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世界で頻発するテロ事件 日本は本当に安全なのか?

 世界でテロが頻発しています。特に昨年1月に仏週刊誌「シャルリー・エブド」が襲撃されたテロ事件以降、フランスなどヨーロッパで相次ぐだけではなく、アメリカでの銃乱射事件やバングラデッシュのダッカ襲撃事件など、発生場所が広がりを見せています。翻って、日本は治安が良く安全な国だといわれています。これまでのところ、こうしたテロも起きていません。日本でテロは起きることはないのでしょうか。元公安調査庁東北公安調査局長で日本大学危機管理学部教授の安部川元伸氏に寄稿してもらいました。

【写真】アジアも「IS vs.アルカイダ」宣伝競争の舞台に イスラム過激派のいま

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 「日本は安全な国です。犯罪発生率も低ければ、財布を落としても落とし主に戻ってくる。こんな国はほかにはない」――。これは、日本を愛してくれる外国人が口をそろえて言う言葉です。しかし、私たち日本人も、何者かに洗脳され、憎悪を抱かせられれば、いま欧州やアフリカ、アジアなどで起きているのと同じようなテロが起きないとも限りません。人の感情とは紙一重で、悪い方向に向かえば、罪もない人を殺傷してまで自己の恨みを晴らそうという気持ちになるものです。今世界を恐怖に陥れている「イスラム国」(IS)などのイスラム過激派は、人の心に入り込んで、その人の悲しみ、世間に対する恨みつらみを取り込み、その感情を復讐という形でテロに転化させようとしています。こうした魔の手が、やがては我が国日本にまで及んでくる可能性は決して低くはないのです。

日本でも過去に「テロ」が起きている

 過去を振り返れば、日本でも大規模な殺傷事件やハイジャック・誘拐・破壊行為など数々の凶悪事件が起きています。テロという範疇にこだわるのであれば、実行犯には、個人的な恨みのほかに、テロによって政府を転覆させるとか、政府の政策を力で変更させるなどの政治的目的が要件として必要になってくるでしょう。

 その意味では、過去に発生した「連合赤軍」事件や「オウム真理教」の事件などは、まさに我が国における代表的なテロ事件と言うことができるでしょう。現に「地下鉄サリン事件」(1995年3月)を起こしたオウム真理教は、非政府組織として世界で初めて化学兵器を造り、実際に使用し、地下鉄サリン事件では13人が死亡、6000人以上が負傷しました。オウムは未だに米国務省の「外国テロ組織」(FTO:Foreign Terrorist Organizations)にリストアップされています。

 連合赤軍事件では1972年2月の「あさま山荘事件」が有名です。連合赤軍が長野県の山荘に管理人の妻を人質に立てこもり、警察側と10日間にわたる攻防を繰り広げました。警察の突入により人質は救出されたものの、銃撃で警官2人、民間人2人が犠牲になりました。また群馬県などの山岳ベースで「総括」と称して仲間を暴行し、12人を殺害して山中に埋めた大量リンチ殺人事件もあります。

 中東など海外に拠点を置いて活動し、「テルアビブ・ロッド空港事件」(1972年2月)を起こした「日本赤軍」も、長期にわたってテロリストの扱いを受けてきました。イスラエルの空港で起きたこのテロでは自動小銃や手榴弾で24人が死亡、76人が重軽傷を負いました。日本赤軍は1999年10月から2001年10月までFTOに指定されていましたが、その後指定が解除されました。しかし、米国同時多発テロ後の2001年10月から、米国の「テロリスト入国拒否リスト」に掲載されています。

 もうひとつ重要な事件は、1991年7月に「悪魔の詩」を日本語に翻訳した筑波大学のイスラム研究者、五十嵐一助教授が何者かに殺害された事件です。「悪魔の詩」が出版され、各国語に翻訳されていた時期の喧騒を思い出せば、五十嵐助教授殺害事件は、何らかの政治的意図を持ったテロリストによる犯行であった可能性が極めて高いと言えるでしょう。

 つまり、日本にも過去にテロリストが入り込み、実際にテロが起きたことがあるということを忘れてはならないと思います。さらに、当時と現在では、我が国をめぐる国際環境も大幅に変化しています。国際貢献する中で、過激派諸組織から逆恨みされ、「日本も十字軍の一員としてジハードの主対象とする」という意味の声明が出されています。6月に起きたダッカでの日本人7人の殺害や、アルジェリアのガス・プラントで日本人が10人殺害された(2013年1月)事件も、決して偶然の出来事ではなかったと考えられます。

