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日本人横綱が生まれない理由をおカネの観点から考える。 - 多田稔 中小企業診断士

9月11日から、大相撲秋場所が両国国技館で始まります。今場所の興味は、何といっても大関・稀勢の里の横綱昇進が成るかどうかでしょう。もし綱取りに成功すれば、三代目若乃花以来18年ぶりの日本出身横綱の誕生となります。

それにしても、18年も日本出身の横綱が出ていないというのは、やはり寂しい限りです。モンゴル・東欧勢を中心とした外国出身力士の台頭と、日本出身力士の退潮についてはいろいろな意見があるでしょうが、今日は待遇や財務といった、おカネの側面から考察を加えてみましょう。

■稀勢の里の年収は“スター力士”にふさわしいか?


まずは力士の待遇面を考えます。モデルケースとして、今場所の主役・稀勢の里の年収がどれくらいか試算してみましょう。

力士の収入は、「給与」「懸賞金」「褒賞金」の3種類に大別できます。それぞれについて説明するとともに、稀勢の里の場合の金額を計算してみます。なお、説明の記述と算定基礎の数字については、慶応義塾大学商学部教授・中島隆信氏の著書『大相撲の経済学』を参照しています。

「給与」:文字通り力士の月給のことです。大関の給与月額は235万円で、賞与が2か月分加算されるとすれば、235万円×14カ月で3,290万円となります。

「懸賞金」:企業などが取組ごとに懸ける懸賞です。土俵上で呼出しさんが懸賞旗を持って回る姿は相撲中継でおなじみですね。

日本相撲協会のホームページによると、懸賞1本の金額は62,000円です。ここから手数料として協会が5,300円を取り、差額の56,700円が勝ち力士の獲得金額となります。ただし、巷間言われるところでは、このうちの26,700円は納税準備金の名目で協会が預かるそうですので、力士の手取りは3万円になります。
 
日刊スポーツのデータによると、先場所(名古屋場所)の稀勢の里の懸賞獲得本数は300本です。これが年6場所続き、幕内昇進後の勝率(6割1分1厘)と同じ確率で懸賞金を獲得できると仮定すると、年間の獲得懸賞金は、300本×6場所×0.611×3万円で、約3,300万円となります。

「褒賞金」:これは大相撲独特の給与システムで、過去の戦績をポイント化して給与に反映するものです。これにより、若い力士には努力するインセンティブを、ベテラン力士には番付の下降に伴う急激な収入の低下を緩和する効果を与えています。

具体的には、「勝ち越し数1つ0.5円」「金星1つ10円」「幕内優勝30円(全勝優勝なら50円)」というように過去の戦績を加算していき、この金額を4,000倍した額を十両以上の力士に限って年6回の本場所ごとに支給します。

稀勢の里の場合、生涯戦績728勝451敗で勝ち越し数277、金星3個、優勝ゼロですから、年間褒賞金総額は、(277×0.5円+3×10円+0)×4,000×6場所で404万円となります。

以上を合算すると3,290万円+3,300万円+404万円=6,994万円となります。横綱昇進を目前にしたスター大関の年収は、他のプロスポーツで一流の目安とされる1億円よりはるかに低いのです。

モンゴルや東欧のような日本より経済力が弱い国の若者にとっては、体ひとつで数千万円のカネを稼げることは魅力的かもしれません。しかし、日本で体が大きく、運動能力に恵まれている若者には、ほかにも選択肢がありそうです。

■相撲協会の“懐具合”を見る


力士が意外と金銭面で恵まれていないことは分かりました。しかし、待遇改善が必要だとして、現在の相撲協会の財務力はそれに対応できるのでしょうか?

日本相撲協会が公表している決算報告を見ると、一般企業の当期純利益にあたる当期一般正味財産増減額は、昨年度こそ2億円強の黒字ですが、その前は2期連続1億円の赤字となっています。

収支が逼迫している最大の要因は、人件費が大きいことです。昨年度は経常収益114億6千万円に対して人件費支出は64億9千万円と、人件費率は約57%に達します。

力士の給与が低いのに人件費が増大する理由は、相撲協会の構成員数が他の興行団体と比べて突出して多いからです。力士総数652人に加え、親方衆、行司、呼出し、床山といった裏方さんまで合わせた数は907人で、この人数で114億円というパイを分け合うことになります。1人あたりの経常収益は1,263万円と、興行団全企業の平均1人当たり売上高8,689万円に比べ、約7分の1の少なさです。

■人員最適化+新規事業で待遇改善を目指すべし


ここまで見てきて、力士の金銭面での待遇改善には2つの方向性が考えられます。人件費の削減と経常収益の増加です。

そのために、私は、力士数と部屋数の削減は真剣に議論すべきであると考えます。そして、部屋数の減少で生じる余剰人員を新規事業で吸収するという施策が必要であると考えます。

現状、力士を引退して親方になる人は相撲部屋で後進の指導に当たるのが既定路線になっています。でも中には「人を教えるなんてガラじゃない。もっと違うことで協会に貢献したい」と思う人だっているはずです。相撲界には独特のトレーニング法やちゃんこ鍋のような食文化、歴史的要素など、事業化のシーズがたくさんあります。最近のお相撲さんは高学歴の人も増えていますから、独自のアイデアや商才を花開かせて事業拡大につなげられる人材を発掘できるかもしれません。

いずれにせよ、相撲協会は待遇面を含め、日本の若者が魅力を感じるような環境整備に努めなければ、稀勢の里以降も日本人横綱候補が登場するまでに時間がかかる可能性は高いと思います。

【参考記事】
■シン・ゴジラでビルを破壊された三菱地所のBCPを勝手に考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49222132-20160802.html
■『さんまのまんま』終了で考える、テレビ局の苦境と明石家さんまのこれから。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49277606-20160810.html
■幻の“SMAP子会社化”スキームを今さらながら考える。 (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49326386-20160817.html
■PCデポ高額請求問題の背景を財務面から読み解く。(多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49372274-20160823.html
■有機ELをめぐる戦い、ジャパンディスプレイに「技術流出」を心配する余裕はあるのか? (多田稔 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/49425094-20160830.html

多田稔 中小企業診断士 多田稔中小企業診断士事務所代表

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