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写真のデジタル加工、どこまで許される?

 ドイツ人の写真家、タミナ・フロレンタイン・ザックさん(25)は、ムンバイを走る電車の開け放ったドアの近くにたたずむ女性を写した印象的な写真で国際的な賞を受賞した。しかし、ネットでたちまち批判を浴びせられた。写真は合成だ、色が加工されている、信用できないといった内容だった。

 カメラレンズメーカー「カールツァイス」にちなんだ2016年の写真コンテスト「ツァイス・フォトグラフィー・アワード」の関係者は、ザックさんを擁護した。ザックさんは、インドで撮影した一連の写真が評価され最優秀賞を獲得した。今年初めに同じ写真が、米スミソニアン博物館を運営するスミソニアン学術協会が発行する「スミソニアン・マガジン」のコンテストで賞を受賞した際は、主催者が写真を詳しく調べ、本物であることを確認することまでした。

 「このたった1枚の写真にこれだけ多くの時間と労力をかけて議論する人たちがいることが信じられなかった」とザックさんは話す。夕暮れの中でザックさんが撮影した写真について、あれこれ分析した200を超えるコメントが寄せられたという。「今は誰もがあらゆることを疑っている」とザックさん。

 デジタル加工――そして、その容赦ないあら探し――の新たな波が今、フォトジャーナリズムの世界を揺るがしている。大物写真家や由緒ある写真コンテストの一部が近年、改ざんの非難を受け、名誉を傷つけられている。スポーツにおけるドーピングが、誰もが不正を働かないのが前提の戦いを汚したように、フォトショップのような編集ツールが、どの写真にもうそがないことが当たり前だった業界にますます疑惑の影を投げかけるようになっている。

 報道機関はこの問題に取り組んでいる。ロイターは昨年後半、デジタル加工を回避するための措置の1つとして、フリーランスのスタッフに対し写真を改ざんしにくいオリジナルのフォーマットで送るよう義務づけた。また、今年の「世界報道写真コンテスト」では新たな規則が導入され、わずかなコンテンツでも加えたり除去したりした場合や特定の色調整を行った場合、審査から除外されることが定められた。さらにナショナルジオグラフィックは数カ月前、デジタル加工を防止し、新たな寄稿者にも規則を明確にするため倫理指針を改定し、写真家に送付した。

 写真業界誌フォト・ディストリクト・ニュース(PDN)の編集長であり、業界で長年働くデービッド・ウォーカー氏は、報道機関が写真の積極的な変更を見逃してしまっていることで「加工がはびこる」ようになっていると指摘する。同氏は「コントラストを明確にしたり、色の明るさを変えたりするなど明らかに後処理されている写真を大手報道機関の紙媒体やオンライン媒体でよく目にする」とし、「もちろん証明はできないが、そうしたものの一部は数年前であれば『嗅覚テスト』でひっかかっていただろう」と話す。

 編集がどこまで許されるのかに関しては共通の基準はほとんどなく、業界ではある程度のデジタル的な修整は一般的なこととなっている。ナショナルジオグラフィックが許容範囲とみなして最近掲載した写真が、ある写真コンテストでは加工しすぎとみなされ審査から外された。ナショナルジオグラフィックのスーザン・ゴールドバーグ編集長は先月、読者への手紙の中でどちらの組織が正しい判断を下したかについては議論が必要だと述べた。

 20年以上前、タイム誌の表紙に掲載された色を意図的に暗くしたO・J・シンプソンの顔写真が物議を醸したが、写真加工はそれ以前からもジャーナリズムで問題となってきた。しかし、デジタル編集ツールが簡単に操作でき、どこでも手に入るようになったことで高度な写真加工の発見が以前よりはるかに難しくなり、議論は激しさを増している。

 肝心なのは、修整された写真が事実なのか、それとも創作なのかという点だ。完成された写真は実際の出来事を表現しているのか、それとも興味を引くためのでっち上げにすぎないのか。広告、芸術、フォトジャーナリズムはいずれも異なる編集基準に従っているが、インスタグラムなどのソーシャルメディア(SNS)の台頭でそれらの境界があいまいになっている。スマートフォンのおかげで素人でも2、3の簡単な操作で写真を修整できるようになり、どこでも完璧な画像が期待されるようになっている。多くの報道機関が人員削減で写真部門の「門番」を排除した結果、新人が良き指導者のいないまま業界で仕事をこなすようになっている。また、報道機関は現場に居合わせた一般人が撮った写真やネットに出回っている画像を使用することも増えている。たとえ、その信ぴょう性が確認できない場合であってもだ。

 世界報道写真財団のマネジングディレクター、ラース・ボーリング氏によると、今年、世界報道写真コンテストの最終選考に残った写真の16%が、第三者の審査員団が写真の科学調査リポートを精査した結果、デジタル加工を理由に除外されたという。応募作品に詳しい関係者によると、窓を1つ消したり、壁の汚れを除去したり、色を変えたりするなどして写真がオリジナルのカメラ内のファイルと異なるものが許容不可能な変更と判断されたという。

 しかし、基準にはばらつきがある。世界報道写真コンテストでは2016年は最終選考直前まで残った応募作品174点のうち29点、2015年は100点のうち20点がそれぞれ審査員団に除外された。これに対し、「国際写真賞」では今年、応募作品全5万8000点のうち精査の結果除外されたのは十数点だ。国際写真賞を監督するリック・ショー氏は「人や報道機関ごとに加工の基準は完全に異なる可能性があるため、写真家に恥をかかせたり、おとしめたりすることはしたくない」と説明した。

 画像の信ぴょう性を確認していないコンテストもある。ロンドンに拠点を置く世界写真機構(WPO)主催の「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード」では、ドキュメンタリー部門の応募作品をオリジナルの未編集の写真ファイルと比較することはせず、応募者の加工はしていないという言葉を信頼している。

 疑わしい報道写真はメディアへの不信を高め、陰謀説をあおりかねない。全米報道写真協会の法律顧問は「人々が報道写真を真実でないと考えるようになれば、それら画像の価値は大幅に損なわれ、写真家や報道機関の信頼性が大きく傷つけられることになる」とし、さまざまな業界の力学が「加工画像という危機的状況」を作り出していると指摘した。

By ELLEN GAMERMAN

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