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【オピニオン】完全自動運転車、実用化レースを制する条件

 「もし10年前、いや5年前でさえ、米国の大手自動車メーカーがハンドルのない車を量産すると発表したら、ばかげていると言われただけだろう」――。フォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)はこう述べ、完全自動運転車の実現に向けて規制当局をけん制した。

 フォードは先週、2021年までに完全自動運転車の量産を始めると発表した。これによりフォードは、グーグルと同様に人間が運転しない車の開発を目指す最初の大手自動車メーカーになる。グーグルとフォードの影響力を合わせれば、規制当局をしのぐ力が得られるかもしれない。当局というのは元来、自分たちが完全に理解できないものは何であれ禁止するところだ。

 ハンドルやアクセルペダルのない車が量産されれば、米規制当局は米国の道路でこうしたイノベーションが起きるのを認めるか、もしくは、自動運転技術の実証実験の場を欧州やアジアに譲るかのどちらかを選ばざるを得なくなる。自動運転車の開発に投資するフォードとグーグルは、当局が新しいテクノロジーを認めざるを得なくなると見込んでいるのだ。自動運転の技術は、グーグルが2009年に開発に着手した時に考えられていた楽観シナリオ以上のスピードで進んでいる。

 「イノベーションを引っ張るのに妥当な集団は自動車ではない。それは国家だ」。IT業界の専門家チャンカ・ムイ氏は、米ストラテジー+ビジネス誌でこう語っている。実際、シンガポール政府は自動運転車を開発する技術者を誘致している。同氏の言葉を借りれば、「競争や政策や規制の面での錯綜、米国での自動運転の開発・展開ペースを抑える既得権」を避けるべく、シンガポールに拠点を移すよう呼び掛けているのだ。

 グーグルは、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)から幹部4人を引き入れ、規制当局との戦いに備えている。ロイターの報道によれば同社は、カリフォルニア州の規制草案で自動運転車にも予備のハンドルとアクセルペダルが義務付けられていることに失望し、公道での走行試験ではテキサス州に向かった。テキサス州で「グーグル幹部は、カリフォルニア州より規制を柔軟にしてもらいたいと率直に話した」。テキサス州オースティンは安全と責任の保証と引き換えに、グーグルに試験走行を認めた。

 「どんなスピードでも自動車は危険」というラルフ・ネーダー氏の言葉は結果的に正しかった。しかし、危険だとする理由は間違っている。ネーダー氏の批判の矛先は自動車メーカーだったが、自動車が安全ではない主な理由はドライバーにある。米国で年間600万件発生する事故では200万人が負傷し、3万5000人が命を落としている。事故の90%以上は人的ミスによるものだ。グーグルとフォードは、時々人間がハンドルを握る必要がある部分的な自動運転より、完全自動運転の方が安全だと主張する。自動運転車はまた、年齢や障害によって運転ができない人にも、新たな移動の選択肢を与えることになるだろう。

 業界は、人々に自動運転の考えに慣れてもらう方法を模索している。米ウーバーは先に、ピッツバーグで配車サービスに自動運転車を投入すると発表した。自動運転車であることを了解した顧客に対し、無料で配車サービスを利用できるようにする計画だ。自動運転車には、ソフトウエアの動きをモニターするために同社のエンジニアが同乗するという。

 オバマ政権は、イノベーションをもたらす新たなルールを発表すると約束しているが、それは延び延びになっている。自動車メーカーは規制当局に対し、自動運転車の持つポテンシャルが明らかになる前に禁止するのではなく、テクノロジーによって安全な自動運転車をいかに開発できるかを見定めるべく、イノベーションを前進させるよう望んでいる。

 グーグルとフォードが必要としているのは、ジョージ・メイソン大学のアダム・シアラー氏によって有名になった概念「許可なきイノベーション」だ。つまり、新たなテクノロジーやビジネスモデルは許可を必要とせずに開発を進めさせ、規制は必要に応じて後から考えるというものだ。このアプローチを最も良く説明するのがインターネットの成功だろう。オバマ政権が価格や慣行について規制を課すまで、各種のウェブサイトやサービスは当局の許可を得る必要なしに立ち上がっていた。

 アンソニー・フォックス米運輸長官は最近、自動運転車の「開かれたイノベーション」の終わりを示唆し、規制当局の最も悪い本性をのぞかせた。長官は7月にサンフランシスコで開催された業界会合で「市場に出る前の認可手順をわれわれはどの程度奨励すべきかについて、チームに考えるよう促している」と発言。「自動車業界と運輸省が開発やテストの初期段階でより協調し、より厳しく取り組むことが求められる」と続けた。

 フォックス長官の規制アプローチは伝統的な「予防原則」に沿うものだ。つまり、新たな技術革新は開発者が安全を証明できるようになるまで当局が妨げるという慣例だ。

 オバマ政権が現在ちらつかせているような「市場に出る前の認可手順」は、どのテクノロジーを開発させるか、もしくは禁止するかの権限を官僚に与えることになるものだ。もしそうなれば、輸送分野での次の技術革命における勝者はデトロイトやシリコンバレーでなく、シンガポールになる可能性が高い。

By L. GORDON CROVITZ

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