記事

ゾウの密猟はなぜなくならないか――グローバルな取り組みと狩猟採集民コミュニティの葛藤 - 大石高典 / 生態人類学、アフリカ地域研究

1/2

シリーズ「等身大のアフリカ/最前線のアフリカ」では、マスメディアが伝えてこなかったアフリカ、とくに等身大の日常生活や最前線の現地情報を気鋭の研究者、 熟練のフィールドワーカーがお伝えします。今月は「等身大のアフリカ」(協力:NPO法人アフリック・アフリカ)です。

はじめに

「ダニエル(仮名、以下同様)が捕まって帰ってこない。助けて欲しい。」

2011年8月、長年お世話になっているバカ・ピグミーの定住集落N村で、コミュニティの主だった壮年男性たちが連れだって相談にやってきた。日常よく耳にする、様々なお金の工面や薬を分けて欲しいというような、半ばあいさつ代わりのような要求とは、ずいぶんと雰囲気が違っている。

相談の内容は、アフリカマルミミゾウ(以下、マルミミゾウ)の密猟に巻き込まれた青年が、カメルーン政府による取り締まり作戦で逮捕され、突然連れ去られたというものだった。半年以上も消息不明になっている彼の消息を何とか確かめ、救い出す手段はないかというのだ。

相談されたものの、私もどうしていいのか分からない。世の中、良く分からないことには首を突っ込まないのがいいに決まっている。しかし状況を聞けば聞くほど、放ってはおけない気もしてくる。

バカ・ピグミーは、「森の民」として知られるピグミー系狩猟採集民の一集団だ。ピグミーは、生物多様性の宝庫たる熱帯雨林を知悉し、軽やかに森を歩き、機知とユーモアに満ち、そして何よりも自由をこよなく好む人々として知られる。

そのピグミーの近くで暮らす漁撈〔ギョロウ〕農耕民バクウェレや商業民ハウサ。筆者は、これまで15年間にわたって、ほぼ毎年カメルーン東部州の熱帯雨林を訪れ、河川漁撈、狩猟採集、そして換金作物栽培といった生業経済を切り口に、彼らの社会のありようを見てきた。そこで見えてきたのは、熱帯林伐採などの開発と自然保護のはざまに置かれ、市場経済との関わりがますます深くなるなかでも、森、村、そして都市の世界を自在に移動することで、生活の自律性をたもつ人々の姿であった(大石 2016)。

とはいっても、年々、自然に依存した生業が以前のようには成り立ちにくくなってきているのを感じてはきたところに、この相談を耳にして、いよいよ森での生活の自由が脅かされつつあるのではないかとの危惧を抱かざるをえなかった。

定住集落のバカ・ピグミーの家。

定住集落のバカ・ピグミーの家。

2008年以来、カメルーン東南部では、多くの集落やキャンプが、軍隊を動員したゾウ密猟取り締まり作戦(以下、作戦)による急襲を受けるようになり、訪問時にはその被害の実態についての語りを耳にすることが多くなった。のみならず、冒頭のように、状況の改善に向けた協力の要請を、再三にわたって受けるようになった。

私はバカ・ピグミーやバクウェレの友人たちに、野生獣肉や魚をおすそ分けしてもらいながら生きてきたのだから、このような相談を受けるのはしごく当たり前のことであろう。しかし、応答すべきかどうか。私は悩んだ。その理由はいくつかあるが、最大のものは、私はマルミミゾウのような大型動物狩猟の現場には一度も立ち会ったことがなく、現場を見ていないからだった。(しかし、後述するように私は作戦の被害は直接見聞きした。)

最終的に、私はこの問題にコミットすることにした。理由は、まきこまれた個人があまりに近い存在であり、すでに自分が当事者となっていると感じたことが第一。そして第二には、私が研究テーマのひとつにしてきた、カメルーンの森における人と動物の親密な生活世界と、武力紛争とも関わりのある近代的な銃器をもちいたゾウの大規模狩猟の世界が、いったいどのように接合し得るのかに関心があったからだ。

この小論では、私自身のコミットメントと、カメルーン政府や国際NGOである世界自然保護基金(以下、WWF)の関係者への聞き取りに基づいて、ゾウ密猟問題に関わるローカル/グローバルの両面の複雑な状況をふまえながら、ゾウ密猟問題について地域住民、とりわけバカ・ピグミーの視点に立った考察と提言をおこないたい。

バカ・ピグミーとマルミミゾウ

バカ・ピグミーの社会では、狩猟の熟練者の男性のうち、特にゾウ狩猟に長けた者のことをトゥーマという(林 2010)。マルミミゾウの肉は、多量に得られるだけでなく食味も好まれるので、バカ・ピグミーにとってもっとも価値の高い狩猟対象とみなされてきた(林 2010)。またゾウは食べるためだけのものではなく、象徴的な次元においても特別な意味を与えられている。バカ・ピグミーは歌と踊りの民としても知られるが、ゾウ狩猟はもっとも重要な精霊儀礼であるジェンギと深い関連をもつ。

トゥーマと狩猟犬。

トゥーマと狩猟犬。

バカ・ピグミーとマルミミゾウとのもうひとつの関わりは、植民地期から続く象牙交易である。1980年代半ばに「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(CITES)によって象牙の商業取引が全面禁止されるまで、マルミミゾウは活発に狩猟され、交易の対象となっていた。N村でも、象牙が軒下にずらりと並べられて市が立ったという。現在もアンダーグラウンドに続く象牙取引は、農耕民、商業民、官吏や軍人など、極めて多様な密猟依頼者を市場との媒介におこなわれ、狩猟者には象牙1本当たり10~15万CFAフラン(日本円にして2~4万円程度)ほどの収入しかもたらさない(安岡 2012)。

