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天皇元首化と緊急事態条項新設批判 -ドイツナチズムの検証をとおして- 池田浩士さん

「戦争反対・改憲阻止!共同行動」主催の記念講演会に参加してきました。

 「天皇元首化と緊急事態条項新設批判 -ドイツナチズムの検証をとおして-」
 講師は、京都大学名誉教授の池田浩士先生です。
 昨日の講演の内容について、要約として掲載します。なお要約に関する内容についての文責は、私にあります。

 当時、もっとも民主的であるとされたワイマール憲法が生み出したのがヒトラー政権です。
 ドイツの選挙制度は全国1区の比例代表制で6万票ごとに1議席、最後の端数については3万票に達していれば1議席が与えられます。
 それによってナチ党の議席は次のように変遷しています。
                  (総議席)
 1928.5    12議席    2.63%  491議席
 1930.9   107議席   18.33%  577議席
 1932.7   230議席   37.36%  608議席
 1932.11  196議席   33.09%  584議席
 1933.3   288議席   43.91%  647議席

  ナチ党は圧倒的多数の国民から支持を得たという印象で語られることが多いですが、実際には最後の選挙(それ以降は、全権委任法と政党の禁止により複数政党が争う選挙はない)ですら43.91%の得票率です。
 今の自民党の衆議院の比例区の得票率とそう変わらないものです。
(但し、日本の自民党は小選挙区制により、下駄を履かせてもらっているので議席数だけでいえば「圧勝」になります。)

 ナチ党は、決して議会で過半数を獲得したことはありません。
 1933年3月の選挙の時点でヒトラーは首相に任命されていました。しかし、連立政権であり、ナチ党からは、ヒトラーと他に2人の閣僚のみという「少数派」でした。
 1933.3の選挙のときには「偶然」国会議事堂が放火された事件がありましたが、ヒトラーは直ちにドイツ共産党の犯行として同党の全候補者に逮捕状を出します。共産党候補者は選挙活動はできず、地下に潜ります。それにも関わらずそのドイツ共産党は81議席を獲得しています。しかし、逮捕状が出ていることから国会への登院は適わないことになります。
 それだけではなく、ヒトラーはこの選挙期間中にヒンデンブルク大統領に大統領緊急命令権(緊急事態条項)の発動を促します。
「ドイツ民族民衆の保全のための緊急命令」ですが、これによって候補者に対して政府批判を取り締まります。
 ナチ党は内閣の中で2人だけの閣僚とはいえ、ヘルマン・ゲーリングがプロイセン州(ベルリン)内相、ヴィルヘルム・フリックが内相というように治安機関を掌握していたため、閣僚が少数であってもこのような弾圧を実行できたものです。
  そのようなあからさまな選挙介入をしてもナチ党が獲得できたのは得票率で43.91%であり、この得票率をみても、決して圧倒的多数の国民の支持によってナチス政権が誕生したものではありません。
  ナチ党が当時、世界でもっとも民主的であり人権保障に厚かったとされるワイマール憲法のもとで、このようなことができたのは、ワイマール憲法に緊急事態条項があったためです。

ワイマール憲法48条第2項の要旨
 大統領は、ドイツ国において公共の安寧と秩序が著しく破壊されもしくは危険にさらされるときは、公共の安寧と秩序の回復のために要する処置を、必要な場合は武力を用いて講じることができる。この目的のために、大統領は「個人の自由」、「住居の不可侵」、「通信の秘密」、「思想表現の自由」、「集会の自由」、「結社の自由」という基本権を、一時的に全部もしくは一部分、失効させることを許される。

 これでは事実上の憲法の停止状態です。ヒトラーが「合法」的に政権を取ったと言われるゆえんです。
 緊急事態条項がいかに危険なものかがわかります。

 その後、ヒトラーは1933年3月12日、国旗掲揚に関する大統領布告を出します。
 同年7月20日には、「ホルスト・ヴェッセルの歌」(ナチ党の党歌)と「ヒトラー式敬礼」に関する内務大臣通達を出します。

ヒトラー式敬礼
ヒトラー式敬礼

 自民党政権下における日の丸・君が代の強制と全く同じです。
 さらに自民党憲法改正草案では、このようになっています。
 第3条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
   2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

