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ヤンキーは「海賊王」がすき~階層社会の『ワンピース』

■ワンピースは人が多すぎる

この前、某貧困ハイティーン男子と話していてわかったのだが、アンダークラス若者はやはり『ワンピース』が好きなようだ。彼はまだ観に行っていなかったものの、彼の友人はこの夏公開の『ワンピース』映画版を見に行ったらしい。ゴジラではなく、ワンピースを、封切り日直後あたりに行き、楽しんだのだそうだ。

また、漫画『ワンピース』は、やはり貧困若者たちに人気はあるようで、全巻揃える若者の話は時々聞く。全巻揃えると確か 80巻は超えるはずで、それもこの頃は登場人物が異常に増え話もややこしくなったので僕はとてもついていけないのだが(僕がチェックしていたのはエースの死までで、いまルフィには新しい「兄」が出てきたんだそうだ……)、勉強が苦手な若者たちもワンピースは楽しみにしているようで、尊敬してしまう。

この頃はコマ割りも細かいし、初期のチョッパー編に涙した古典的ワンピースファンの僕からすれば、とにかく今のワンピースは難しすぎるし人ガ多すぎるし、コマ割りの細かさの割に描き込みの多さから、老眼の中高年(僕)には厳しすぎるマンガなのだ。

僕は、いまのルフィー一味とは、とても「仲間」になれない。

■非行少年事件と「仲間」

そうしたワンピースを支える価値観、「仲間」については、人間関係はそんなキレイなものではなく、裏切ったり嘘をついたりするからこそおもしろいのでは? と以前当コラムで触れた(マイルドヤンキーとワンピースにはついていけない)。

あれは、ワンピースが提示する「仲間」概念の嘘くささについて考えたものだった。

上で少し触れたチョッパー編の頃は、仲間概念も知れていて、チョッパーとかウソップとかゾロとかナミとかサンジとか、まあ古典的ファンなら誰でも言える、この程度の数だったらどんなフィクションにも出てくる登場人物数だろう。その数あたりが、僕が考える「仲間」の限界だ。

が、最近のワンピースのように、一つひとつのエピソードの人物が次々と主要人物になっていき、かつ最初からのゾロも出たり入ったりしつつもずっと主要人物でいつづけると、それはどうしても「多く」なる。

これは、よくわからないが、エグザイルに2代目何とかが入って何人になった、という芸能ニュースにも似ていて、ヤンキーやアンダークラス若者に受ける芸能やマンガは、とにかく「増える」。

ワンピースでは、ニコ・ロビンが「仲間」に加わったアラバスタ編(名作!)以降から顕著になったように僕には思え、Wikipediaによると同編はゼロ年代はじめだったそうだから、日本社会が急激な階層化となるゼロ年代後半以前から、ワンピース世界では少しはやく「仲間」が異常増殖しはじめたようだ。

そういえば、アンダークラス若者、特に非行少年による犯行は定期的に現れ、最近の埼玉県での事件(埼玉少年殺害 「先輩に言われ蹴った」祖母に後悔の念)も、定期的に現れる集団非行少年リンチ殺人事件のひとつだと僕は解釈している。

これまでの集団少年凶悪事件と何が違うのかは、僕には今はわからない。

ただ、上述したような、過度な「仲間」化の角度から、もう少し報道を読んでいくつもりではある。

■『ドラゴンボール』と『ワンピース』

もうひとつ、この前の日曜日の朝、テレビを見ていると、『ドラゴンボール』と『ワンピース』の2大ジャンプアニメが続けて放映されており、そこでの集団化の違いについても考えさせられた。

ご存知ドラゴンボールも「仲間」は出てくるが、悟空をはじめとして、基本的に人物たちは自分のワザや自分の格闘道を極めようとしている。

悟空は(あるいはピッコロもクリリンもトランクスも、たぶんベジータも)、とにかく「自分が強くなること」「ワザを極めること」が目的であって、組織のトップ、キングになることが目的ではない。

むしろ「組織」は悟空にとっては邪魔で、そこでトップになって人々をマネジメントすることは悟空の探求世界からすると余計な行為だから、ドラゴンボールの人々はあまり群れたがらない。

キングではなく、個人的な「道の探求者」が、悟空にとっての理想像なのだ。

対して、ルフィの理想像は、御存知「オレは海賊王になる!」だ。海賊はワンピース世界ではアウトローではあるものの、そのアウトローたちを束ねる「王」をルフィは目指している。ルフィの能力は超絶的ではあるが、悟空のような星をまるまるひとつ破壊するようなスーパーサイヤ人はない。それはあくまでも、集団を束ねるために必要な才能としてのゴム人間だ。

■ ヴィレッジヴァンガードではなくイオン

『ワンピース』は、チョッパー編あたりは古典的なジャンプ漫画(友情・努力・勝利)だった。それが2000年に入った以降からジャンプの価値を飛び越え始め、徐々に「ヤンキーマンガ」化し始めたのだと思う。現在のヤンキーマンガは『ろくでなしブルース』でもなくもちろん『ビーバッフハイスクール』でもなく、人物たちが全然古典的ヤンキーしていないワンピースになってしまったと僕は思っている。

ワンピースの「オレは海賊王になる!」と「仲間」第一は、作者の意図を超えたところで、社会の人口構成上「マス」になりかけているアンダークラスを引き寄せるサブ・カルチャーとして機能し始めたような気もする。

アンダークラス4割の社会構成は、ワンピース以外にもいくつかの現象(たとえばイトーヨーカ堂ではなくイオン、たとえばヴィレッジヴァンガードではなくこれまたイオン等)を現在引き起こしており、それらを束ねて分析できると、この社会がいまどんな大変化に襲われているかが理解できると思う。★

※Yahoo!ニュースからの転載

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