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原発過酷事故が起きたとき孤立集落の住民たちは…? - 鈴木耕

今年は、日本に上陸する台風がとても多い。いや、昨年もそんなことを言っていたような気がする。それほど、近年は台風による災害が増えているということか。
 特にひどかったのは、台風10号による岩手県岩泉町の被害。多くの方が亡くなった。高齢者施設では、歩行困難などの障害を持った高齢者たちが、9人も亡くなられた。悲惨というしかない。
 また、厳しい状況におかれているのが、道路の寸断によって孤立した住民たちだ。山間部の集落への交通手段がなく、台風が去って1週間近く経っても、なお数百名の人たちが孤立状態にあるという。現在も、自衛隊や警察のヘリによる懸命な救助活動が続いている。
 日本列島では、急峻な山が海に接している地形が多い。山間部や海岸近くの道路が1本しか通じていない集落が、今回のような災害時には孤立してしまうケースが多発する。

 そんな島国に林立する原子力発電所。
 考えてみてほしい。原発がシビアアクシデント(過酷事故)に見舞われるのはどんな場合かを。福島第一原発の、あの大事故を思い起こせば、すぐに分かるはずだ。
 原発は、実はとても脆弱な構造物だ。設計上の問題や設備の老朽化、使用機器の劣化、さらには核燃料そのものの不具合など、事故につながる要因は数多い。そして何よりも深刻なのは、機器の取り付け時の作業員のミスや、運転時の職員の操作ミスなどといった人為的な(不可避的な)過失だ。
 それらはとりたてて珍しいものではなく、これまでの原発事故の歴史をたどれば、いくらでも目につく。むろん、原発に限ったことではない。他のさまざまな巨大プラントでも同じことは言えるのだが、ただ、原発事故の場合は他と比較して、その危険性や後世に残す影響が桁違いに大きいというのが、避けられない特徴なのだ。
 これら以外にも事故原因は数々想定されうるが、なんといっても大事故の最大要因となるのは、自然災害の脅威だ。それこそが、福島事故の教訓だったはずだ。

 あの2011年3月11日の「東日本大震災」級の巨大地震が、原発立地地域を襲ったらどうなるか。福島第一原発と違って「陸の孤島」と呼ばれるほど辺鄙な場所に建っている原発も多いのだ。
 地震そのものの揺れによる家屋の崩壊、そして崖や橋の崩落による交通路の遮断。住民の多くが、逃げ場を失って孤立するだろう。道が塞がれたら車は役に立たない。津波が襲えば船は使えない。集落が孤立してしまうケースが続出するのは目に見えている。
 今回の岩手の場合、集落の孤立は1週間にも及んだ。そこで、考えてみてほしい。
 もし、原発の過酷事故がこんな集落の近くで起きたとしたら、住民は放射線量の高い場所に、1週間以上も足止めを食らうという状態に陥る。それはまさに、悲惨な被曝を意味する。高濃度の放射性物質が降りそそぐ中、住民たちは逃げようもなく浴び続けるしかない。
 その期間が長ければ長いほど、放射性障害は確実に出る。がんや心臓病、異常妊娠、その他の疾病が多発するだろう。
 「そんなありもしない想定の話をするな。避難準備はできている。訓練もしているではないか」と、政府や電力会社、もしくは原発再稼働派の人たちは言うだろう。だがそんな言いぐさ、ジョークにもならない。
 つい最近の「原発事故避難訓練」がどんなありさまだったか。四国電力の伊方原発再稼働後、初めて行われた避難訓練が、まさにそのずさんさを表していた。テレビニュースでも報じられていたし、各紙も伝えていたが、例えば東京新聞(9月5日付)はこう書いている。

 愛媛県と同県伊方町は四日、四国電力伊方原発(同町)で地震による緊急事態が発生したと想定し避難訓練を実施した。八月十二日の3号機再稼働後初めての大規模訓練。
 伊方原発は「日本一細長い」とされる佐田岬半島の付け根にあり、重大事故時、原発よりも半島の先端側に住む約四千七百人が孤立する恐れがある。昨年十一月の国の防災訓練の手順を踏まえ、半島部での避難手順を詳細に確認した。(略)
 避難計画では原発の横を通り陸路で内陸側に避難する。内陸側への道路が寸断された際や重大事故時などは、住民はフェリーや海上自衛隊の艦船で対岸の大分県に行く。

 訓練には半島部の住民約四百人と、県や町などの約百人が参加。住民は自家用車やバスなどで半島先端部に集まり、甲状腺被ばくを抑える安定ヨウ素剤に見立てたあめを受け取った。
 その後、バスで近くの三崎港に移動した。フェリーで港内を航行予定だったが、台風12号の影響を考慮し中止した。(略)

