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冨の偏在と符合するオリンピックのメダル獲得数

開催前はあまり関心がなかったリオデジャネイロ五輪だったが、開幕早々、水泳の400メートル個人メドレーで萩野公介選手が金メダルに輝いたことで、急に興味が湧いてきた。以後は日本人選手の結果に一喜一憂する日々だった。これまで何度も見てきたスポーツの祭典ではあるが、毎回、人を惹きつける不思議な魅力があるイベントだ。

仕事の関係もあって、すべての競技をテレビで均等に見たわけではない。だから、公平な評価とは言えないが、個人的に印象に残るのは、萩野選手の金メダル、水泳女子200メートル平泳ぎの金藤理絵選手の金メダル、テニスの錦織圭選手の銅メダル、それに陸上男子400メートルリレーの銀メダルあたりだ。いや、どの競技でも日本選手の健闘には、一人で「ヤッタ」と叫んでいたから、全部に感銘を受けたと言った方が正しいかもしれない。

だが、最も印象深い場面は何だったかと問われれば、女子重量挙げ48キロ級で銅メダルに輝いた三宅宏美選手が、試合後に愛用のバーベルに抱擁したシーンを挙げる。三宅選手がハグしたバーベルは、カラフルな色ではあったが、武骨な用具である。しかし、三宅選手にとっては、最良のパートナーであり、見事に上がってくれた相棒に感謝したくなる気持ちは良くわかる。思ったように試合が運ばないと、用具を蹴飛ばしたりする選手がたまにいる。しかし、用具は戦友であり、大切にしないと良い結果は生まれない。三宅選手が逆転の銅メダルを獲得したのも、友を大切にしてきた良き心がけの賜物なのだろう。

パートナーを大切にする心が重要なことは、スポーツだけではない。私が現役記者の頃、先輩から「海外特派員として赴任した国の悪口をいう人は、その国でろくな仕事をしてこなかった証左だ」と教わった。それがどんな国であっても、心血を込めて働いた国には情が移るのが人情であり、自分の仕事が思うように捗らなかった責任を相手国のせいにしてはならないという事だ。これは青年海外協力隊、NGOなど開発の世界で働く人たちにも言える。厳しい職場や生活環境の中で頑張り抜いた人ほど任国を褒め、帰任後も現地の情勢に思いを馳せる。

オリンピック終了後には、国別メダル獲得数というデータが残る。日本は、金12、銀8、銅21、合計41メダルという五輪史上最高の成績だった。金メダル獲得数では、全参加国・地域中6位、メダル獲得総数では7位だ。日本が上位に位置する順位表を満足しながら眺めていて、ふと、気になったのは、メダルをたくさん獲ったのは、豊かな国が多いという事だ。先進国の規定はいろいろあるが、金持ちクラブとされる経済協力開発機構(OECD)加盟国と、加盟申請国であるロシア、加盟が有望視されるキー・パートナー国の中国の2か国を加え、これを仮に裕福国グループとすると、金メダル獲得のベスト12はすべてこのグループに占拠される。現時点において豊かな国とは言えない途上国の最上位は、15位のケニアと16位のジャマイカ(共に金6個、銀6個のケニアが上位)で、17位のクロアチア、18位のキューバ(共に金5個、銀3個のクロアチアが上位)を入れても、途上国が獲得した金メダル総数は、計61個しかない。一方、裕福国グループの金メダル合計は242個だから、金メダルは偏った国に集中しているとしか言いようがない。今回で11回目の参加を果たしたリビア、17回目のミャンマー、12回目のニカラグアなどは、リオでも1つのメダルも獲れなかった。メダル獲得地図が、近年、貧富の格差が拡大する世界情勢と合致することが気に懸かる。

スポーツは世界の誰にも平等の機会があるというイメージがあるが、トップクラスで戦えるようになるには、莫大な金がかかるのが事実だ。だいぶ前の話になるが、宿泊していたガーナ・アクラのホテルの小さなプールで、一人で練習をしていた若者に出会ったことがある。「この国にはまともなプールはここしかない。ホテルにお願いして泳がせてもらっている」と、客に遠慮しながら端っこを黙々と泳いでいた。整った施設、高価な用具、優秀な指導者等の中で技を鍛えるには、それを支える経済力が必須だ。今回の途上国のメダリストの中には、運よく先進国の整備された環境の中で練習を重ねた選手も数多く、純粋に途上国選手とは呼び難いアスリートもいる。

競技のレベルが高度になればなるほど、今後、こうした傾向は高まるだろう。オリンピック憲章は、「スポーツの実践は一つの人権である。何人もその求めるところに従ってスポーツを行う可能性を持たなければならない」と謳っている。しかし、このままでは憲章に反する方向に向かうこと必至だ。

「五輪のメダルは金次第」になってはならぬ。4年後の東京オリンピックは、日本のメダル獲得数増加を目指すだけでなく、筋力ならぬ金力オリンピックという悪しき流れに歯止めをかける理念が欲しい。JICAは青年海外協力隊員などが途上国で積極的に進めているスポーツ指導のレベルの向上と規模を拡大、東京で多くの途上国選手がメダル争いに加わるように協力すべきだ。

ブルンジはリオ五輪陸上女子800メートルで、20年ぶりのメダルを獲得した。たった一つのメダルだったが、国民を大いに元気づけたと聞く。オリンピックのメダルは、開発援助を円滑に進める良薬にもなるはずだ。

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