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「べき」のマーケティング~溢れかえる「規範」(田中俊英)

■不登校を苦しめる「べき」

いつの頃からかだろうか、この社会では、本のタイトルや広告のコピーや雑誌記事のタイトルなどに、「~すべき◯◯の方法」とか「~は3才からすべき」等のフレーズが溢れかえっている。

この「べき」は言い換えると「規範」であり、我々の身近なところでは、「学校に行くべき」「仕事をすべき」「結婚をするべき」等々の「べき」がある。

これはさらに言い換えると「登校規範」や「仕事規範」ともいえ、不登校やニート状態で苦しむ子どもや若者は、社会に深く根付くこれらの社会規範からプレッシャーを受ける。

この社会規範の特徴は、不登校当事者やニート当事者の内面にも深く刻まれており、不登校やニートで悩んだり後ろめたい気分になるのは周囲の常識的な大人たちから責め立てられるからだけではなく、自分自身の内面の声、内に刻まれたしぶとい規範の声が、当事者の子どもや若者を責め立てることが特徴だ。

■規範から楽にしてあげたい

僕のメインの仕事は不登校やニート、ひきこもりの子ども若者の支援であり、このような登校規範や仕事規範にがんじがらめになった彼女ら彼らを規範から楽にしてあげることから仕事は始まる。

社会規範がなければある意味「人間社会」ではなくなるため「社会から規範をなくせ」とは言い難いのではあるが、登校や仕事といった規範は強力であるため、この存在を言語化して浮かび上がらせ相対化させることは、当事者が楽になっていくことに見事につながる。

だから、規範は社会に自然に溶け込むだけで十分であり、それがことさら強調させられると、不登校現象のように子どもたちを苦しめることになる。

規範は社会からなくなったら困る存在だが(この社会規範がもっと強烈になると「倫理」~たとえば「人を殺してはいけない」等~になる)、規範を当たり前のように押し付けてくる社会はかなり窮屈な社会だ。

■「べき」が楽な社会になった

だから、冒頭に書いたような「~すべき◯◯の方法」とか「~は3才からすべき」は、まったくもって大きなお世話だと僕は思うのだ。

僕の感覚では、それらはコピーや記事で押し付けるものでもないし、コピーや記事で「べき」を使うことは、その商品や記事にとってはマイナスになってしまうという感覚がある。

この「~べき」のタイトルとコピーは、僕の感覚では、ゼロ年代半ば頃から見かけるようになり、リーマンショック以降あたりから当たり前のように見るようになっている。もう10年近く、このような「べき社会」が続く。

だからこの頃の若い人には、この「べき」は不自然でない人もいるようだ。

僕は、広告業界に知り合いはいないのでどんな意図からこの「べき」が乱用されているのかはわからないものの、「べき」に対して僕のような警戒感・嫌悪感を抱く者が少なくなっていることは事実だろう。

つまりは、「べき」が自然体なのだ。あるいは、「べき」が心地いい、あるいは「べき」が楽な人が少なくはない、ということは事実だろう。

だから、「べき」が広告のコピーや本のタイトルに使われる。

いいかえると、「マーケティング」の手法として、あるいはマスに訴えかける言葉のスキルのひとつとして、この「べき」が現在浸透している。

僕にとってはすご~く窮屈な社会なんだけれども、なにせそれは「マーケティング」手法の一環だから、多くの人たちは窮屈とは感じないんですね。不思議です。★



※Yahoo!ニュースからの転載

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