記事

学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か - 久我尚子

1/2
■要旨
  • 本稿では、若年労働者の雇用形態や年収の状況について、学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。
     
  • 1990年代より大学進学率が上昇し、現在、男女約半数が大学へ進学するが、同時期に非正規雇用者も増え、大学卒の2割、大学院修了の約1割が不本意な理由で非正規雇用者として働いている。
     
  • 平均年収は、性・年代・雇用形態が同じであれば高学歴ほど多い。また、同じ学歴であれば非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多い。年収300万円という区切りで見ると、非正規雇用者の男性は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40~44歳まで、大学・大学院卒の25~29歳までは300万円を下回る。
     
  • 非正規雇用者の男性で大学・大学院卒では、30~34歳以上で年収300万円、40~44歳以上でおおむね400万円を上回るが、同年代の中学卒や高校卒の正規雇用者の男性の年収を下回る。非正規雇用者の男性で大学・大学院卒の30代以上では年収の平均値は300万円を超えるが、300万円未満層は約4割で、決して少なくない。
     
  • 現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著。近年の日本社会では、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与え、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就ける時代ではない。
     
  • 将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきであり、「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。

■目次

1――はじめに
2――学歴別に見た若年労働者の状況
  1|大学等進学の状況
   ~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
  2|若年労働者に占める正社員以外の割合
   ~高学歴ほど低いが大学卒20.4%、大学院修了12.3%
  3|正社員以外の若年労働者の働き方選択理由
   ~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
  4|正社員以外の若年労働者の今後の希望
   ~大学卒の54.4%、大学院修了の70.7%が「正社員」希望
3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で
   年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る

4――大学・大学院卒の年収300万円未満層の推計~30歳以上の非正規雇用男性で4割前後
5――おわりに~学歴よりも正規雇用者か非正規雇用者かが年収に影響、若年非正規の待遇改善を

1――はじめに

先日、拙稿「若年層の経済格差と家族形成格差~増加する非正規雇用者、雇用形態が生む年収と既婚率の違い」(基礎研レポート、2016/7/14)にて、正規雇用者と非正規雇用者では年収差があることや、男性では年収と既婚率が比例関係にあり、年収300万円あたりに家族形成の壁があることを示し、年収300万円未満の雇用者人口を推計した。

本稿では、若年労働者の状況について、さらに学歴別に詳しく見る中で、特に、「大学卒」や「大学院修了」の非正規雇用者に注目する。1990年代以降、大学進学率が上昇する一方、非正規雇用者も増えている。大学を卒業しても、必ずしも安定した仕事に就けるわけではない。現在、大学卒や大学院修了の非正規雇用者はどれくらい存在し、当該層の年収の状況はどうなっているのだろうか。

2――学歴別に見た若年労働者の状況

(図表1)図表1 短大・大学・大学院進学率の推移

 1大学等進学の状況~大学進学率は2015年で男性55.4%、女性47.4%。男性は頭打ち。
まず、近年の進学状況を確認する。大学進学率は、男女とも1990年代から大きく上昇し、2015年では男性は55.4%、女性は47.4%であり、男性ではやや頭打ちの状況である(図表1)。女性では大学進学率の上昇に伴い、短大進学率は1996年より大学進学率を下回って低下し、2015年では9.3%である。なお、大学院進学率は、男女とも微増・横ばいで推移しており、2015年では男性15.0%、女性6.2%である。

(図表2)若年労働者(在学中を除く15~34歳)に占める正社員と正社員以外の割合

2若年労働者に占める正社員以外の割合~高学歴ほど低いが大学卒20.4%、大学院修了12.3
近年、若年層で非正規雇用者が増えていることは冒頭に挙げたレポートで詳しく述べた通りである。本稿では、学歴別の現状を確認する。

厚生労働省「平成25年若年者雇用実態調査」によれば、在学中を除く若年労働者(15~34歳)に占める正社員以外の割合は、中学卒で62.0%、高校卒で42.8%、大学卒で20.4%、大学院修了で12.3%である(図表2)。高学歴ほど正社員以外が少ないが、現在、大学卒でも5人に1人、大学院修了でも10人に1人は正社員ではない。

(図表3)図表3 正社員以外の若年労働者(在学中を除く15~34歳)が正社員以外として勤務した理由

3正社員以外の若年労働者の働き方選択理由~大学卒や大学院修了では約6割が「不本意」
 正社員以外の若年労働者が正社員以外として勤務した理由は、「正社員求人に応募したが採用されなかった」(27.4%)が最も多く、次いで「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」(16.7%)、「元々、正社員を希望していなかった」(15.4%)と続く(図表3)。

