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高齢者ホーム「楽ん楽ん(らんらん)」の全滅で思ったこと

台風10号による豪雨で、岩手県岩泉町の高齢者グループホームに入居していた高齢者9名が、全員死亡したと報じられた。施設は平屋建てで川の近くに立地し、急激な出水で逃げ出すひまもなく、多くは建物の中で死亡しているのが発見されたという。すぐ近くには頑丈な2階建ての施設もあったのだが、そこへ移動する時間もなかったのだろう。町は事前の避難勧告を出していなかった。施設には女性の職員が1人いたが、1人の高齢者を抱えていたものの救命はできず、結局、職員だけが生存できた。写真を見ると屋根の部分は高いから、屋内に水没しない部分がわずかに残ったのではないかと思われる。

 新聞に出ている見取り図によると、9人はそれぞれに個室を持ち、共通のキッチン・リビングルームで暮らしていたようだ。グループホームは少人数の家庭的な雰囲気の中で介護を受けながら、リハビリやリクリエーションの日常を送ることができる。近くに身寄りのない人にとっては、安心できる場所だったに違いない。その場所が一夜にして全滅の悲劇に見舞われたのだから、衝撃的な事件だったと言える。ただ私が最初に考えたのは、女性職員が生存してくれてよかったということだった。責任感から入居者の救命に全力をあげ、無理をし殉職したら美談にはなったかもしれないが、そうならなくて良かった。

 先ごろは、障碍者は社会にとって有害な存在だからと決めつけて、殺人に走った施設の元職員が出現して大きな衝撃のニュースとなった。障碍者がそうなら、働けなくなった老人もすべてその同類ということになる。非生産的な人間は、これから成長する子供たちを除いて、すべて社会の重荷に過ぎないと規定してしまったら、それはナチスの時代の優生の思想への回帰を意味する。人間の価値を利用価値でしか評価しないという態度は、基本的人権や、人間の尊厳の思想とは正面から対立する。

 ただし、このことは、医療における尊厳死の考え方とは矛盾しない。医療における「生体として人間の延命技術」の進歩は、時として老人を迷わせ、悩ませる。北欧の医療現場では「寝たきり老人が多くなって困る」という悩みはほとんど聞かないというのだが、どこまで本当なのだろうか。「口から食べられなくなったら医者の仕事は終り。あとは牧師さんに任せる。」のが常識だというのだが。

 日本の医療の「長寿世界一」が、生きることの質を問わない「生命維持至上主義」に傾いているとしたら、それはあまり威張れないような気がする。ただし、この問題は非常に難しい。下手をすると医療・介護費用抑制の政策と結びつけられて、とんでもない炎上を招く恐れもある。それでも私は健康保険証の臓器提供の意思表示にはすべてマルをつけ、今後手術を受ける際は「延命治療希望せず」の念書を出すつもりでいる。

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