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完全自動運転自動車が想定すべき「乗降時の転倒」について

7月25日の日本経済新聞によると、経済産業省と国土交通省は2018年に、自動運転車を使った送迎サービスの実証実験を始めると発表した。運転できない高齢者が通院や買い物ができるように、高齢者の自宅と病院や商店街の間に自動運転車用の道路を整備する。公共交通網が十分でない地方での実用化の可能性を探る、という。

自動運転自動車には、Google Carなどの完全自動運転自動車と、Teslaのような不完全自動運転自動車がある。このうち、わが国において、完全自動運転自動車の早期実装が求められているのは、高齢者の送迎サービスだ。

昭和30年、40年代、都市近郊に多くの新興住宅地が開発され、一戸建てを求める多数の若夫婦が入居した。彼らは一斉に年を取るので、新興住宅地はいま、急激な高齢化を迎えている。多くの新興住宅地は駅から遠いので、自動車は必需品だが、高齢者の運転には事故の危険がつきまとう。また、多くの場合夫が先発つので、運転免許を持たない妻が遺される。現在はミニバスを巡回させるなどの公共サービスが対応しているが、運転手の確保と人件費が行政の負担となっている。しかも、高齢者が亡くなったり、施設に入ったりして空き家ができても、人口減少中のわが国では、子どもが家を継がない。そのため過疎化が進行し、行政サービスすら維持できなくなってくる。かといって、移動が困難になった高齢者を都心に転居させたり、施設に収容したりする財政的余力はない。

新興住宅地における、完全自動運転自動車による送迎サービスの需要がここに存在する。具体的には、各家庭にコンソールボックスを置き、住人が行きたい場所のボタンを押すと、数分後には迎えの自動車が来る。複数の住人が同じ場所のボタンを押せば、配車役の人工知能が最適ルートを考えて相乗りしてもらう。これをたとえるなら、ビルのエレベーターは「上下」という一次元の世界における、相乗りを前提とする公共交通システムといえるが、完全自動運転自動車の送迎サービスシステムは、住宅地という二次元世界のエレベータシステムといえる。

高齢化した新興住宅地はもともと自動車が少ないうえ、幹線道路とのみ接続する「閉じた」地域であって、外部自動車の進入がまれなので、自動車同士が衝突するリスクは低い。高齢者の送迎が主目的だから、運行速度は時速20㎞程度でよい。車体も、ゴルフカートよりはましという程度でよいから、コストも安い。完全自動運転自動車を社会実装するうえでは、理想的な環境であるともいえる。

もちろん、課題もある。最大のリスクは、「乗降時の転倒」とりわけ「降車時の転倒」だ。新興住宅地の多くは山を削って作ったので坂が多い。道路の舗装も古くなっている。そのため、坂に停車した自動車に乗降しようとする高齢者が、小さな段差につまずいて転倒する事故が想定される。些細な転倒でも、余生を寝たきりで過ごすきっかけになりうるので、軽視できない。

技術的な解決策としては、自動車の人工知能に路面の状態を観察させ、安全な場所に停車させることが考えられる。気の利いたタクシー運転手などは普通に行っているサービスだが、現在の技術水準では、かなり難しい。確実かつ安価な方法としては、安全な乗降場所にRFIDやマーカーを埋め込んでおく方法もある。だが、この方法では、これらのない場所での乗降に対応できない。また、乗降時の転倒、特に降車後の転倒を検知するシステムも必要だ。高齢者が降車したあと転んだのに、送迎した自動運転自動車が走り去ったため死亡したというような事件が起これば、運営主体の法的責任が問われうると同時に、自動運転自動車の普及に対する大きな障害となりうる。

法律家は、自動運転自動車の事故というと、トロッコ問題にばかり目を向けがちであるが、実際には、このような地味なリスクを指摘していくことが大事かもしれない。

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