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スケートボードのオリンピック種目採用:アンチ・スポーツな若者たちの行き場はどうなる?

「スケーターは、社会からの落ちこぼれの集団さ。アスリートなんかじゃない!スケートボードは犯罪さ。スポーツなんかじゃない」
ーーブレイドン・スザフランスキー(プロスケーター)


ついに正式決定!「スケートボードはスポーツです」。

スケーターたちは長い間、スケートボードがスポーツかスポーツでないかというカテゴリー分けを嫌ってきたが、それは当然の流れだった。90年代、"エクストリーム"という危なっかしい名の下にエナジードリンク系企業などがスポンサーとなり、スケートボード、スノーボード、BMXやさらにはローラーブレードまでもがひとつの大きなコマーシャリズムにグループ分けされ、それが後にXゲームズを生み出した。スケートボードは、ただカッコいいものという枠を超えて巨大化し、ついに2016年8月、国際オリンピック委員会(IOC)は2020年東京オリンピックの正式種目にスケートボードを加えた。

有名なドッグタウンのZボーイズに象徴されるはみ出し者や変わり者、一匹狼の多いスケートボードの第1世代は、かたくなに「スケートボードはスポーツではない」というスタンスを崩さなかった。彼らは一日中ボードに乗って過ごす社会からの脱落者や燃え尽き症候群の連中で、金髪のヘッドクウォーターやメジャーリーグのピッチャーを目指す人間とはかけ離れていた。ジェイ・アダムス(Zボーイズのオリジナルメンバー)やタイ・ペイジ(70年代初頭のスケートボード黄金期を牽引したレジェンド)のような人間にとってスケートボードは、ライフスタイルでありアイデンティティであって、スポーツというよりは芸術であり、一度始めたらやみつきになる中毒性の高いものだった。スケートボードは個人主義、独創性、自己創造力を育み、アーティストが独自のスタイルや流行を作り出すのと同様、スケーターもトリックやスポット・セレクションを生み出して、スケートボード特有の美学を確立した。偉大なスケーターになるために何かを勝ち抜く必要はなく、ただボードに乗りさえすればよいのだ。

個人主義の志向が強いスケートボードも、60年代のスラロームレースに始まり、今日までさまざまな競技が行われている。80年代のハーフパイプでのフリースタイル・イベントにおけるロドニー・ミューレン、トニー・ホーク、クリスチャン・ホソイの激しい争いはスケートボード人気に火をつけた。しかし、90年代初頭からはスケートボード人気にも陰りが出はじめた。激減したスケートボード人口を回復するため、スケートパーク・オブ・タンパなどは、コンペというよりは伝統的なスタイルを重視したコンテストを開催するようになった。そしてアメリカのケーブルネットワークESPNが主催するメガイベントのXゲームズでは、多くのスケーターが従来スタイルのスケートボードの終焉を感じた。しかし1999年に開催されたXゲームズVではトニー・ホークが初の900°(2回転半)を決めるなどして盛り上がりを見せ、Xゲームズはスケートボード人気の回復に貢献したといえる。その後スケートボードは世界規模に広がり、デンマークのコペンハーゲンからアフガニスタンのカブールまで、世界中に星の数ほどのスケートパークが出現し、若者たちがこぞってスケートボードのデッキ(ボード)を買い求めるようになった。それからスケートボード人気を象徴する出来事が続く。ライアン・シェクラーとロブ・デューデックはどちらもリアリティショーに出演。トニー・ホークはゲーム開発会社アクティビジョンと組んで、多くのプロスケーターも登場するゲーム『Tony Hawk’s Pro Skater』をリリースし、数百万ドルを売り上げた。バム・マージェラが自主制作した街中でやりたい放題のスケートボード・ビデオ『CKY』は、後にMTVの人気ビデオ『Jackass』につながった。2002年までには世界のスケートボード人口は1,250万人に達し、2009年時点で世界のスケートボードの市場規模は約48億ドルと試算された。

この流れを受け2010年ロブ・デューデックは、Xゲームズや他のコンテストとも異なるストリート・リーグ・スケートボーディングを立ち上げた。ストリート・リーグは、最近取り壊されたフィラデルフィアのラヴ・パークのようにアメリカのストリートを模したプラザスタイルでデザインされ、さらに個別のトリックを重視して瞬時にジャッジされる。これらの特徴を持つストリート・リーグは、ヴァート・ランプからメガ・ランプへと巨大化し、リアルなイーヴェル・クニーヴェル・ヴァイヴを実現するXゲームズとは対極に位置する。ストリート・リーグのパーク・デザインは、スケーターがたむろするリアルなストリートのスケーティングスポットを再現することで、ストリートで繰り返し練習して磨いたテクニックをそのまま発揮できるように工夫されている。技をひとつ決めるたびに仲間たちからの大きな喝采を浴びる。それが一週間の集大成となるのだ。しかしストリート・リーグにも盲点があった。コンテスト中にスケーターはポイントを稼ぐ必要があり、結果として難しいトリックの数を減らす傾向にある。プロはひとつのトリックを成功させなければならないため、その難易度は格段に上がる。従って勝つためには、すごい技を披露するだけでなく、それをコンスタントに成功させる必要がある。それを実現できる者が、ナイジャ・ヒューストン(記事執筆時21歳)のように歴史上最も稼ぐスケーターになれるのである。

