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図書館はネットより有効という仮説

私は現在「ドワンゴ」というIT企業に勤めている。私はもともとテレビ屋で2年前からのIT業界新参者だが、先輩幹部社員Aからこんな興味深い話を聞いた。A氏はこの業界で百戦錬磨のIT文化・技術に精通した社員の一人である。実はこの夏休み、A氏は突然の大量下血に襲われ大病を克服した。以下A氏の告白をご許可を得て抜粋して紹介する。

「社会人となって以降、1ヶ月以上お酒を一滴も飲まないという体験は今回が初めて。お酒を飲まないと夜がとても暇になるので、相変わらず、愛車で夜のドライブを楽しんでいるのはもちろんだけど、図書館通いを始めている。東京には、いろんな面白い図書館があって、夜の10時頃までやっている図書館ってけっこうある。日比谷図書館には、オシャレなカフェや、万世のヒレカツ定食などが食べられる綺麗なレストランもある。

ネットだと絶対閲覧しないような本や資料がてんこ盛りにあって、最近読んだ中で面白かったのは、納豆菌の詳しい解説本(笑)。納豆菌って、マイナス200度でも死なないし、100度の環境でも死なないし、なんと真空の中でも死なない。もちろん宇宙空間の中に、放り出されても生きているので、通の人の間では納豆菌はエイリアンと呼ばれているらしい。僕は実際に、この納豆菌を手に入れて、藁(わら)も買ってきて、自作で納豆を作ってみた。思ってたより簡単でしかもおいしくできたことに感動しましたよ(笑)。

統計資料なんかも、誰が何のために使うのかよくわからないものがたくさんあって、これを読むのが結構楽しい。借りてきても図書館の本って結局読まないまま返却することが多いんだけど、

閲覧席や館内のカフェとかだと、何故かすごく集中して本が読める。そんなわけで、お酒を飲みに行くきっかけを、失い続けている、今日この頃です(笑)

この図書館ネタは若い世代やサラリーマンにはあんまり共感されないとは思いますが「今のネットに飽き始めてる」人は着実に増えてきてると思うんですね。 もちろん、我々はどうにかしないといけないんですが、ゲームでもやるものがない。動画でも見るものがない。 SNSの投稿も減ってきたし、 みたいな。実用ツールとしては便利だけど、なんか面白くないし、次にすごく面白いものが出てくるまでの間の過渡期であると。これはきっと揺り戻し現象が起こったりしますよね。

例えば、ネットの「ランキング」なんかも世界を狭めている存在なんじゃないかと思いますね。ユーザーは飛び付くけど、選択肢を狭め、多様性、発見する喜びを奪い続けてきた。

一方の図書館。民間だとあんなに巨大な施設に誰が読むかもよくわからない本を大量にストックしておくとか絶対できませんしね。

売れ筋とかとまったく関係なく、大量にコンテンツを保持し続けられるって考えてみたら、図書館て、すごい存在ですよね(笑)。

やっぱり、本って面白いなとか、よく読むと新聞って面白いなとか。 ネットってユーザーが興味があるものとの出会いは簡単だけど、興味がないものとの出会いに関しては絶望的ですよね。 新鮮さとか、ハプニング的な出会いってなかなか起こらないから世界観がどんどん狭くなって、結局飽きてきてしまう。 図書館ってその真逆で、興味のないものとの新鮮な出会いに満ち溢れてるんですね(笑) タダだから、興味がない上に面白くなくても、特にストレス感じないし、逆に興味がなかったのに、面白いと感じられたら、世界観が広がった感じがあるし、得した感が強いですね。 興味がないものとの出会いって、基本的には多くの人にとってそれこそ興味がない話なんでしょうけど、 実はもう今のネットって飽きてるのではないか?とかアプリなんて全然ダウンロードもしてないし、使ってるアプリなんて三つぐらいなんだよね、ぶっちゃけ・・・みたいな人たちに送る最初の場所としては、図書館はふさわしいんじゃないかと思いますね。 まさに、僕はそう考えて、図書館に行き始めましたから(笑)。 」

まさに、虚を突かれた感じのIT企業幹部の情報文化論である。

そう言えば、ドワンゴには31歳なのに戦前の日本映画・外国映画に異常に詳しいK君もいる。私も映画観賞にのめり込んだ人間だが、彼の知識量は半端ではない。どうしてそんなに精通してるのか聞いてみた。

「子供の頃から好きでしたが、大学が慶応でその図書館に大きな映画ライブラリーがあって、毎日観ていました。日本映画と言えば、黒澤明・小津安二郎・木下恵介・溝口健二・成瀬巳喜男と言うのが代表的ですが、ちょっと本で調べて行くともうまさに迷宮のようで内田吐夢・小林正樹・川島雄三・山中貞夫など見まくりましたね。元祖「ゴジラ」の本多猪四郎とかの怪獣もの以外とかも凄い。やはり黄金期の映画を見て行くと時間と手間と知恵と芸があり『人の心を動かす原理』とかが勉強になり、コンテンツの質が深くて高くて圧倒されます。・・・若い人が見ないのは導く人がいないからでしょう。西暦2000年前の特に戦前戦後の内外映画は極上コンテンツの海なのに、勿体ないと思います。」

一方、不肖私も本屋にはよく行く。しかし、本屋にもよるが入口に売れ筋ランキングの本だけを置いてある大型書店が多い。どの本屋に行っても同じ本が置いてあるので、私は変わった選別をしているこだわりの本屋や古本屋に行くことにしている。家ではアマゾン・ランキングも一応見るが、A氏の様にネットによるランキングは世界を狭くし、新しい知恵の泉にはなりにくい。

実は私は今年の秋・冬出版予定の2冊目の拙著の第4稿について担当編集者と熾烈な打ち合わせをしている。私は全ての要素を満載し上手く配列したつもりだったが、やや客観性に欠く少々整合性の無い文章であった。・・・結果「バッサリの大手術」となったが、全てプロの編集者の納得の提言。これが、ほとんど直しの入らない書きっぱなしのブログとの違いだ。書き手がいて読者がいてしかもそれは無料ではなく有料の著作物である。手間のかかり方が全く違うし、その著書の最初の読者がプロの編集者である。しかも調べたり、裏を取ったり、が大変だ。

それにしても、「電子出版になると著者とプラットフォームが直結し、編集者や出版社がいらなくなる。なんだったら編集作業は人工知能にまかせればいい。」なんて言ってるのは誰だ?それは出版物に見えるただのブログではないか。質は間違いなく落ちて行くし工業製品の様に文化は製造できないのだ。・・・と怒ってもしょうがないのだが。

と言う訳でA氏の図書館通いをきっかけに「インターネット文化と出版文化と情報文化論」について考えてみた。そう、人生を変えてしまう程のたまたまの出会いや気付きはランキングシステムのなかに無いのだ。かつて寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と唱えたが、いまで言うと「ネットを捨て、図書館という情報の海で泳げ」という事になるのか?

この文章、IT企業勤務者としてはいささか物議を醸すかも知れないが、各出版社・編集担当者様。ご依頼があれば学者や専門家ではなくネットの現場から見た『新旧・未来の情報文化論』なるものをA氏と共著で書きますよ。・・・きっと弊社の川上量生会長も『それはおもしろいねぇ』と言ってくれるでしょう。(笑)

(了)

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