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監視?防犯?プライバシー?設置に揺れる福祉施設の監視カメラ

福祉施設においてさまざまな問題が取りざたされる現在。監視カメラの導入についても、その賛否が問われています。施設としてどう方向性を打ち出すのか。そのメリットやデメリットについて考えていきましょう。

1. 施設運営と犯罪

 ひと昔前まで、福祉施設に監視カメラを設置することは、いくら防犯上有効なものだったとしても、道義的に褒められたものではないという考えが主流でした。そこに暮らす方々を、カメラで監視することによって効率的に管理するイメージがあったからでしょうか。施設見学に行って監視カメラを目にすると、嫌な気分になったのを覚えています。

 しかし職員による入居者への虐待が次々と発覚する中、そういった考えは世間的にも少しずつ薄れていったように感じます。家族が不審に思って取り付けるくらいなら、やはり最初から付けておいた方が良いのではないか……と。この意見には賛否両論あり、「プライバシーがなくなる」「信頼されていないと職員の士気が下がる」「虐待の防止策なら教育に力を入れるべき」など、まだ議論の余地がありました。そして、先月起きた障害者施設の悲しい事件。この事件で監視カメラは防犯の意味では役に立たなかったようですが、「福祉施設に監視カメラは必要ない」とはもう誰も言えなくなりました。

 「利用者の安全を守る・命を守る」という観点でいえば、災害対策の方がピンとくる施設運営です。これまでいろいろな事件はありましたが、それは入居者の命を脅かす種類のものは稀でした。しかし現在はまず施設としての防犯対策に重点を、とりわけ監視カメラは標準設備と言わざるを得ない時代になったように感じます。

2. 導入にあたり、忘れてはいけないこと

 入居を決めるための見学や問合せなどで、施設の防犯対策や監視カメラについて問われるケースが増えています。預ける側の家族としては、「安全に過ごして欲しい」と願うのは当たり前です。監視カメラの有無で入居を決める方も、今後は増えてくるでしょう。監視カメラ(防犯カメラ)を設置している福祉施設を見てみると、次のようなケースに分かれています。

  1. 出入り口のみに設置している
  2. 出入り口とパブリックスペース(食堂や廊下など)に設置している
  3. 居室を含め、全ての場所に設置している
  4. 出入り口やパブリックスペースは設置。居室のみ、入居者や家族の希望で設置する

 防犯用や徘徊による事故防止のための監視用など、各施設の特性や考え方によって設置されています。公にはされていませんが、中には職員がサボっていないかなど、職員側の監視用として使用しているケースもあるようです。

 しかし、「監視カメラが設置されているかどうか」が重要なのではありません。本当に大切なのは、設置にあたって施設としての方針や運用ルールがきちんと決められているかという点。防犯を掲げれば何でもまかり通ってしまうようでは、そこに住む方々の自由が簡単に失われてしまう危険があるでしょう。これはとても危険なことです。福祉施設は、そこに住む方々の安全を守るのと同時に、プライバシーも守らなければなりません。

 導入にあたっては、そこで暮らす入居者や家族、職員へも必ずこれらを説明しましょう。「常にカメラに監視されている」と感じるのか、「守られている・安心だ」と感じるのかは個人差があるもの。だからこそ、施設としての方針と運用のルールを策定し、しっかり利用者やその家族に説明していくことが大切になります。「いつの間にか付いていた」なんてことのないようにしたいものです。

3. 監視カメラの効果

 外部からの犯罪を抑止する効果として、やはり監視カメラは有効です。そして、残念ながら減らない職員による入居者への虐待に関しても、かなり有効と言わざるを得ません。

虐待防止に効果

 人は誰でも間違うもの。さまざまな悪条件が重なると、超えてはいけない一線を越えてしまう時があります。そこを踏みとどまらせてくれるのが教育であり、プロとしてのプライドであり、そしてスキルでした。しかし人手不足の現在、そうした教育を受けていなかったり、プロとしての意識が欠けていたり、あるいはメンタルコントロールのスキルが低い職員がいるのが実際です。事業所としていくら研修に力を入れても追いつかない状況なのです。そういった意味で、「カメラがある」という職員への非常に分かりやすいメッセージは、抑止力となって効果を発揮します。もちろん、それだけに頼ってはいけません。教育や研修はしっかりと行うべきでしょう。

事故解明の手段となる

 入居者は、時として予想できない動きをします。例えば、原因不明の内出血がでることもあるでしょう。動けないはずなのに、ベッドから落ちるといったこともあります。もし部屋にカメラが付いていれば、次の事故を防止するための手段を見つけることができるかもしれません。また、原因を解明することで、家族がモヤモヤと抱いていた不審を取り払うこともできます。虐待を疑われた職員を守ることにもなるのです。

4. 国としての対策は

 今後議論されてくると思われますが、国や自治体としての対策はどうなるのでしょうか。現在のところは、各事業所に注意喚起の文書が回った程度です。そこに示されているのは、施設内の防犯体制の整備や地域住民との協力など。しかし、これで安全は守られるのでしょうか。

 大規模な法人なら、監視カメラの導入や夜間の警備員の配置などが考えられます。しかし、小規模な民間の場合はそうはいきません。設備の導入費用や人件費の増加は、現実的に厳しいといった面もあるでしょう。国は、要件に当てはまる事業所には段階に応じた補助金を出すなどといった具体案を、是非とも検討してほしいものです。

 少なくとも、「各事業所の努力で何とかしましょう」レベルの話ではない問題です。尊い福祉の担い手に安心して働いてもらうためにも、国のフォロー体制がしっかりと整えられることを願います。

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