バカ・ピグミーの青年によるマルミミゾウのスケッチ。

バカ・ピグミーの青年によるマルミミゾウのスケッチ。

アフリカゾウの危機とグローバルな関心

2000年代後半に入って、アフリカ各地で、ゾウの密猟の再急増が報告されるようになった(松本 2015)。熱帯森林も例外ではなく、ゾウ密猟の増加に歯止めがかからない状況となっている(西原2016)。経済的な背景としては、国際交易の量的拡大、とりわけ現代における象牙消費の中心であるアジア(特に中国やタイ)での需要拡大と、そこからの資金の流入が推測されている。

二種類いるアフリカゾウのなかでも、サバンナに分布するサバンナゾウに比べてマルミミゾウは、象牙の材質の堅さにおいて高く評価されている。かつて象牙輸入大国であった日本における象牙の需要は減っているが、引き続き印鑑や三味線のバチの材料として利用され続けている(西原 2016)。

象牙はいったいどこから世界市場に出回っているのか。1996年から2014年の間に世界中で押収された象牙のDNAを分析したところ、アフリカゾウの密猟がもっとも盛んだと推定される地域として、モザンビーク/タンザニア国境のサバンナ地帯とともにカメルーン/コンゴ共和国/ガボン国境の熱帯雨林地帯が浮かびあがった(Wasser et al. 2015)。

ゾウ密猟の大規模化の要因として、内戦など武力紛争によって供給されたカラシニコフ式自動小銃などの軍事用武器が、現金を生む野生動物の密猟に転用されているということが挙げられる。コンゴ盆地北西部を事例にみてみよう。

カメルーンとコンゴ共和国は、歴史的には1915年から1959年までともにフランス領赤道アフリカの一部であったこともあり、文化、経済の両面でつながりが大きい。人もモノも自由に往来が可能な状況だ。コンゴ共和国では2002年の内戦終結後、カラシニコフ式自動小銃などの戦争用小火器が多量に軍組織の外に出回り、同国北部の国立公園内での大型動物の組織的な密猟に使用されるにいたっている。自動小銃は、密猟組織とともに国境を越えてカメルーン東南部にも流入する。密猟に関わる組織や権威者は、大量殺りくに特化した専門的密猟者をリクルートして各地に送りこむ。

軍事化を余儀なくされた保全活動

カメルーン森林・野生動物省の発表によれば、2007年から2014 年の間に約100丁のカラシニコフ式自動小銃が押収されたといわれる。保全活動に軍隊が動員されるにいたった背景には、国立公園を管轄する森林・野生動物省の警備人員の不足と、武装した密猟グループに対応できるだけの装備が整っていない現状がある。2012年に起こったカメルーン北部のブバ・ンジダ国立公園での組織的なアフリカゾウの大規模密猟では、たかだか10週間に128~300頭が殺される事態となり、国際的に耳目を集めた(Thompson 2012)のだが、これも政策の方向性にインパクトを与えた。

治安維持を名目として、アメリカをはじめとする国際社会が保全活動への軍の投入を後押ししたことも見逃せない。また、保全の現場で毎年数名ずつエコガード(ecoguard)と呼ばれるレンジャーが殺害される事件が起きており、作戦にはこれに対する報復の意味がこめられていたと述べる役人もいた。

ここで、カメルーン東南部における自然保護政策の流れを簡単に振り返っておこう。カメルーン東南部において、本格的に国立公園や保護区の設立が計画されたのは1980年代後半であり、1996年頃からロベケ国立公園を皮切りに、三つの国立公園が設立された。1980年代後半以降の「住民参加型保全」の流れのなかで、カメルーン東南部地域においても、地域住民の福利厚生や利益にかなった自然保護プロジェクトが謳われた。

1990年代初めからWWFがカメルーン東南部において展開してきたジェンギ・プロジェクト(バカ・ピグミーの精霊の名前を冠している)では、地域住民との互恵関係と協調を重視すること、保全を通じて地域住民の生活向上に資することがミッション(注1)として挙げられてきた。ところが、ゾウ密猟問題の深刻化に伴い、カメルーン政府とWWFの合同作戦として、2008年から軍隊が介入した取り締まりがおこなわれるようになった。

(注1)ジェンギ・プロジェクトは、プログラム・ビジョンとして「すべての利害関係者」の参加による資源管理とともに、「地域住民の生活条件の向上への貢献」を掲げている。(URL: http://wwf.panda.org/what_we_do/where_we_work/project/projects_in_depth/jengi_project/project/)

作戦の目的は、「国境地域の非武装化」と「密猟の取り締まり強化」の二つだという。この動きは、最近世界各地で復活の兆しを見せている“green militarism”と呼ばれる軍事的な手段を用いた保全政策の一事例と捉えることができる(Corry 2015)。

あわせて読みたい

「アフリカ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    鮪の国際会議で日本"フルボッコ"

    勝川 俊雄

  2. 2

    山本太郎氏のひとり牛歩に疑問

    和田政宗

  3. 3

    カジノ解禁を嫌がるパチスロ業界

    大西宏

  4. 4

    Softbank孫社長、日本一の富豪に

    フォーブス ジャパン

  5. 5

    ピコ太郎が今年のYouTube2位獲得

    島田範正

  6. 6

    橋下氏"豊洲は行政的には大失敗"

    橋下徹

  7. 7

    トランプ氏に投票した"普通の女"

    PRESIDENT Online

  8. 8

    小池知事"除名7区議をサポート"

    THE PAGE

  9. 9

    雅子さまは日本が誇る皇后になる

    小林よしのり

  10. 10

    Amazon Go 日本では流行らない?

    韋駄天太助

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。