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ボコ・ハラムに拉致された1万人の少年たち

少年指揮官を務めていたイドリスは他の数千人の少年たちと同じく、イスラム系過激派組織ボコ・ハラムに誘拐され、少年兵となった(5月29日、ナイジェリア北東部マイドゥグリ) Photo: Mackenzie Knowles-Coursin for The Wall Street Journal

【マイドゥグリ(ナイジェリア)】ナイジェリア北東部マイドゥグリの郊外からさらに離れた森林の中、約100人の少年がライフルの使い方を覚え、サンダル履きのまま行進の仕方を教わる。5歳児も含むその集団を指揮するのは、わずか15歳の少年。イスラム系過激派組織ボコ・ハラムが運営する訓練キャンプではありがちな風景だ。

 「言われた通りにやらなければ殺されると思って怖かった」と話すのは、かつて少年指揮官を務めていたイドリス。2014年にボコ・ハラムに拉致され、隙を見て逃亡した経歴を持つ。

 ボコ・ハラムによる女性や少女らの大量拉致事件が世界の注目を集めるが、同組織はそれをはるかに上回る数の少年を誘拐している。ナイジェリアや隣国カメルーンの政府、そしてニューヨークに拠点を置く国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ここ3年だけでもボコ・ハラムは1万人を超える少年を拉致し、森の中にある訓練キャンプや捨てられた村を拠点としてトレーニングを続けているという。

ボコ・ハラムに拉致され、その後逃亡した少年がWSJのインタビューに応じた(英語音声、英語字幕あり)Photo: Mackenzie Knowles-Coursin for The Wall Street Journal.

 少年兵は1990年代に紛争を経験したアフリカ諸国でも大きな問題となった。しかし現在ナイジェリア北東部で拡大しているのは、子供をジハード(聖戦)主義に洗脳するやり方だ。拉致された若い少年や少女は暴力的な原理主義の思想を吹き込まれ、その後にスパイや自爆テロ要員、そして兵士として利用されることが多い。

 この傾向はイスラム過激派が勢いづく他の国でも見られる。イエメンやソマリアやマリに拠点を持つ国際テロ組織アルカイダの指揮官らも、若い兵士を戦場に送り込んできた。過激派組織「イスラム国」は少年兵に戦闘や自爆テロを行わせるだけでなく、シリアやイラクで撮影された人質の処刑動画に登場させるなどしている。

 ナイジェリアやカメルーンの政府関係者、兵士、研究者、そして実際にボコ・ハラムに囚われていた経験を持つ少年らの証言は、ジハードに参加させられた子供たちの痛ましい日常の一端を明らかにした。なお今回の記事では彼らの苗字は伏せている。


ナイジェリア軍とボコ・ハラムの戦闘で家を追われた人々の難民キャンプ(マイドゥグリ郊外)

 ボコ・ハラムの活動を目撃した人々によると、拉致された少年らは武器すら持たせてもらえずに戦場へ送り込まれることもあり、ドラッグを使って恐怖心を和らげられた状態で戦うという。一方、訓練キャンプでも少年らは暴力に怯えながら生活し、餓死や脱水症状で命を落とすこともある。目撃者らの証言はどれも裏付けとなる証拠があるものではないが、研究者や軍の関係者の話と照らし合わせてつじつまが合うものだ。

 11カ月にわたってボコ・ハラムに監禁されていた少年サミユは、「自分の親であっても虐殺したりするのは許されると教わった」と話す。彼は誘拐された初日に公開処刑を目撃。頭部が切断される際に相手が動かないよう、体を押さえつけるのを手伝わされた少年もいたという。「天国に行きたいならば、指示通りにしろと言われた」とサミユは明かす。

 目撃者によると、ボコ・ハラムは何台ものバンを使ってナイジェリア北東部の森林を少年兵らと移動する。中には1,000人以上の少年や青年を訓練するキャンプもあるが、そのような施設にも監督役となる大人はほとんどいないという。

 「そういったキャンプに行くと、12歳の子供が村を焼き落とす方法を話し合っている。彼らは改宗させられているんだ」と20歳の元捕虜、ファティマは話す。


AK47自動小銃のネックレスを身に着けるマイドゥグリの青年 Photo: for The Wall Street Journal

 拉致された少年らが自力で脱出したり政府軍によって保護されたりした場合、彼らをどう家族の元へと帰すべきなのか。アフリカ西部の各国政府はその対応についても苦慮している。

 ナイジェリアは、1990年代から2000年代にかけて勃発したリベリアでの内戦において平和維持軍の一部として尽力した経験を持つ。その際には数千人もの少年らが武装解除され社会や家庭に復帰。平和維持活動に携わったうちの何人かは現在、ナイジェリア軍の幹部将校を務めている。ただし彼らが今回対処しなければいけないのは、リベリア内戦で軍閥が行なった洗脳とは全く違う破滅的な考えを植え込まれた少年らの更生だ。

 ボコ・ハラムは結成された当初から若い少年らを勧誘し続けた経緯がある。若い兵士らはスパイや密使として当初は利用されたが、やがて戦いの最前線に送り込まれるようになったとナイジェリア軍関係者やヒューマン・ライツ・ウォッチは話す。


