記事

「もうセックスは要らない」と言い始めた若者たち



『コンビニ人間』で今年、第155回芥川賞を受賞された村田紗耶香さん。

一作前の作品が『消滅世界』です。私はふだんほとんど小説を読まないのですが、これだけはあちこちの書評や口コミで「すごい」と評判になっていたので買ってみました。優れた作家は時代を作品にすると言いますが、その通りの小説でした。

■「愛し合っているけどセックスがつらい」

この小説の舞台は「さきの戦争」が終わった近未来。思春期になると男女ともに避妊手術を施され、子供はすべて人工授精によって生まれます。結婚やセックス(「交尾」と呼ばれる)は自由ですが、結婚した夫婦のセックスは「近親相姦」として法律で禁じられ、恋人としかできません。また、「キャラ」と呼ばれる仮想人物のみを恋人としてマスターベーションで性欲処理する人が多く(主人公の世代の80%がセックスをしないまま成人を迎える)、人間の恋人をもつ主人公、雨音は友人から「よくできるわね、あんな汚いこと」と驚かれたりします。

雨音はそんな考え方がどこかおかしいと思いながらも恋人と付き合いますが、ある日、筋肉質で肉体労働者の恋人から「とても愛しているけれどセックスがつらい」と別れを告げられ、絶望。夫婦も結婚もなく、すべての大人が「おかあさん」であり、生物学的な親から切り離されてセンターで育てられる子供は大人全員の「子供ちゃん」とする実験都市、千葉県に移住し、新しい時代の「イヴ」になっていく・・・。

徹頭徹尾、想像を絶する設定と展開が続いていくのですが、この小説を読んだ後、作家本人のインタビュー記事を読んでさらに恐ろしくなりました。

この本を読んでいる間、私は作者が愛やセックスを否定する世界へのアンチテーゼとしてこの小説を書いたのではなかったかと思ったのですが、実際はまったく逆でした。

「身近な友達にも夫婦として愛し合ってはいるけれど、セックスはしたくないという人はいる。それを周りから変だ、とみられて我慢してもいる。そうやって苦しむ人がもっと楽に生きられる世界を想像してみたかった」産経新聞のインタビュー記事で、村田さんはこのように答えています。彼女は1979年生まれのポスト団塊ジュニア世代に属していますが、個人的な実感では、確かに彼女と同じくらいかそれより下の世代で、セックスレスになって悩んだり、離婚したりする夫婦、そして何よりも結婚を切実に望まない単身者が大きく増えているような気がします(男女ともにセックスレスでハッピーであれば何も問題はないですが、少子化は進みます)。

■アメリカの若者の性交渉に大きな異変が

実は、日本のみならず、アメリカでの調査をみても、若い世代がセックス離れをしている状況が出現しつつあります。

米疾病管理予防センターが2年ごとにアメリカの高校生に対して行っている調査結果によると、性体験があると答えた学生は41%で、10年前の47%から6ポイントも下がりました。また、最近性交渉をもった者、13歳以前に性体験をした者、4人以上の性体験の相手がいる者などですべて割合が低下しており、彼らの意識が大きく変わっていることがわかります。

この調査では実際に集計した担当者が、あまりにも以前とのギャップが激しいため「なぜこんな結果になったのかわからない。統計的問題がないかどうか次の調査時に検証したい」と表明しているほど、ショッキングな結果だったようです。

1970年代後半から1980年代にかけて、アメリカの早熟な青春文化の洗礼を受けた私としては驚くばかりで、このような結果をもたらした根本的な原因は、『消滅世界』でも描かれたヴァーチャルな欲望処理に近い「42%が、学校の勉強と関係なくビデオやゲームなどにコンピュータを1日3時間以上使用している」状況と関連があるのではないかと思っています。

■オリンピック選手村で準備された45万個のコンドーム

いっぽうで、こちらも信じられないことが起こっているのが、現在開催中のオリンピック選手村。8月6日付のビジネスサイト、フォーブスに掲載されたこの記事のレポートです。「リオ五輪、コンドーム配布数は史上最多 1選手当たり42個」。

この記事によると、10,500人の選手用にIOCは男女併せて45万個のコンドームを用意。前回のロンドンオリンピック(15万個)に比べても倍以上になっており、滞在期間中に42回のセックスをする計算だそうです。

競技前のセックスが与える影響については(身体的にはほとんど影響がないそうですが)、
もちろん、肉体的な影響はなくとも、精神的な影響が出る可能性はある。セックスをするとリラックスして幸せな気分になるが、これは競技に向けたコンディション作りにつながるかもしれないし、逆に競技に必要な競争心や攻撃性を奪うかもしれない。場合によっては、泥沼の恋愛劇に発展することもあるだろう。また、睡眠不足もパフォーマンスに悪影響を与える要因となる。

と記事中で釘をさしているものの、大量のコンドームを配られ、選手村自体が、「たくさんの人がセックスをしている。芝生の上や、建物の陰でも」(サッカーのホープ・ソロ)、「五輪での第2のモットーは『選手村で起きたことは絶対に口外しない』だ」(水泳のサマー・サンダース)、「イタリア人選手たちはドアを開けっぱなしにしているので、ひも状のパンツ姿で走り回る男たちをのぞき見できる」(自転車BMXのジル・キントナー)、という状況になっていれば、科学者が何を言ってもたいした抑制効果は期待できないでしょう。

■ヴァーチャル世界と現実世界の乖離がこれからの人間の進化に重要な影響を与える?

最近、この記事のようにコンピュータゲームは学校の成績を上げる、というような研究成果が立て続けに発表されています。

今後、職業生活において加速度的にITの知識や技術が重要になってくるのは確実ですし、次世代IT社会のキーファクターになると注目されているAI(人口知能)を使いこなすためにも、ゲームに限らず子供時代からコンピュータと共生していく生活は避けられないでしょう。しかし、そうすることにより、人間が本来もっているはずの生殖欲求や、恋人や家族など特定の他者と深く関わりたいというコミュニケーション欲求に陰りがでてきているように思えてなりません。逆に、個のもつ肉体の能力を極限まで引き出そうとする世界レベルのアスリートたちの間で、爆発的ともいえる性的な開放が起こっている事実は、時代の共振性が正反対の方向に働いているのではないかと感じるのです。

最近、進化や突然変異というのはこれまで考えられていたよりもっと短いスパンで起こるという説があるようですが、性にかかわるこれらの現象をどう解読するのか、ぜひケン・ウィルバーあたりに聞いてみたいものです。

あわせて読みたい

「コンビニ人間」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    "大企業で働いても貧困"が急増

    しんぶん赤旗

  2. 2

    つるの剛士を批判 リテラの矛盾

    和田政宗

  3. 3

    大統領夫人のNY残留に10万人拒否

    My Big Apple NY

  4. 4

    カジノ反対派 ブーメラン続発

    木曽崇

  5. 5

    専業主婦手伝わない夫に非難殺到

    キャリコネニュース

  6. 6

    トランプ氏娘婿が語る激動の半生

    フォーブス ジャパン

  7. 7

    47歳中卒社長がビリオネアに

    フォーブス ジャパン

  8. 8

    "ゴゴスマ"いい加減な仕事で惨事

    メディアゴン

  9. 9

    籾井NHK会長が自ら語る"実績"

    おくの総一郎

  10. 10

    公営賭博だけは許す共産の謎論法

    木曽崇

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。