 この避難訓練には、実際の住民の10分の1弱が参加した。
 しかし「避難計画では原発の横を通り内陸側に避難する」というのだからムチャクチャだ。現に事故を起こしている原発の横を通れ、というのだ。
 おい、本気かよっ!!!!!  目玉がでんぐり返る。

 けれど、もっと大きな問題は「台風の影響を考慮して、フェリーでの移動は中止した」という点にある。
 仮に、大地震や巨大津波といった自然災害によって原発事故が引き起こされたとすれば、自家用車での移動はほぼ絶望的だし、運よく港に辿り着けたとしても、津波によって港湾機能は破壊されているだろう。機能がかろうじて保たれていたとしても、波が荒ければ船は出せない。それが、今回の訓練の教訓でもあったわけだ。
 つまり、この細長い佐田岬半島に住む人々は、否応なく孤立状態に落ちるということになろう。
 岩泉町の例から見ても、その孤立状態は1週間以上に及ぶかもしれない。もし風が東から西に吹けば、半島全体は放射能雲に覆われる。汚染がひどければ、救援隊でさえ、簡単には近づけない。
 よく知られていることだが、この伊方原発のすぐそばを「中央構造線断層帯」という巨大断層が走っている。まだ記憶に新しい「熊本大地震」のときに、連動して揺れるのではないかと心配された断層帯だ。
 もし中央構造線が巨大地震を起こしたならば、伊方原発に影響がないはずがない。そのとき佐田岬半島はどうなるか。そこに暮らしている人たちはどうすればいいのか。
 「原発で過酷事故が発生した場合、近隣住民のみなさんには申し訳ないが、ひたすら耐えていただくしかありません」と、電力会社や原発容認の立地自治体は言っているとしか思えないのだ。これは伊方原発だけではなく、他の僻地に立地された原発群にも言えることだ。

 我々は、自然が教えてくれていることに、もっと謙虚にならなければならない。台風は毎年のように、列島を襲う。そのたびごとに多くの被害を出し、孤立集落はあとを絶たない。
 なぜ政府や電力会社は、そのことと原発を結びつけて考えようとはしないのだろうか。
 人命は取り戻せないけれど、それでも台風の爪痕はやがて薄れていくだろう。だが原発事故がひとたび起きれば、放射能という悪魔の痕跡は、数十年数百年単位で人々を苦しめ続ける。

 9月5日、三反園訓鹿児島県知事の「川内原発を一時停止して、地震への対応や住民避難計画の実効性の点検をしてほしい」という要請に対して、九州電力は「10月以降の定期点検の際に、通常よりも点検項目を増やす」などとして、一時停止を拒否した。
 点検項目の充実は必要ではあるけれど、実際の住民避難計画などはまだ棚上げの状態だ。
 再稼働には地元合意が必要だが、九電が「地元」として協議対象にしているのは、鹿児島県と原発立地の地元・薩摩川内市だけだ。圧倒的に人数の多い鹿児島市、いちき串木野市、姶良市、日置市、さつま町、阿久根市、出水市、長島町など、原発から30キロ圏内のこれらの市町は、再稼働に際しては意見を言うことすらできない。
 こんな状況の中で、原発の一時停止もせず、定期点検後の再稼働も電力会社の思いのまま。これでは、住民などどこかへ置き忘れてきた、と批判されても仕方ない。

 繰り返すが、台風被害でこれだけの長期間、住民の孤立が解消できなかったことを考えれば、原発事故の際には、孤立住民の被害はまさに「過酷」なものになるだろう。
 救援隊も、原発事故が大きければ大きいほど、現場にはおいそれとは近づけまい。放射線量が高ければ、自らの身の安全すら保障できない。それを命令する上司としても懊悩せざるを得ない。救援は遅れる。
 降りそそぐ放射性物質にさらされながら、じっと半壊の家屋の中に身をひそめなければならない人間の恐怖を想像することができない連中が、原発容認、再稼働を叫ぶのだ。
 想像力を失った人間に未来はないと思う。
 少なくとも、三反園知事の言うように、一時停止しての徹底的検証くらいは、電力会社も応じるべきだし、経産省もそう指導すべきだ。

 ところで、新潟県の泉田裕彦知事の突然の「出馬撤回宣言」が、ぼくにはどうにも理解できない。「陰謀論」に与する気はないが、なにかが裏にあるのではないか、という疑問がどうしても解消できないのだ。
 もう「撤回の撤回」は、ありえないのだろうか?

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