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なぜ「健康経営」が事業の成否を左右するのか? 社員の不健康が職場の雰囲気を悪化させ、やる気をなくさせる

日本人の4人に1人が脂肪肝という調査もあるようですが、私も先日の健康診断で残念ながら脂肪肝気味と出て、ただいま絶賛ダイエット中です。肝臓の調子が悪くなると毒素の分解がしにくくなり、体が全体的にだるくなったりするそうです。私も最近ちょっと疲れが抜けにくいなあと思っていました。

疲れが抜けないと何もする気が起きなくなり、ついイライラして人に優しくなれません。嫌なヤツになりそうで怖いです。そう考えると最近よく言われるようになった「健康経営」も、単に福利厚生的な意味だけでなく、職場の雰囲気や事業の成否に影響を与えるからこそ重視されてきているのだと思います。(文:曽和利光)

社員の「身体的問題」をスルーして経営はできない

一般にメンタルの問題は「メンタルから来る」と思われています。以前所属していた会社で健康保険組合のマネジャーをしていたとき、メンタル面で不調をきたした社員の原因を調査したことがありましたが、そのときも最初の仮説では、メンタル不調の一番の原因は「仕事や家庭での悩み」と考えていました。

しかし実際にメンタル不調と最も相関があったのは、「労働時間の長さ」だったように記憶しています。もちろん精神的な悩みが、不安や抑うつなどの「精神的な不調」のきっかけとなることもありますが、その前に長時間労働などによる「身体的な疲労」があってこそ、それらが引き金になると解釈していました。

よく「悲しいから泣くのでなく、泣くから悲しい」(生理学的反応のほうが心理的な情動体験よりも先に起こるというジェームズ=ランゲの名言)と言われますが、前述のように最近の私はそれを実感しています。「フィジカル(身体面)」の疲れが原因で、イライラする「メンタル(精神面)」の症状が表れるという因果関係です。

私たちの調査がどこまで一般化できるかはわかりませんが、人事や経営者はよく、社員の身体的問題をほとんどスルーし、組織の問題を分析して対策を練ろうとするので、今後は抜け落ちないよう注意すべき視点だと思います。

睡眠時間と「組織のパフォーマンス」の因果関係は

例えば、健康診断の結果データを用いて組織分析をする人事はあまりいません。メタボリックシンドロームの発生割合や喫煙率、労働時間とトレードオフになりうる睡眠時間と、その組織のパフォーマンスは強い関係があるかもしれません。

しかし、現状ではこういった分析は個々の会社でなされることはあまりなく、今のところブラックボックスのままと言ってよいでしょう。「健康経営」はまだまだ始まったばかりということです。

とはいえ、素朴に「健康経営」を進めることで、社員の健康が目的のようになるのも本末転倒です。これが行き過ぎて「健康じゃない社員は出世できない」といった決め付けに走ると、優生学の悪用がもたらしたジェノサイドの惨劇のようなことにもなりかねません。

私は不健康な人でも、仕事上のパフォーマンスの高い人をいくらでも見てきました。日々「体がつらい」と言いながら、不屈の精神で仕事をやり遂げる人もいます。仕事を頑張っていると、ついやり過ぎて体調を壊すこともあり、「不健全な肉体に健全な精神が宿ることがある」というのも一つの事実です。

「不健康」=「精神的にもダメ」は行き過ぎだ

これは極端な例ですが、病気や障害を持っていて天才的業績を残したニーチェやゴッホのような人たちもいます。彼らは不健康だったからこそ何らかの感受性や創造性を持つことになったのかもしれず、厳しい状況に置かれた人にしか分からないことはあるものです(もちろん健康なニーチェやゴッホなら、もっとすごかったかもしれませんが)。

少なくとも「不健康」=「精神的にもダメ」と決めつけるのは、過度の一般化だとは言えるのではないでしょうか。もちろん健康であることは「手段」ではなく、それ自体が幸福感を生み出す「目的」です。

経営者や人事が、社員に健康になってもらおうと努力をする「健康経営」には全面賛成です。ただし、それが行き過ぎて「不健康者の排除」のようなことが起こらないことを望みます。やや不健康な者の一人として……。

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