日本への危険を思い起こさせた仏のトラック・テロ

 最近の事件では、私は7月14日のフランス革命記念日にニースで起きたテロを注目しています。トラックを暴走させて花火の見物客をはね飛ばし、少なくとも84人が死亡し、202人の負傷者が出たという事件でした。トラックというどこにでもある物を武器にし、大量殺戮を行ったということで、これなら日本でも簡単にテロを起こすことができると思ったからです。

 これまでは、テロといえば爆弾や銃によるものが主体でしたが、これまで「イスラム国」が言ってきたように、「身の回りの物すべてを武器にし、西欧人を殺せ」という指示が現実のものになったのです。私は2008年6月に東京・秋葉原で起きた「秋葉原通り魔事件」を思い出し、背筋がぞっとしました。“この手を使えば日本でも簡単にテロを起こすことができてしまう”と。

 いまのところ、日本では、イスラム過激派のテロリストが大挙入り込んだという話は聞いていません。また、「イスラム国」の宣伝活動に感化されて、シリアやイラクの紛争地に入り込み、帰還したという日本人も話題になっていません。欧州、アフリカ、アジアなどは、シリアやイラクに渡ったいわゆる「外国人戦士」が次々に帰国し、母国でテロを起こそうと機会をうかがっていると言われていますが、日本の場合は、まだそこまではいっていないようです。しかし、「イスラム国」が日本を直接の標的にすると宣言している以上、テロリストは何らかの方法を考えてテロを実行してくると思われます。

日本を攻撃するためのテロリストの手口は?

 さて、彼らはどんな手を使って日本でテロを成功させようとするのでしょうか? かつて、アルカイダの幹部が「日本への攻撃を計画したが、どうしてもうまくいかなかった」と証言しています。その理由は、日本にはアルカイダを支援し、テロリストに便宜を提供してくれる仲間、あるいは協力者がいなかったからということでした。

 そうであるならば、彼らが本気で日本をテロ攻撃するためには、テロを手引きするような協力者の開拓に力を注ぐ可能性があります。最も手っ取り早く、資金もかからないのが、いま「イスラム国」が得意としているソーシャル・メディア(SNS)を使って、日本人の若者をリクルートし、仲間に引き込むことでしょう。テロリストは、世界の様々なニュースを見て、この国にはテロのインフラが築けそうだと感じたら、その国に合う内容のメッセージを流し、標的国の若者を取り込むよう仕掛けるでしょう。日本の場合は、その目安となるものは、社会に対する不満、憎しみ、恨みのようなものと考えられ、こうした若者の心の隙間にそっと入り込み、自分たちが最高の理解者であると印象付けます。

 極めて単純な手法に見えますが、過去の事例を見ると、多くの若者が、モスク、学校、地域コミュニティ、あるいは刑務所内でテロリストに一本釣りされ、彼らの仲間に入っているのです。最近では、警察や治安機関の目が厳しくなっているため、リクルートについては、SNSで呼び掛けるというケースが最も大きな成果を上げているようです。

 もうひとつ考えられることは、例えば、テロの目標を数年後に据えて、少しずつ秘密裏に準備を進めるというやり方です。その意味では、2020年に開催される東京五輪・パラリンピックを標的にテロの準備を進めることが考えられます。これを実行するため、今のうちから日本にスリーパー(潜伏工作員)を送り込むという作戦もあり得ます。

 これは、かつてアルカイダが使った手口で、テロを起こす数年前から工作員を標的国に送り込み、まず現地になじませ、現地で仕事を持ち、その間に標的を定め、その偵察を行い、テロに必要な物資、武器等を調達するという用意周到な作戦でした。1998年8月にケニアとタンザニアの米国大使館がほぼ同時に爆破された事件では、テロリストは4年も前から現地に入り込み、漁師を装ってテロの準備を行っていました。さらに、あの9.11米同時多発テロでも、テロリストは少なくとも実行の1年以上前に米国本土に入り、航空学校で旅客機の操縦を習っていたことなどが知られています。

 このように、テロリストは、一度公言したことは時間をかけても最後までやり通すという執念を持ってテロに臨む傾向があります。したがって、これらの過去の事件などを教訓にし、テロリストがどんな手口を使ってこようとも、後手後手になるのではなく、テロリストの計画を先取りし、テロを未然に防ぐべく対策を講じる必要があると思います。

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■安部川元伸(あべかわ・もとのぶ) 神奈川県出身。75年上智大学卒業後、76年に公安調査庁に入庁。本庁勤務時代は、主に国際渉外業務と国際テロを担当し、9.11米国同時多発テロ、北海道洞爺湖サミットの情報収集・分析業務で陣頭指揮を執った。07年から国際調査企画官、公安調査管理官、調査第二部第二課長、東北公安調査局長を歴任し、13年3月定年退職。著書 「国際テロリズム101問」(立花書房)、同改訂、同第二版

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