®に代表される医療・福祉分野のロボット技術はやっと実社会で活用されはじめたところです。介護分野では、介護支援という観点から黎明期を迎えた段階といえるでしょう。ですから、介護ロボットという表現よりも「ロボット介護機器」とか「介護支援ロボット」くらいの方が良いかもしれませんね。

ロボット技術の入った介護機器という発想の方が、多くの方が受入れやすいのではないかと思っています。たまに「これもロボットなの?」と思うような物もありますが、要は、介護の現場が必要としていて、現場の負担が減るということを目的としていればいいというのが私の考えです。介護ロボットというよりも、ロボット技術が介護分野で活躍する日がやって来たといえるでしょう。

みんなの介護 確かに言葉のイメージは大切ですね。

山海 とても影響力がありますから、そこは大事にしたいところですし、丁寧に理解を深めながら分野開拓をしたいと思っています。

「賢人論。」第17回(前編)山海嘉之さんは「技術というものは、論文を書いておしまいというものではない。どのように実用化させていくかということまで考えなければ」と語る

技術を輸出して収益を上げ、国の税収を高める。さらに納めた税金が必要なところに還元される。その経済サイクルに仕上げていくことは意味がある

山海 そうそう、HAL®を開発したキッカケのお話でしたね。

私たちサイバーダインは、支援を受ける側の方々と支援を提供する側の方々、両者に対して役立つ革新的技術で未来開拓に挑戦しています。人が社会で働くということに対して、治療する側、介護する側、労働する側、そしてそれを受ける側、「すべての人に対して適用できる技術を創り出したい」と、その中で医療・介護分野にフォーカスしてきました。キッカケというより、そのような思いがありました。

みんなの介護 HAL®の特許を拝見してみると、ロボットではなくて“サイボーグ型ロボット”となっていますが。

山海 そうなんです。2009年に公益社団法人発明協会より自動車やIT分野も含め全ての分野の中から著しく優秀と認められ最高の特許との評価をいただきまして、全国発明表彰21世紀発明賞という名誉ある賞をいただきました。正直なところ、“サイボーグ型ロボット技術の発明”という名称で表彰されるなんて、本人が一番びっくりしているんですけど(笑)。

みんなの介護 いつ頃からHAL®の技術を研究開発しはじめたのでしょうか?

山海 1991年頃からですね。

技術というものは研究室の中で作って、論文を書いておしまいにするものではないと常々思っています。世の中でどう実装させ、どのように実用化させていくかということまで考えなければなりません。技術を輸出して、国際社会のなかで収益をあげる。そして国の税収を高め、さらに納めた税金が必要なところに還元されていく。そこまでの経済サイクルに仕上げていくことは意味があると思うんです。

「賢人論。」第16回(前編)山海嘉之さんは「税収は限られている。その収入を介護保険や医療保険でパンクさせてはいけない。だから公的費用の支出を抑える仕組みも同時に考えていく」と語る。

技術を輸出して収益を上げ、国の税収を高める。さらに納めた税金が必要なところに還元される。その経済サイクルに仕上げていくことは意味がある

みんなの介護 経済サイクルが成り立つというところまでお考えなんですね。

山海 経済サイクルというのは保険制度も全部含めての話であって、社会の制度設計とも連動していきます。実際に物がないと現実味のある制度設計はできなくて、ないままだと「絵に描いた餅」になってしまいますからね。実際に動く、つまりちゃんと機能する「モノ」が現れてきたときに、初めて検討に入れるのです。それが介護保険だったり、医療保険だったり、やっといろいろな保険が動き始めるのです。

ただし税金の収入というものは限られているので、その収入を介護保険や医療保険などによってパンクさせてはダメなわけですね。国の税金の財布の中身すらも増やし、さらに革新技術などの投入によって公的費用の支出を抑えていく仕組みも同時に考えていく必要があります。と、なると目の前にあるものにだけ対応するのではなく、必然的に未来や世界に目を向けていかないといけないのです。

介護というキーワードだけでみるのか、医療という分野も巻き込んで考えるのかで話が変わってきます。医療という分野も考えだすと、世界各国の保険制度も考えないといけなくなるわけですね。

みんなの介護 と、いうことはHAL®ももちろん世界での展開を考えている…と?

山海 HAL®腰タイプは、移乗のような介助をするときに腰にかかる負荷を低減するものです。介護分野に限らず重労働の分野でも、腰に負担のかかる厳しい作業は世界中にあります。今後、HAL®の腰タイプは、すでに海外展開している医療用HAL®と同様に世界展開していきます。

HAL®医療用下肢タイプ(欧州モデル)は、CE マーキング[CE 0197]を取得していて、ヨーロッパのEU全域で医療機器として認証され、自由に流通・販売できます。また、ISO 13485(医療機器品質マネジメントシステムの国際標準規格)認証を患者の機能改善治療を行うロボット医療機器の設計開発・製造・販売業者としては、世界で初めて取得しています。

ドイツでは、この医療用HAL®医療用(下肢タイプ)の脊髄損傷患者などへの治療に対して既に公的労災保険が適用されていて、常駐型の介護が必要な患者の自立度がHAL®治療によって向上し、一人でトイレなどに移動できるようになり巡回型の介護で済むまでになるという、患者さんにも病院にも保険支払機関にもメリットのある運用が始まっています。さらに昨年、公的医療保険適用の申請をしています。承認されれば、公的な医療保険を適用させてHAL®を使った治療ができるようになります。

みんなの介護 それは承認が待ち遠しいですね。

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