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「戦争の記憶を残すこと」と「孤児著作物」の問題

第二次世界大戦終結から71年。実際に戦争を経験した人々は高齢になり、その戦争体験を直接うかがう機会が失われようとしています。
Yahoo! JAPANでは、戦争の記憶と記録を伝える100年間のプロジェクト「未来に残す 戦争の記憶」において、戦争に関する番組や様々な情報、戦争を体験した人々の言葉などを収集して紹介しています。軍事郵便と呼ばれる、当時の社会の様子や、戦地の風景などが描かれた戦時中の絵葉書もその一つです。

絵葉書ギャラリー
http://wararchive.yahoo.co.jp/gunjiyubin/photo/

軍事郵便とは
http://wararchive.yahoo.co.jp/gunjiyubin/guide/


これらの絵葉書は、この企画の監修者で、軍事郵便の研究をされている、元専修大学教授の新井勝紘氏にご提供いただいたものです。新井氏によれば、この絵葉書に描かれた故国日本のなじみのある風景や自然の姿は、厳しい戦闘状況の中で、与えられた軍務を命を削って担っている兵士の精神や心の糧ともなったとのことです。まさに戦争の記憶を後世に残していくための貴重な資料であると言えるでしょう。

ところで、このプロジェクトの企画を進めるにあたって、著作権法上の問題に行き当たったため、結果として、ご提供いただいた絵葉書のすべてを掲載することはできませんでした。

その問題とは、次のようなものです。

1)著作権の保護期間が満了しているかどうか(「パブリック・ドメイン」にあたるか)の確認が困難
著作権の保護期間が満了した著作物は、「パブリック・ドメイン」の扱いとなり、誰でも適法にその著作物を利用することができます。戦後71年が経過した現在、軍事郵便の絵葉書は、パブリック・ドメインに当たるものとして自由に使えるように一見思えますが、実情は異なります。
著作権の保護期間の満了は、原則として「著作者の死後50年を経過するまで」(著作権法51条2項)であり、また無名の著作物については「その著作物の公表後50年を経過するまで」とされています(52条1項)。しかし、古い絵葉書であり、保存状態の問題もあるため、「死後50年経過しているのか」、「無名の著作物にあたるのか」等がわからず、「パブリック・ドメイン」かどうかを判断することは非常に困難です。

2)著作権者が不明または連絡がとれない(いわゆる「孤児著作物」の問題)
「パブリック・ドメイン」かどうかの判断が困難であったとしても、作者や遺族などの著作権者からの許諾が得られれば、その著作物を利用することができます。しかし、このプロジェクトで取り扱った絵葉書の多くが、著作権者がわからない、わかったとしてもその所在が不明である、または連絡が取れないものでした。このような著作物は、一般的に「孤児著作物」と呼ばれています。

3)裁定制度の活用が困難
いわゆる「孤児著作物」であったとしても、著作権法には「著作権者不明等の場合の裁定制度」(67条1項)があり、著作権者の捜索を行ってもなお著作権者が不明な場合に、著作権者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、裁定にかかる著作物を適法に利用することができます。

著作権者不明等の場合の裁定制度
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/

このプロジェクトは、その性質や社会的意義に鑑みると、まさに裁定制度の活用にうってつけの案件だと思われましたが、以下の理由により、結局はその活用を断念せざるを得ませんでした。

まず、このプロジェクトは100年間続けるとしていますが、一旦裁定を受けたとしても、その後数年ごとに補償金の追加供託や再度の裁定申請をしなければならない点が、実務上の懸念となりました。

次に、「通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金」を供託する必要がありますが(67条1項)、コンテンツ販売等の商用利用のケースであればいざ知らず、このような「戦争の記憶を残す」場合における著作物の「通常の使用料の額」がいくらであると証明することは、極めて困難でした。

なお、裁定制度は、従来、手続きが煩雑である、裁定まで時間がかかるが申請中は利用できない等の点で、批判が多かったため、著作権者の捜索の要件緩和や、裁定申請中の利用を可能とする等、幾度にもわたる改善がなされ、以前に比べてはるかに利用しやすくなりました。とはいえ、さまざまな著作物の利用目的や利用態様に照らして弾力的に運用できないという点が、いまだ課題として残っていることが明らかとなったといえます。

今回ご紹介できなかった絵葉書の中にも、皆さんの心を打ち、戦争の記憶を心に留めるものが多くあったであろうと思われ、すべてを掲載できず残念に思います。第二次世界大戦に限らず、過去の歴史的事象を次の世代に引き継いでいくことは、私たち日本人の重要な使命です。こうした使命を達成していくためにも、過去の歴史的事象をはじめとする公益性の高い情報の記録や保存は奨励されるべきであり、その環境整備としての著作権法のあり方について、考えていく必要があるのではないかと、改めて感じたところです。

(SI)

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