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国籍を選ばなければいけないとき

■二重国籍が当たり前の香港

今から20年ほど前、香港で暮らしていたときのこと。ある機会に一人の日本人女性に会いました。当時、30代後半から40代くらい。自由業の方でしたが、香港にかなり長期間暮らされていて、しかもカナダのパスポートを持っているというので、とても驚いたことを覚えています。

ちょうどその時期は香港がイギリスから中国に返還される直前で、たいへんな数の香港人が、イギリスやカナダ、オーストラリアや南アフリカなどに移住してそれぞれの国の「パスポート」を取得していました。イギリスは返還前に大盤振る舞いで香港人にイギリス・パスポートを発行していましたが、カナダ、オーストラリア、南アフリカなど一部のコモンウェルスの国(旧英植民地)では、一定期間移住して暮らせばパスポートが発行されました。そのため、数年それらの国で暮らしてから香港に戻ってきたり、97年直前に引っ越していったりということが日常茶飯事だったのです。

パスポートを持っているということはイコール、その国の国籍をもっているということです。ビザなしで居住することはもちろん、投票もできますし、政治家として立候補もできます。何よりも、世界中どこに行ってもそのパスポートを発行した国が守ってくれるということがパスポート保持の最大のメリットです。日本人が事故や犯罪などに巻き込まれたときに真っ先に安否確認をするのは各国の大使館の義務ですし、昨年のネパール地震の際にはシンガポール政府は航空機をチャーターして希望するシンガポール人を全員、帰国させました。

中国返還前の香港人が将来を不安に思い「何が起こっても自分と家族を守ってくれる国の国籍がほしい」と考え、仕事を辞めるなど相応の覚悟で移住した気持はよくわかります。実際、昨年にはスウェーデン国籍の香港書店主がタイで中国政府によって拉致され、現在も明らかに冤罪とわかる罪で拘束されていますが、スウェーデン政府は現在も粘り強く中国政府と交渉を続けているようです。

このように二重国籍(多重国籍も含む)は香港ではごくごく普通のことなのですが、香港に限らず、ヨーロッパや中南米を中心に、他重国籍者を認めている国は決して少なくありません。

■抜け道だらけの二重国籍禁止

ただ、日本の法律では成人してからの二重国籍は法律で認められていないので、冒頭の女性の発言は非常にショックでした。

彼女の話によると、カナダでパスポートを申請するときに日本の国籍を放棄するかどうかは確認されず、日本政府にも自ら届け出をしなければわからないため、実際に多くの二重国籍者がいるということでした。確かに、パスポートを取得した国から直接連絡がいかなければ日本政府にはわかりませんし、出生地や外国人との婚姻により20歳までは認められている二重国籍でも、22歳までに国籍離脱の届け出をしなければ「自動的に日本国籍を選択した」とみなされるとありますので、やはり二重国籍状態を続けることは可能です。罰則もありません。

ペルーのフジモリ元大統領が2000年に日本の事実上の亡命をしたとき、日本政府はフジモリ元大統領を日本国籍保持者として認め、ペルー政府からの身柄引き渡し要求をすべて拒否しました。これも「国民を守る」という観点から行われたことですが、もしもフジモリ元大統領を二重国籍者として日本国籍をはく奪していたら、とっくにペルーに強制送還されていたことでしょう。

また、シンガポール人と結婚してこちらで暮らしている日本人女性と将来の子供の国籍について話すことがありますが、女の子のお母さんはどちらを選んでもいいという人が多く、実際に日本大使館に届け出をしないでずっと二重国籍のままの人も少なからずいるようです。

シンガポールは国籍に対しては非常に厳しく、シンガポール国籍を放棄した場合は、永住権が与えられず、ビザも一般の外国人と同じ扱いになります。その元にあるのは「教育や福祉をはじめ、国にはコストをかけて国民の生活を守る義務があるのだから、国民も国に対して義務を果たし、国に貢献すべき」という精神です。

■国民の義務と国に貢献するということ

ただし、シンガポールと日本の二重国籍の男の子をもつ日本人の母親は、この問題についてまた違う考えをもっています。兵役があるからです。

シンガポール政府は皆兵制度をとっており、17歳になると男子は全員徴兵されます。また、2年間の兵役義務を終えてもその後、13年間は予備役となり、毎年訓練に戻らなければなりません。これがシンガポール政府の考える「国民の義務」なのです。実際に国連軍に参加するなどで海外に派遣されるのは職業軍人ですので、徴兵されたらすぐに命の危険があるわけではありませんが、有事の際にはシンガポール国籍をもつ兵役年齢にある男子は全員、軍務につくというのがこの国では当たり前で、その事実を前にしたとき非常に悩み「やはり日本国籍を取らせたい」と思う日本人母も少なからずいるようです。

私自身の子供は女の子ですし、シンガポール国籍しかありませんので悩む必要はありませんが、男の子をもつ母親としては当然の苦しみでしょう。ただ個人的には「国民としての権利を行使するには、きちんと国民としての義務を果たすべき」というシンガポール政府の断固とした姿勢には好感をもちます。皆兵制に賛成かどうかはさておき、納税や選挙権の行使をはじめ国民としての義務をしっかりと果たし、国家に貢献して力を合わせてよりよい国を作って行こうという精神に健全な民主主義を感じるからです。

■政治家は国民のために自らの人生を捧げてほしい

現在、民主党党首選に立候補した蓮舫氏の二重国籍疑惑が話題になっていますが、この産経新聞のインタビューを読む限り、私見ですが、蓮舫さんが台湾で国籍放棄の手続きをしているのかどうかはかなり疑わしいのではないかと思います。

いっぽう、彼女の気持ちは、海外在住者として痛いほどよくわかります。その国に根を下ろして暮らしていこうと決意しても、やはり自分の出自を考えれば、できるものなら国籍を残しておきたいという気持ちは、自分の心の故郷を捨てたくない、帰れる場所を確保しておきたいという、人間なら誰しももっているものではないかと思うからです。また、上述のフジモリ元大統領やカナダ・パスポート保持者の日本人女性の例にもある通り、二重国籍問題はグレーゾーンが広く、これをすぐさま法律違反として弾劾するのもどうかと思います。

しかしやはり最終的には、政治家として、その国の将来を決定していくという仕事を職業として選んだのならば、自らの郷愁に決別し、国民の生活を守るためにすべてを捧げてほしいと、一国民として思います。

厳しい決断ではありますが、蓮舫さんには、ぜひこの問題をはっきりとさせて、新たな気持ちで日本国民のために全力を尽くして働く覚悟を決めてもらいたいと願っています。

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