 ヒトラーは、ドイツ国民に対し、強制も駆使しながら、熱狂的な支持を演出していくのですが、ナチ党を支持してきた層が出現したのも当時のドイツの置かれた状況下がありました。
 1929年の世界恐慌だけが要因ではありません。失業者の支持が大きかったと言われることがありますが、決してそうではありません。
 第1次世界大戦の敗戦後、ドイツ議会では、何故、敗戦となったのかということでヒンデンブルクが証人として喚問されました。
 当時のドイツ国民にとっては、何故、敗戦したのかが全く理解できない状態でした。ドイツ領内に敵国の軍隊が侵入したのは東部戦線でロシア軍が開戦初期の二度だけ、しかもいずれもドイツ軍がすぐに殲滅しており、東部戦線も西部戦線もすべて外国の領土での戦闘であったため、ドイツ国内での戦闘はなく、ドイツ国民にとって自国の敗戦は理解できなかったと言われています。
 そうしたドイツ国民の感情に沿うような証言をしたのがヒンデンブルクでした。
 彼は背中から撃たれたと証言します。ロシアや英仏との戦闘に勝っていた、しかし、ドイツ革命により背中から撃たれたから負けたんだと。
 そして、この革命勢力には、多くのユダヤ人が指導者としても加わっていたことが重要なこととしてあげられます。
 こういったドイツ国民の感情につけ込んだのがヒトラーです。
 ヒトラーやドイツ国民がユダヤ人を攻撃したのは単なるユダヤ人に対する嫌悪感ではなく、ドイツ帝国を破滅に導いたドイツ革命を指導したのがユダヤ人だからだという許し難い存在になっていたのです。
 加えてドイツの敗戦により、ご承知のとおりベルサイユ体制ではドイツに天文学的な賠償金を負わせるという一方的な内容になりました。ドイツ経済は破綻します。
 一時的にヒトラーに狂信したのではなく、ドイツ国民の中にあったベルサイユ体制とユダヤ人によってドイツ帝国が崩壊したという不満こそが、憎悪の念としてナチ党への支持へと傾斜していくのです。
 世界恐慌後のドイツの完全失業率は44%、パート労働が20~30%、正社員も同数(パート及び正社員の数字は正確ではありません。おおよそです。パート労働者は生産縮小のために労働時間が減らされていきます。)という状況のもと、ユダヤ人が仕事を奪っているというデマに少なくないドイツ国民が扇動されました。
 しかし、当時のドイツのユダヤ人人口は1%にも満たないのに、完全失業率44%がユダヤ人が原因であろうはずもなく、しかしドイツ国民はそこに疑問を挟むことなく、ユダヤ人への憎悪となりました。これが解明されたのはつい最近で、ドイツの高校生がこの虚像を指摘したことによって、みな目から鱗が落ちました。その程度のことに扇動されたのは、前述したとおり、既にユダヤ人に対する憎悪という伏線があったからです。
 単純なユダヤ人嫌いというだけでは、あそこまでひどいことができなかったのではないかと思われます。
 ドイツ国民の中には、未だにナチスの時代を良かったという人たちがいるようですが、単純にヒトラーによって扇動されただけではなく、それに至った社会的、経済的事情があったからです。
NHK「新・映像の世紀」第3集 独裁者を支える人たち

 戦後、(西)ドイツは基本法に次のように条項を入れました。
第18条 思想表現の自由、とりわけ報道出版の自由、集会の自由、結社の自由、信書・郵便・電気通信の秘密、所有権及び庇護権を、自由主義的な民主的基本秩序に敵対する闘争のために濫用するものは、これらの基本権を喪失する

 これが一般的に闘う民主主義と言われている条項です。
 この条項は確かに制定当時はナチスを念頭に置いていました。しかし、実際には西ドイツでは、東西冷戦下において反体制的な人々を逮捕し、暗殺するまでに至っていたものです。
 このようなことを見る限り、例え相手がナチスであってもこのような自由を剥奪するようなことは問題です。
(私見:このような考え方から、ヘイトスピーチに対し、罰則を設けて禁止するなどというやり方は憲法秩序には合わないという結論が導かれます。ヘイトスピーチは時の政権が取り締まらないから行われるのではなく、社会的背景があって発生するものである以上、表現内容を規制し、罰則を加えることによって克服できる問題ではありません。)
 ドイツでも禁止し、罰則を加えようが、ネオナチが一定層、存在しているのは、前述したようにドイツ国民の中にもあのナチスの時代に共感している層があり、それは社会的背景をもったものだからです。

(私見:こういったナチズムもそうですが、ヘイトスピーチなどを力や罰則で抑えきることはできないばかりか、解決の糸口さえも見失うことになります。また表現規制は必ずや反体制の活動に向けられます。日本国憲法はヘイトスピーチを禁止することを許容していないのです。)

続編です。
ヘイトスピーチを禁止したり罰則を科すということがいかに愚かなことか ナチス、西ドイツをみれば一目瞭然

「戦争反対・改憲阻止!共同行動」についての問い合わせ先
未来社 090-1382-8602
札幌市中央区宮の森1条16丁目2-22

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