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「家売るオンナ」「営業部長 吉良奈津子」~ドラマに見る営業女子の現実 - 朝生容子 キャリアコンサルタント・産業カウンセラー

7月期の民放各局のドラマでは、「家売るオンナ」「営業部長 吉良奈津子」と、営業に携わる女性が主人公のドラマが、2本放映されています。まだまだ営業に従事する女性は少数派である中で、複数のドラマで「営業女子」が主人公になったのは、画期的なことではないでしょうか。不動産業界での個人向け営業と広告業界の法人向け営業と違いはあるものの、2つのドラマの主人公を比べつつ、営業職女性が活躍する課題について考えたいと思います。

■注目浴びる「営業女子(エイジョ)」だが…


女性活躍推進のムーブメントの中で、営業職として女性の注目度は高まっています。2014年11月に人材エージェントを対象に行われた調査で、今後最も注目されるキーワードの第一位に「営業女子」があげられました。(株式会社リブ調査 転職のプロにアンケート調査:2015年ハイキャリア女性の転職大予測)営業で働く女性が主人公となったドラマが登場したのも、こうした時代の流れを反映していると考えられます。

しかし、現実には女性は営業職に定着していません。今回とりあげるドラマでも、登場する営業担当者は男性が大半を占めています。「吉良奈津子」も「家売るオンナ」も、外回り営業を担当する中堅以上の社員は主人公のみ。それ以外で登場する女性は、新人、もしくは営業サポートの内勤社員です。

女性活躍推進のための異業種交流プロジェクト「新世代エイジョカレッジ(「エイジョ」は営業女子の略)」では、女性営業職の数は、入社10年目までに10分の1にまで減ってしまうと報告されました(2015年度新世代エイジョカレッジ参加者報告)。

営業職女性の活躍には2つの壁があると、同プロジェクトでは分析しています。第一の壁は入社1~4年目。営業を好きになれない、向かない人が離れていきます。第二の壁が、入社4~10年。結婚、出産などのライフイベントと仕事との両立が、営業を続けるハードルになるといいます。

■ドラマでもライフイベントとの両立に苦戦する営業女性


営業職の女性がライフイベントとの両立に苦労する背景には、営業部門での慣習や固定概念があります。売り上げ目標達成や顧客の要望を最優先するめに長時間労働を余儀なくされるため、結婚、出産、育児をもこなすのが難しくなってきます。そうした営業女性の様子は2つのドラマでも描かれています。

「営業部長 吉良奈津子」の主人公は、子供を持つ広告代理店の営業部長。3年間の育休休職のあとに復職するものの、元のクリエイティブ・ディレクターの仕事には戻れず、経験のない営業に部長として配属されます。

重要な商談のために夜遅くまで接待に出ざるを得なかったり、急ぎの提案書作成のためにほぼ徹夜の残業をしなくてはならなかったり…。直近の放映回では、子どもの保育園でのイベントのために重要な取引先のイベントを欠席したにもかかわらず、トラブルが生じて取引先に駆けつけなければならなくなります。仕事と子育てと、双方の責任の重さに悩む姿が描かれていました。

一方、「家売るオンナ」の主人公、三軒家万智は独身の30歳。不動産会社の営業としてトップの成績をあげています。昼夜を問わず仕事に邁進しているようですが、結婚願望はあり、上司がもってきた婚活男女向けの料理教室に自ら手をあげて参加したことがあります。仕事一筋のバリキャリと思いきや、実は幸せな家庭を築くことを望んでいるが、なかなかうまくいかない実情などが明かされます。

実は私自身、営業職時代に、不妊治療との両立に悩んだ経験があります。その時々の体調によって直前に通院するか否かを決めるのですが、顧客との予定が入っていると、どうしてもそちらを優先せざるを得ず、病院に行くことを見送らなくてはならないことが続き、最終的に内勤に異動希望を出すことになりました。

ドラマでは、現時点では両立の解決策までは示されていません。しかし現実には、この問題解決に取り組む企業も見られるようになっています。前述の「エイジョカレッジ」では、営業職女性が企業横断型プロジェクトチームを組み、「移動時間の短縮のための共通のサテライトオフィス」「労働時間削減項目をマネジメント層の人事評価制度に追加」といった提言を経営陣に行ったそうです。こうした取り組みは、「営業は長時間労働があたりまえ」という前提そのものにメスを入れようとしているのが特徴です。

■「営業」にやりがいを持てない女性たち


しかし両立しやすい環境整備を行ったところで、当の女性が営業にやりがいを持ち、好きになってもらわなければ、女性営業職の定着にはつながりません。

前述の「第一の壁」で見られたように、営業職女性が、営業を離れる大きな理由が、営業好きになれないというものです。私が営業職女性から相談を受けた中でも、顧客がほしくもないものを無理に売り込まなければならないといった抵抗感や、単なる御用聞きでしかないので企画力やなどは身につかないといったキャリアに対する不安を口にする営業職女性は少なくありません。

