記事

オリンピック選手の亡き親~「究極の他者」の声と手

■4連覇、霊長類最強でも、彼女らは「若者」

今回のオリンピックで印象的なのは、レスリングの吉田選手や伊調選手の「親の死」を、彼女たちがどう受けとめているかだ。それはトラウマでもありモチベーションでもあるが、彼女らのコメントからは、そう単純には捉えきれない複雑な感情が浮かび上がる。

4連覇だ、霊長類最強だといわれても、彼女らは30才そこそこの若者であり、その年齢での親の死はつらい。が、最強のアスリートでもある彼女らの親の死の乗り越えは、やはりその競技人生と重なるようだ。

いや、競技人生というよりは、勝負のギリギリの段階になった時、死んだ親たちが彼女たちの目の前に現れることが感慨深い。伊調選手のコメントで、「最後は母が背中を押してくれた」は印象的だったし、吉田選手は最後まで亡き父が背中を押してくれることを期待していたようだ。

親は死んでしまっても子どもにとっては最大の「他者」であることは間違いない。いい意味でも悪い意味でも、親は子どものそばに存在している。

いや、死んでからのほうがその存在感が大きくなるようにも僕には思われる。

■勝負の最終盤の究極の場面において鳴り響く声

というのも僕も30代なかばで父を病気で亡くしたが、死んでいるのは当然知っているしホンネでは少しホッとしている部分もあったりはするのであるが(なかなか難しい父だった)、その父は最大の「他者」(自分意外の「other」)として今も僕の中に存在している。

オリンピック選手のようには親との濃密な関係はなかったものの、生前の父のことばやふるまい、印象的なエピソードなどは今も時々思い出しては複雑な感情に包まれる。

その包まれ方を実感することが、僕の日々の仕事(青少年支援)やプライベートにポジティブに働いているようだ。

オリンピック選手たちもたぶん、表現は難しいものの、究極の場面で聞こえてきた親の声(あるいは聞こえなかった声)の存在感が、究極の勝負の場面で決定的に鳴り響いたと思われる。

勝負の最終盤の究極の場面において鳴り響く声、あるいは押してくれるように感じるその手の感触こそが究極の「他者=other」であり、その究極の瞬間においては、現実の勝負の相手は二次的な存在になり、その亡き親という「究極の他者」の声や背中に届く手とコミュニケーションしているのだと思う。

■この感覚こそが「親」

たぶんこの感覚こそが「親」というものだろう。だから、児童虐待等で乳幼児時代に親が不在になった人は、その「不在」という事実を死ぬまで引き受けるあるいは「抱きしめて」いくと思われる。

最大の他者の「あらかじめの不在」は、その当事者にとっては最大の決定事項ではあるが、一概にネガティブな要因だけでもなく、その不在こそが当事者をポジティブにつくりあげる可能性もある。

これは「実の親かどうか」ということは二次的であり、「子どもにとって最大の他者がそこに存在するかどうか」ということが問題であることから、幼少期にアタッチメント(愛着や「部品」の意)を形成できた特定の大人がいたかどうかのほうがポイントとなる。だから、その存在が「里親」であっても関係はない。

ただし、里親ではない大規模宿泊施設は、特定のアタッチメントを特定の大人と結べないことから、「他者の不在」がテーマとなる。上記の通りその不在を「抱きしめて」しっかりキャリアを重ねる人もいれば、どちらかというと大部分は、その不在がネガティブに現れる場合もあるだろう(ある種の「人格障がい」的状態像や、発達障がい的状態像等)。

■通過儀礼の一モデル

また、ひきこもりの人々にとっての最大のタブーは「親の死」であり、ディーブなひきこもり当事者は、極端な話、「親は死なない」あるいは「親が死んだら同時に自分も死ぬ」と考えている。

ひきこもりは、親は死んでも最大の他者として自分のそばにいるという事実まで想像できる余裕がない、といってもいいだろう。

それはたぶん、究極場面でたたかうアスリートたちも同じだ。

吉田選手も伊調選手も、突然の親の死をいまだに「抱きしめながら」乗り越えているように僕には見え、だからこそ彼女らもひとりの「若者」だ。

が、勝負の究極場面で亡くなった自分の親たちと「コミュニケーション」する彼女たちの姿は、親の死の迎え方という、若者にとっての最大の通過儀礼の一モデルを見せてくれてもいると僕は思っている。そのありように対して、称賛とともに、感謝します。★

※Yahoo!ニュースからの転載

あわせて読みたい

「リオ五輪」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    日米が演出 「開戦前夜」の狙い

    PRESIDENT Online

  2. 2

    橋下氏"日米は韓国の声聴くべき"

    橋下徹

  3. 3

    北への武力攻撃は"今しかない"?

    小林よしのり

  4. 4

    元モー娘。小川麻琴が大学講師に

    メディアゴン

  5. 5

    メルカリで卒アルを売買する理由

    キャリコネニュース

  6. 6

    自民が超会議でカレーを無料配布

    キャリコネニュース

  7. 7

    日本電産会長が億単位の寄付

    中田宏

  8. 8

    中国人金持ちマダムの旅行に密着

    文春オンライン

  9. 9

    首相の「森友隠し」思惑は外れた

    五十嵐仁

  10. 10

    「ゴムつけて」反発しない伝え方

    市川衛

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。