学歴別に見ると、「正社員求人に応募したが採用されなかった」は高専・短大卒や大学卒、大学院修了で多く、「元々、正社員を希望していなかった」は中学卒で多い傾向がある。なお、大学卒・大学院修了では、「正社員求人に応募したが採用されなかった」と「自分の希望する会社で正社員の募集がなかった」を合わせると約6割を示す。つまり、大学卒や大学院修了の約6割は不本意な理由で正社員以外の立場で働いていたことになる。

(図表4)正社員以外の若年労働者(在学中を除く15~34歳)の今後の働き方の希望

4正社員以外の若年労働者の今後の希望~大学卒の54.4%、大学院修了の70.7%が「正社員」希望
 正社員以外の若年労働者の今後の働き方の希望は「正社員」(47.3%)が約半数を占めて多く、「正社員以外」(28.7%)が続く(図表4)。

学歴別に見ると、「正社員」は特に大学院修了(70.7%)で多く、次いで大学卒(54.4%)で多い。
 

3――学歴別に見た平均年収~大学・大学院卒の非正規雇用者の男性は30歳以上で年収300万円を越えるが、同年代の中学・高校卒などの正規雇用者の男性の年収を下回る

次に、学歴別に平均年収を推計した結果を示す。図表5・6より、性別や年齢階級、雇用形態が同じであれば、平均年収は、中学卒<高校卒<高専・短大卒<大学・大学院卒の順であり、高学歴ほど年収は多い傾向がある。また、若い年代では学歴間の年収差は比較的小さいが、年齢とともに、その差は拡大する。これは高学歴ほど年収水準が高く、年齢に伴う年収の増加幅も大きいためである。

雇用形態による違いに注目すると、性別や年齢階級、学歴が同じであれば、平均年収は非正規雇用者より正規雇用者の方が多く、年齢とともに両者の差は拡大する。また、その差や年齢に伴う差の拡大は高学歴ほど大きい。例えば、高専・短大卒や大学・大学院修了の男性では、年収のピークである50~54歳では正規雇用者の平均年収は非正規雇用者の2倍以上になる。

大学・大学院卒の非正規雇用者に注目すると、男性では同じ年齢階級の中学卒や高校卒、高専・短大卒の正規雇用者の年収をおおむね下回る。女性では40~44歳までは中学卒の正規雇用者の年収を上回るが、45歳以上では逆転も見られる。また、高校卒や高専・短大卒の正規雇用者の年収は下回る。

また、年収300万円という区切りで見ると、正規雇用者では、男性は学歴によらず25~29歳以上、女性は高専・短大卒や大卒・大学院卒の25~29歳以上、高校卒の35~39歳以上、中学卒の45~49歳以上で300万円を上回る。

図表5 性・年齢・雇用形態・学歴別に見た平均年収(2015年)

図表6 性・年齢・雇用形態・学歴別に見た平均年収(2015年)

非正規雇用者では、男性は中学卒や高校卒では全ての年代で300万円を下回るが、高専・短大卒の45~49歳以上、大学・大学院卒の30~34歳以上では300万円を上回る。また、非正規雇用者の大学・大学院卒の男性は、45~49歳以上で、おおむね400万円をも上回る。つまり、非正規雇用者の男性では大学・大学院卒で30代以上であれば、平均年収が300万円を上回るため、家族形成の壁に比較的ぶつかりにくいようだ。しかし、同じ非正規雇用者の男性でも、現在の40~50代は新卒で正規雇用者として働いた後の早期退職者が含まれている可能性もあり、20~30代とは労働者としての質が異なる可能性を考慮する必要がある。また、非正規雇用者の女性では、年収300万円を上回るのは大学・大学院卒の55~59歳の女性のみであり、その他の全ての層は300万円を下回る。

あわせて読みたい

「非正規雇用」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    首相 菅直人氏に「猛省求める」

    BLOGOS編集部

  2. 2

    たけしの"ネット批判"に大反響

    吉川圭三

  3. 3

    皇太子への失礼な記者質問に怒り

    赤池 まさあき

  4. 4

    森友学園 攻める朝日に"紙爆弾"

    文春オンライン

  5. 5

    弱者に強い"最低"な民進後藤議員

    木走正水(きばしりまさみず)

  6. 6

    金正男氏殺害で東南アジアが激怒

    高英起

  7. 7

    民進パワハラより問題な稲田大臣

    小林よしのり

  8. 8

    菅氏敗訴に"極めて残念な結果"

    菅直人

  9. 9

    正恩氏 米の斬首作戦に過剰反応?

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  10. 10

    "朝鮮特需"のメディアに望むこと

    メディアゴン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。