ヒューストンは、このハイレベルをキープするゲームを代表するスケーターである。ストリート・リーグで彼は、バックサイド270からハンドレイルのノーズブラントなど難易度の高いトリックをいとも簡単に決めてみせる。困難な技をいかにもベーシックな技のように決めるヒューストンのスタイルは若者たちに衝撃を与え、スケートボードがさらに進化するきっかけとなった。難易度のとても高いヒューストンのトリックの数々は、若者たちのスキルレベルの判断基準となり、世代を追うごとに難易度は上がり続けている。しかもこれはスケートボードの他の側面にも影響を与えている。例えば、ヴァート・ランプからメガ・ランプへの発展。メガ・ランプは当初、ダニー・ウェイやボブ・バーンクイストなどのトップ・ヴァート・スケーターでなければ乗りこなせなかった。それが今やXゲームズの1カテゴリーとなっている。近い将来、"メガ"という形容詞すら取り払われ、何か別のすごいものが出てくるのだろう。

オリンピック種目に追加されたことに対する影響を考えてみよう。ストリート・リーグで披露されるナイジャ・ヒューストンの超ハイレベルのトリックを新たなスタンダードとして採り入れるスケーターたち。そこには、クリス・コール、ルアン・オリヴェイラ、クリス・ジョスリン、トミー・サンドヴァルらのビデオを観てインスパイアされたスケーターたちにしか理解できない感覚がある。スケーターたちが真に影響を受けるのは、トリック・セレクションやスポット・チョイスだけでなく、彼らの選ぶ音楽やウェア、普段のふるまいなど、トップ・スケーターたちの鋭いセンスである。それは言い換えればニュアンス的な関係で、若いアーティストが偉大なる先人をリスペクトするのに似ている。そこには偉大さへの敬意と同時にスタイルへのあこがれもある。

しかしオリンピックはアメリカ国内のみならず世界的にも、偉大さのみを尊重する傾向にあるように思える。例えば、過去のオリンピックでウサイン・ボルトと張り合った選手を挙げられる人がいるだろうか?マイケル・フェルプス、ケイティ・レデッキー、シモーネ・マヌエル以外の有力な水泳選手がいったい何人いるだろうか?オリンピック閉会式直後はこれらの質問に答えられたとしても、一年もしない内に忘れられてしまうだろう。しかし陸上、水泳や体操が話題に上がらなくなっても、ボルト、フェルプス、シモーネ・バイルズの名前が忘れられることはない。野球やアメフトなどのメジャーなチームスポーツで活躍するアスリートが、オリンピックでも人気のスターになる。スケートボードが初めてオリンピックに登場して世界中にお披露目された時も、やはり金メダリストだけが賞賛されるのだろうか?芸術面は得点として評価されるのか?スタイルは重視されないのか?勝つことがイコール偉大である、と見なされてしまうのか?

スケートボードの世界では、オリンピック種目となることのスケートボードの将来に与える影響について、さまざまな意見が出ている。スティーヴ・ベラとエリック・コストンが運営する、ロサンゼルスにある民間のインドア・スケートパーク(もちろんプラザスタイル)を中心としたウェブサイト"The Berrics"は、多くのプロスケーターにオリンピック種目になることについて質問しているが、その回答はさまざまだった。ベラ自身は、「4年に1回開催されるひとつのイベントとしか捉えていない。例えばアーチェリーがオリンピック種目になったことで何かしらの影響があったとは思えない。アーチェリー界の人間ではないので実際はどうかわからないが、何かしら変わったはずだ」と述べている。Girl、Nike SB、Fourstarなどがスポンサーに付くプロスケーターのショーン・マルトは、「俺はどんなシチュエーションでも全力でスケートボードに乗り、楽しむだけさ。ストリートで乗って欲しいか?上等だよ。もし俺がオリンピックに出るようなことがあれば、精一杯やって楽しむだけさ。今やっていることをオリンピックに左右されてはいけないと思う。どう思うかは各個人の考え次第さ」と、オリンピックの正式種目への採用を歓迎している。Bakerのプロスケーター、ブレイドン・スザフランスキーは少々違う見方をしている。「スケーターは、社会からの落ちこぼれの集団さ。アスリートなんかじゃない!スケートボードは犯罪さ。スポーツなんかじゃない」。

スケートボードのスピリットを踏襲するメディアとして業界のバイブルとなっているスラッシャー誌の週刊Skatelineショーの中で、ホスト役のゲイリー・ロジャースがこの状況を明快に表現している。「発展していくことには大賛成さ。でも誤解しないでくれよ。スケーターたちには自分の生きたいように生きて欲しいんだ。それは最も難しいけれど、最も素晴らしく美しいことでもあり、そんなスケーターを見ることは楽しいよ。注目されないとつまらない。そのためにはいろいろなやり方があるはずさ」。

その通り。スケートボードは注目されなければならないし、近所の公園でボードに乗る若者たちにもチャンスが与えられるべきだ。しかしスケートボードはいつも、型にはまったスポーツが嫌いで社会からはみ出した若者たちや、アーティストや変わり者の間で人気があった。それは長く美しい拒絶の歴史でもあり、クリエイティブなエネルギーを持つ若く怒りに満ちた若者が今もスケートボードに乗っている。かつてスケートボードは、行き場のない若者たちの持つパワーの格好のはけ口だった。2020年東京オリンピックの聖火が消えた後も、スケートボードはそのような若者たちの選択肢のひとつであり続けるだろうか?もしそうでなくなった時、いったい誰が、或いは何が、取り残された彼らを導くのだろう?

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