マイドゥグリにある難民キャンプで幼児を抱える母親 Photo: for The Wall Street Journal

 2013年当時、12歳のアッバは学校に通う家なき少年だった。ある日ボコ・ハラムのメンバーが彼に携帯電話を与え、兵士を見かけたら電話をするように命令してきたという。「僕の仕事はそれだけだった」と話す彼だが、その数カ月後には軍によって逮捕された。のちに9歳から15歳までの34人の他の少年らと共に、アッバは記者会見を行っている。その34人の中には30ドルの報酬とガソリンが入った樽を渡され、学校に放火するよう命令を受けていた少年もいた。

 ボコ・ハラムはやがて大きな町を狙い始め、その過程で多くの少年を誘拐するようになる。2014年にナイジェリア北東部チボクから276人の少女を大量拉致した事件は、世界の注目を集めた。しかしその一方、チボクの事件が起きた翌月にも近郊の山沿いにある6つの村が襲撃を受け、子供たちが拉致されているが、同国以外のメディアでその事件が注目されることはなかった。

 さらに数カ月後、ボコ・ハラムはナイジェリアのダマサクの町も襲撃し、7歳から17歳までの300人もの生徒を拉致。誘拐された少年らは学校に閉じ込められ、ナイジェリアのメディアや目撃者の証言によると彼らは何カ月にも渡ってイスラム教の聖典コーランの教えを説かれ続けたという。そしてボコ・ハラムは別室に監禁した親だけを残し、子供らを連れて逃亡。現時点でも300人の消息は一切判明していない。


ボコ・ハラムから逃れたイドリス Photo: for The Wall Street Journal

 ボコ・ハラムはその後も活動地域を拡大させ続けた。2014年にもなるといくつもの訓練キャンプを設置し、誘拐した子供たちに軍事訓練を受けさせるようになる。

 13歳のレイチェルは1年ほどそんな訓練キャンプで過ごした経験を持つ。彼女も拉致された初日に公開処刑を見せられ、数十人もの少年が誘拐された男性が抵抗しないように彼を縛り上げる様子を目撃。少年たちは「自分がしていることについて感情を持つな、と言われていた」とレイチェルは話す。現在、彼女はレイプによって身ごもった子をお腹に抱え、ボコ・ハラムから救出された少女のための収容キャンプで生活を続ける。

 ボコ・ハラムの訓練キャンプでは、銃を持つことすらろくにできない年端の行かない少年が射撃の訓練を受ける。13歳のモデゥも、過去に監禁された際に木に向かって射撃の練習をし、中には牛や羊を射撃の練習に使う少年もいたと話す。13歳のレイチェルが滞在したキャンプでは、年上の兵士が少年らを引き連れて地方へ出向かい、家畜を略奪するなどしていた。また逃亡に成功した少年らの話によると、キャンプでは些細な規律違反でも厳しく罰せられ、意識がなくなるまで殴られたり、食事や睡眠の時間を奪われたりしたという。

 一方、拉致された少女らは別のエリアに集められ、レイプされた。被害者自身や被害者のカウンセリングを行った専門家によると、そのレイプを行うのは少年らだった。ある13歳の少女は同世代の少年に強姦され妊娠。「再びこうしたことが起こらないように、政府には少年兵らを含む全員を殺害してもらいたい」と彼女は話す。




カメルーンでボコ・ハラムに対する自警団を組織した人々

 軍の関係者によると、ボコ・ハラムによって兵士に育て上げられた少年の多くは戦場で恐怖心を全く見せないという。

 カメルーンではドラッグの使用により酩酊状態となった少年兵らがなたを持って集団で暴れる事案が発生。地元の軍隊ユニットがヘリコプターや砲兵隊を出撃させて対処したと軍の広報担当者であるディディエ・バジェック大佐は説明する。

 「この行為を批判する国際団体もあるが、実際に戦場にいるのは彼らではない。私たちだ」と話すバジェック大佐。彼は「1000人の被害者を出すよりも一人の少年を殺害した方がいい」とも話す。

 同じくカメルーンの北部では100人以上の少年らが武装した軍に向かって叫びながら突撃をする事件も起きた。その際、少年らの多くは武器を持たず、裸足で攻撃してきたという。軍が対応した後に調べてみると、少年らのポケットからはオピオイド系の鎮痛剤が見つかったとバジェック大佐は言う。


捨てられた小学校で生活するナイジェリア・マイドゥグリの子供たち Photo: for The Wall Street Journal

 ボコ・ハラムの洗脳教育を受けた子供らを再び社会復帰させるにはどうすればいいのか。この難題に挑むナイジェリア政府は、新たなシェルターを設置するなどし、誘拐された少年や組織から逃亡した兵士たちに提供をしている。

 しかし助けを求めてくる人数はわずかだ。

 「ある年齢層の少年がほぼまるごと行方不明になっている状況だ」と話すのは、ナイジェリアのヒューマン・ライツ・ウォッチに務めるマウシ・セグン氏。同氏は「彼らの多くが戦場で死ぬことになるのだろう」と語った。

DREW HINSHAW AND JOE PARKINSON

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