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男も生きづらい、変わらぬ日本男性の生き方に異議申し立て 『男が働かない、いいじゃないか!』 田中俊之氏インタビュー - 本多カツヒロ

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本多カツヒロ(ライター)

夫より妻の収入が多いと格差婚と報道されたり、平日の昼間に家の近所を歩いていると白い目で見られたりと、「男は会社員としてバリバリ働くべきだ」という画一的な意識が未だに残っている。一方で育児への参加、女性の活躍などの多様性が叫ばれるこの世の中で、男はどう生きて行くべきなのか。そこで『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)などの著作があり、男性学を専門とする武蔵大学社会学部の田中俊之助教に男性学や長時間労働、中年男性の弱さなどについて話を聞いた。

――結婚や出産、専業主婦、働き方など女性としての働き方や生き方については様々に論じられる一方で男性に関しては未だに「働く」以外の選択肢がないように見えます。

田中:当然、これまでも男性自身が男性として求められる働き方や生き方に疑問を持っていたとは思いますが、それはなきものとして扱われてきました。


『男が働かない、いいじゃないか!』
(田中俊之 著、講談社)

 その背景には高度経済成長期から1970年代にかけて「男は仕事、女は家庭」と分業が進んだことがあげられます。右肩上がりに経済成長が続いていた時代には、この分業は非常に機能的でした。例えば企業にとって人件費は大きな支出です。夫婦二人に働いてもらうよりも、夫一人にがむしゃらに働いてもらったほうが支出は少なくて済む。それだけがむしゃらに働き疲れ果て家に帰れば、子育てや家事をすることは出来ません。そこで専業主婦の妻にケアをしてもらえば、次の日また働くことが出来る。経済効率や成長だけを考えると、性別役割分担は非常に機能するんです。

 70年代の日本の女性は男女雇用機会均等法がまだ存在せず、早期に退職させられたり、給与も安く現在から考えれば明らかな女性差別の慣習がありました。現在でも女性が女性であるために抱えてしまう問題は数多くあり、そうした中で女性の働き方や生き方を研究する女性学が登場したことは明らかです。

 一方、男性の中にも仕事ばかりの生き方に不満や生きづらさなどの疑問を持っていた人はいたと思いますが、仕事を辞めてしまうと家庭も社会も崩壊しかねなかったのでなきものとされてきたんです。

――そういった状況から先生のご専門である男性学はどのように誕生するのでしょうか?

田中:そうした仕事中心の男性の生き方に対する異議申し立てに代表されるように、男性が男性であるがゆえに抱えてしまう悩みや葛藤に着目する学問で、80年代後半から90年代初頭にかけて、女性学の影響を受け議論が始まりました。男性学と女性学の共通の目的は「性別にとらわれない多様な生き方の実現」です。これは、仕事に全てを捧げる男性や専業主婦の存在を決して否定しているわけではなく、そうした男性や女性がいる一方で、主夫やバリバリ働く女性も認めようという考えです。

 日本には男性学をメインに研究している大学教員は現在も5人程度しかいませんが、私が研究を始めた20年ほど前に、仕事中心の男性の生き方に異議を唱えたりすると周りに白い目で見られることもよくありました(笑)。

 私自身大学4年時を振り返ってみると次のような思い出があります。真面目な友人や、バンド活動やアルバイトばかりしている友人、髪の毛の色もいろんな色の友人とそれまで多様だった同級生が、突然みんな同じようなスーツを着て、同じような髪型にして就職活動を始めたんです。就職して定年までの約40年間、最低でも1日8時間の週40時間、さらに残業までして働くとみんなが言い始めた。そういう生き方に違和感を持ちましたし、それが男性学を志したキッカケです。

 それまで多様だった友達がワンパターンになっていく仕組みは面白いなと思いましたね。研究を始めると、例えば農家なら家族で働いており男だけが仕事しているわけではないので、人が会社などに雇われて働かないとそういう仕組みにならないことがわかりました。

 就活でみんなが就職することに疑問を持ったことをキッカケに、その後は戦後日本社会でいかに男は仕事、女は家庭というみんなが当たり前だと思っている仕組みが成立していったかを研究しています。

――先ほど仕事中心の男性の生き方への異議申し立てとありましたが、失われた20年を経た現在でも、そのような「普通の家族」のあり方を目指している人も多い印象がありますし、週刊誌などでも夫より妻の収入が多いと格差婚などと揶揄されます。

田中:高度経済成長期に形成された性別役割分担は、昨日より今日、今日より明日が良くなっていくことが前提の社会でこそ機能します。男性側からすると、自らの生活の全てを仕事に没入させれば家族全員が食べられたし、親よりも良い生活が出来た。そうした働き方自体に様々な問題はありましたが、少なくとも納得感はありました。ここ50年ほど男性が1日8時間、週40時間以上働くという前提で社会が回ってきました。それを期待して、家のローンを組んだり、子どもを進学させたりと。

 しかし、現在のように成長が乏しく、昨日より今日のほうが良いと思えない中では、生活の全てを犠牲にしても割に合わない。その割に合わなさを理解しながらも、なんらかの形で働き続けなければならないわけですから、どう働くかを考えてみましょうよというのが今回の本『男が働かない、いいじゃないか!』のメッセージでもあります。

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