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築地市場の豊洲移転延期を土壌汚染という観点から考えてみる

 築地市場の豊洲新市場への移転、小池知事が延期することを明らかにしたのはご承知のとおり。「なにを今さら」といった声が聞こえているが、今回の延期決定の背景、移転は一度決まったものではあるが、賛否両論あるところ、決まったことだからとりあえず進めましょうというのではなく、自らの都政においてしっかり検証しようという趣旨であろう。土壌汚染や移転費用、移転で廃業せざるをえなくなる事業者の処遇等、まだまだ問題は山積している。今回の延期・検証が、関係者や都民の納得を得られて、今後の必要な対策にもつながるのだとしたら、なし崩しで進めるよりも、誰にとってもより良いのではないかと思う。

 さて、豊洲新市場への移転問題、特に費用問題と土壌汚染問題を中心に考えられることが多い。(もちろん、水産物と青果物の卸売市場経由率は低いとは言えないものの減少傾向にあり、仲卸事業者を中心に経営が苦しくなっているといった課題はあるが、「直接取引が増えてきているようだから、卸売市場は〜」といったような憶測に基づく議論が巷では多いところ、実はこうだ、こんな動きがあるのだといった話をし始めると、それだけでいっぱいになってしまうし、大っぴらに書けない内容もあるので、ここでは扱わない。)

 費用問題については、東日本大震災からの復旧・復興事業が膨大なものとなり、資材価格、人件費等を押し上げたところに、景気対策を中心とした全国的な公共事業の増大で資材価格、人件費等が高騰したことが、費用が大きくなった理由の一つと考えられるが、それにしても費用がかかり過ぎではないか?というのが、小池知事をして移転延期に至らしめた一つの背景だろう。豊洲新市場は、現在の築地市場と比べて機能は高度化されているようであり、そのための機器類や設備類にお金がかかったといったことも想定されるが、そうしたものの価格が妥当なものであったのかといった点も、小池知事による検証の対象となるのだろう。(なお、各地の卸売市場の活性化において、機能の高度化、そのための設備等の高度化は今や当たり前と言っていいと思う。)

 それよりも都民の関心が高いのが、土壌汚染問題であろう。食の安全に直結する問題であるし、築地ブランドの今後に影響しかねない話でもあるので、マスメディア等でも取り上げられることが多い。豊洲新市場の敷地は戦後の埋立地であり、元々東京ガスのガス製造工場が置かれていた。その操業の過程で出されたベンゼン、シアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロム及びカドミウムにより土壌が汚染されており、それが都による土地取得後に発見されたというもの。こうした過去に行われた工場等の操業による汚染が、後から発見されるといった土壌汚染問題は、十数年前ぐらいから表面化し、そうしたことを受けて土壌汚染対策法が立法されるに至ったわけであるが、工場跡地へのマンション建設に伴うものを中心に土壌汚染を巡る公害紛争が多発した。

 総務省の外局で公害等調整員会(環境紛争の裁判所のような組織)事務局で法令担当の係長をしていた筆者は、こうした土壌汚染を巡る紛争が増加することが予想されたことから、当時は情報収集・分析と制度的対応の検討に努めていたが、その経験から土壌汚染を巡る紛争には、マンション紛争を例にとれば、①マンション建設後に敷地内から汚染物質が噴き出したり染み出したりして、住民と開発事業者の間で争いとなったもの、②ボウリング調査等で土壌が汚染されていることが明らかになって、こちらも住民と開発事業者の間で争いとなったもの、③マンションが工場跡地に建てられていることから土壌が汚染されているに違いないという考えから、対策を施したと主張する開発事業者と、住民に加え周辺住民との間で争いとなったもの、大まかに3つの類型があると言える。(もちろん他の類型もある。例えば、相続税の物納として国庫に納められた土地から、これが払い下げられた後に土壌汚染が見つかって、購入者、財務省、納税者による紛争となったものもある。)

 こうした事例に共通するのは、土壌汚染が後から見つかったことにより、住民(周辺住民を含む。)の間に、開発事業者等に対する強い不信感が生まれるということであり、その結果、どんな対策をしてもなかなか納得が得られないか、何をやっても誤魔化している、騙していると決めつけられてしまうといったことが多く見られた。確かに開発事業者からすれば、自らの事業活動によって生じた汚染ではないにも関わらず対策を施さなければならなくなるのであれば、極力費用は抑えたいと考えるのは自然であるし、土壌汚染対策の専門的知見を持っているわけではないので、専門事業者から「これで大丈夫」と言われればそれを信じるしかない。住民にしても事情は同じで、「本当に大丈夫?」という不安の拡大は際限がない。(特に土壌汚染対策法施行当時は、対策費用は「言い値」とまで言われていた。)

 今回の豊洲新市場を巡る土壌汚染問題、豊洲の土壌汚染については、既に対策がとられているとされているが、それが不十分だというのが反対派の主張の一つであり、都民の不安もそこに起因するところが大きいようである。そうであれば、過去の土壌汚染紛争を参考にしながら考えれば、有効な対策を施すことももちろん重要であるが、より詳細な調査を行うとともに、信頼の醸成とそのための徹底した分かりやすい情報公開が重要であり、それが問題解決の鍵となるのではないかと思う。(情報公開の徹底は、小池都政の一丁目一番地であると言ってもいい。)

 そもそも、問題の当事者である東京都は、平成13年に公害防止条例を改正して、全国で初めて開発事業者に対して土壌汚染の調査や早期処理を義務付けた、土壌汚染対策に関しては先進的な地公体である。したがって、変に不信感を煽るのではなく、信頼に基づき一緒に対策を考えられるテーブル、機会を設けることができるか、小池都知事と本件に関するブレーン達に課された第一のミッションであろう。

 さて、その上で築地市場の豊洲移転をどうすべきは、これは結果次第だが、今の場所での建替や改修が困難ということであれば、現実的な解として、最終的には移転ということになるような気がするが、さて、小池知事のご決断やいかに。

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