■顧客の真のニーズを実現する「家売るオンナ」


ここで注目したいのは、「家売るオンナ」主人公の三軒家万智の営業手法です。彼女は、常識にとらわれない斬新なアプローチで顧客の真のニーズを掘り出し、家を買ってもらうことでそのニーズを実現、結果的に高い売上につなげています。時には、顧客の依頼にすら反する物件を紹介することもありますが、最終的に顧客は、三軒家の案に満足します。

たとえば、第2話では、20年間ひきこもりを続け、40代半ばになってしまった息子を持つ年配の夫婦が顧客として登場します。。一戸建ての自宅からマンションに買い換えて、差額の資金を息子の将来のために遺したいと希望する夫婦に対し、マンション2物件を勧める三軒家。予算オーバーだと拒む夫婦に、彼女は「差額を残すだけでは、引きこもりはあと9年しか続けられない」「賃貸用マンションも購入し、家賃収入を得られれば、息子が100歳まで引きこもっていられる」と提案します。

同席した部下は、引きこもりを助長するようなその案を批判します。しかし三軒家は「40半ばにもなって仕事の経験がない人間が、いまさらどんな仕事ができるというのか。小さな価値観で物事を語るな!」と一喝します。無駄な感傷を排し現実を冷徹に見つめた論理的な彼女の提案は、顧客自身にも自分の人生についての考察を促し、現実と向き合わせることになるのです。

彼女が担当物件の価値を顧客のニーズに合わせ、多様な視点から評価しなおすのも特筆すべき点です。たとえば、担当物件は一般的な市場価値がないから売れないと文句を言う部下に対し、逆転の発想でメリットがあることを指摘します。駅までの道の交通量が多く危ないことを「女性にとっては夜道でも安全といえる」、西向きであることは「休日は朝ゆっくり眠っていられる」といった具合にです。その様子は、単にモノを売るというより、マーケティングや商品企画の役割まで担っているようです。

彼女の考察と顧客のニーズとがぴたりと合致した時、三軒家は「落ちた」とつぶやきます。会社への貢献と、顧客の満足と、自らの喜びが最大限に達した一瞬なのです。

こうしてみると、営業の仕事が「顧客の言いなり」や「顧客の望まないものを口八丁で売りつける」というのは誤解であることがわかります。優れた営業は、顧客さえ気づいていないニーズを掘り起こすことや、自社の商品の価値を顧客のニーズに即したものに読み替えていく多面的な視点や思考力が求められます。その力は、営業のみならず、いわゆる「企画職」といわれるマーケティングや商品企画等にも応用できるものです。

■現実の営業女性活躍のために必要なこと


営業経験間もない女性たちが、営業を離れていく現実を見ると、残念ながら営業の奥深さや本質の伝わり方は不十分と考えざるを得ません。その大きな理由は、営業に携わる上司や先輩が、営業の醍醐味を語れていないからであるように思います。私自身の営業時代を振り返っても、営業の楽しさを当時、部下や後輩に語れたかは疑問です。そしてそれは、「営業には長時間労働が必要」いう固定概念にとらわれていたからです。ライフイベント上の不安の強い女性には、それらを乗り越えるためにも、営業の醍醐味を特に強く伝えていく必要を感じます。

元営業職女性の勝手な希望かもしれませんが、せっかく営業に携わる女性をドラマで描くのであれば、ドラマの主人公には、仕事とライフイベントとの両立を、斬新な方法で実現してほしいなと思います。現実では、長時間労働の是正などに取り組む企業が増えてきたとはいえ、その実現はまだまだ障害が多いでしょう。せめて、ドラマの中でそのヒントを得たいと思うのです。その前提となるのは、女性達が営業の本来の役割に目覚めることが前提であることは言うまでもありません。


【参考記事】
■営業部長 吉良奈津子」はなぜスタートダッシュに失敗したか?
http://sharescafe.net/48746494-20160603.html
■英国首相選ではなぜ「子供を持つ母親」が不戦敗したのか?
http://sharescafe.net/49083976-20160715.html
■「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣?
http://sharescafe.net/48120829-20160322.html
■育休ママがMBAを学ぶ上で注意すべきこと
http://sharescafe.net/45201771-20150617.html
■SMAP騒動の裏に見える「中年の危機」
http://sharescafe.net/47565368-20160120.html
http://sharescafe.net/49232344-20160804.html

朝生容子 キャリアカウンセラー・産業カウンセラー

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