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ローカル記事を切り捨てるNYタイムズ

ニューヨークタイムズ(NYT):言わずと知れた世界で最も有名な新聞ブランドの一つでしょう。しかし、基本的にはニューヨーク市(NYC)と、隣接するニュージャージー州、コネチカット州を含む首都圏のローカル紙です。

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そのNYTの日曜版から、NYC以外の首都圏各地の劇場公演、レストラン、ギャラリーを批評、紹介する文化的な記事が一斉に消えたそうです。私が実際に確認したわけではありませんが、Deadline Hollywoodの記事によると、先月28日付日曜版からだそうです。

何らかの都合でたまたま掲載見送りになったわけではありません。Baquet編集局長とこのコンテンツを担当してきた首都圏部長の決断によるものです。これまで長く記事作りに協力してきたフリーランスの記者、批評家全員が仕事を失いました。「2ダース以上」と言いますから30人近くに達するのでしょう。

これに先立って、NYTのロサンゼルス支局では、8人中、3人が早期退職割増(buyout)受け入れて、支局を去りました。支局長は来年に本の執筆のために休暇を取るのでスタッフは半減することになりますが、補充の予定はないようです。

そして、NYT編集局は、人手と時間のかかる火事や事件事故、訴訟、裁判などの記事は大幅に減らすという方針を決めたそうです。日本のローカル紙や全国紙の地域版では考えられないことです。

例えば、東京の下町で、母親がちょっと外出中に火事になって、幼児2人が焼け死んだ場合、日本の新聞なら、他のニュースの兼ね合いをありますが、社会面トップか準トップの扱いで大々的に報じるでしょう。

NYTでも同じでした。4月にNYCの下町ともいうべきブロンクス地区で、母親が通りの向かいのコインランドリーで衣類を畳んでいるうちにアパートの自室が火事になり、2人の幼児が焼死しました。

これを知った首都圏部(日本で言えば社会部)記者が現場に向かい、同部の編集者(日本だとデスクか?)も現場に行き、連名でそこそこの長さの記事にしました。

ところが、これが社内で議論になりました。「なんで小さな火事に2人も記者を取材に出すのだ?」ということです。

中立的な立場でNYT記事の有り様を社内で取材し、読者に説明するPublic EditorのLiz Spaydさんが8月6日付の<A ‘New York’ Paper Takes a Look in the Mirror>というブログ記事で経緯と結論を紹介しています。

かいつまんで言うと、紙の部数減、広告収入減を補うべき、NYTはデジタル版で有料の海外読者を開発すべく向こう3年で5千万ドルを投資する野心的な計画を公表したばかりなのに、編集局は北京やロンドンにいる海外読者に何の関心も呼ばない記事の取材に今後も記者を割くべきなのか?という社内議論が巻き起こり、結局、小さな火事などはNYTの読者が求めるものではないという結論に達したということです。

以後、首都圏部の配置に関して大掛かりな改変が始まっていて、事件事故、裁判などの記事は大幅に減らすことになります。一日中、法廷で裁判の様子を取材したり、警察署に詰めている記者はいなくなるということです。もちろん、消防車を追いかけて現場に行く記者もいなくなります。

首都圏部長は、それに代わって、「NYCの枠を超えて世界的に共感を得るインパクトのある記事を探す」などとし、調査報道などを強化する考えを示しています。さらに「小さなことを全て取材するというのは、読者に対して我々はご近所さんです、というフリをすることだ。しかし、殆どの読者は我々がご近所から撤退したことを知っている」などとローカルな事件事故などの記事削減の背景をSpaydさんに説明したとのことです。

どうやら、ローカルな劇場公演、ギャラリー、レストランの批評・紹介という文化的な記事の廃止もこの判断に基づく流れの中でのことだったのですね。

ですが、冒頭に紹介したDeadlineの記事では、「首都圏2020万人の半分が郊外に住んでいる。そこでは営利も非営利ビジネスもみんなNYTの批評、紹介を頼りにしてきた。住民たちは、日曜版が届けば、真っ先にローカルページを開いていた。何百万人もがその権威を失う」などと書き、「NYTにご近所さんでいて欲しい人」が多いことを強調して、首都圏部長の見方に異議を唱えています。

また、郊外にはNYCの文化エリートが多数、住んでいることを挙げ、その一人に「なぜ、自分の読者を減らそうとするのか?不可解だ。金か?」と語らせています。

さらに、ローカルな演劇やギャラリーなどを担当してきた文化部の記者は、ウェブ向け原稿作りの速成コースの受講を迫られていて、配置換えや削減に不安を募らせているということです。

このように、米国の新聞業界に比べれば、まだまだましな日本から見ると、度重なる人減らしに加え、なんともドラスティックな編集改革が進んでいるように見えます。そして、それは、デジタル時代の新聞の報道内容を根本的に考え直すヒントを提供してくれている、と言えるかもしれません。

ただし、Public EditorのSpaydさんは先のブログをこう締めくくっています。
「首都圏部長は、改革は人減らしや経費節約のためではないという。しかし、私は、編集局全体に亘る戦略的、財政的命令がこの改革を不可避にしたのではないかと疑っている。その是非に関して言えば、この計画は賢明で必要なものであり、機能するチャンスがある。だが、間違って実行されれば、破滅するきっかけになることを私は恐れる」

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