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TPPに参加反対の『既得権益者』は誰? 1/2

uncorrelated

2011年05月29日 00:21

北村隆司氏がTPP加盟反対論を批判している。TPP参加の利点は否定しないが、TPP参加の利点、問題点、既得権益者を明確にしないで論述しているので、文章が情緒的で理解が難しくなっている。特に『既得権益者』の正体が明確でないと、何が問題で彼らがTPPに反対しているのか、その反対を考慮する必要があるのかが不明瞭になる。北村主張をもっと平易に、既得権益者を農業部門に絞って、細部を少し厳密にして議論してみよう。

1. TPPに参加すべき理由は、効率よく自由貿易を実現できるから



日本がTPPに加入すべき理由は経済学的には明確で、自由貿易が一般に国民所得を最大にする事が分かっていることだ。日本が生産に向いている財を生産し、日本が生産に向いていない財を輸入する方が、効率がいいのは自明に近い。
自由貿易の推進にTPPが必要な理由は、貿易障壁は関税率だけではなく、法や規制にも依存するからだ。また、貿易と投資は密接に関わっているため、貿易の自由化には、投資の自由化も必要となる。

日本とシンガポールのように二国間で自由貿易協定を結ぶ方法もあるが、TPPやWTOのような多国間協定に参加すべきなのは、貿易相手国の数を考えると複数国間で同時に交渉を行った方が効率が良いし、ルールが乱立して実務が煩雑になるのを避けるためだ。

2. 多くの人が、薄く広くTPPの恩恵を受ける



まず、消費者としては、全員が恩恵を受ける。原理的に、安く良いものを買う機会が増えるからだ。近年、話題になる事が多い食料品価格は、下落することになる。
次に、輸出や輸入に関わる人も恩恵を受ける。『自動車』でも『和牛』でも『梨』でも、輸出品を生産している人、輸出に関わっている人は、恩恵を受ける。また、サービス部門も海外展開をする機会が増えるであろう。邦銀が海外進出を本格化するかも知れない。

ただし、日本は既に関税も低く輸入規制も緩いので、海外から新たに安い工業製品が大量に入って来るようになるわけではない。金融サービス部門も、言葉の壁があるので、参入障壁が無くなるわけではない。

3. TPPに参加すると困るのは、農業部門の従事者



一部の人は、TPPに参加すると困る可能性がある。自由貿易が国民所得を最大にしても、その配分が変化するから、損をする人も出てくる。関係者の数から問題になるのは、農業部門の従事者と全逓労働組合員、特に農業部門であろう。

国際競争力の無い小麦、米、大豆等の生産者は、厳しい状況になる。2008年で、米の1トンあたりの生産コストは平均で23万3000円である。これは2009年の国際市場での米の年間の平均価格は606ドルと比較すると4〜5倍となる。また、小麦で3倍、大豆で8倍の内外価格差がある。

亀井静香氏と全国20万人の全逓労働組合員は、かつての体制に戻る見込みがなくなる。2010年にまとめられた郵政改革法案はWTO違反の疑いがあり、TPPでも問題になる可能性が高い。政府系金融機関が特別な優遇を受けることで、民間金融機関よりも優位な立場になるからだ。外資系金融機関がゆうちょ銀行と同じ条件で競争する事ができないと、他国に指摘されるであろう。ただし民営化は規定路線なので、大きな問題ではない。

なお、北村氏が指摘している医者や弁護士は、言葉の問題があるため、国際競争に晒される可能性はゼロに近い。フィリピン人の医者や会計士が米国で働いていることが話題になるが、医療制度や会計制度が同じで言葉が通じる事が、その背景にはある。

4. 農家のタイプでTPPの影響は異なる



TPP参加で農業部門が打撃を受けるのは間違いない。しかし、日本の農業の実態を考えると、農業部門でTPPに困る人は全員ではないことが分かる。
農業を主にやっている農家は20%しかないし、片手間にやっている副業的農家の農業収入は年間で37万円だし、農家の数も40年間で6割も減少し、70歳以上の農業就業者が全体の27%と高齢化が進んでいる。休耕田が問題になっているぐらいだ(農業構造動態調査)。

農家を3タイプに分けて、整理してみよう。
1. 副業的農家(米)
TPPに参加すると、米、小麦、大豆等の高齢で副業的農家は、廃業に追い込まれる可能性が高い。このタイプの農家は2000年からの5年間で、20%程度が廃業していると考えられ、そもそも事業継続能力が高くない。ただし、廃業で生活に困るわけではない。
2. 主業的農家、副業的農家(野菜、果物、花卉、畜産)
野菜や果物、花卉などの園芸農家は収益性が高く、地理的条件などがあり国際競争に晒されづらいので、TPP参加の影響をあまり受けないと考えられる。
3. 主業的農家(米、小麦、大豆)
米作を行っている主業的農家が経営危機に陥る可能性は高い。しかし、彼らにも大規模化が容易になり、かつ外国人労働者を雇用しやすくなるメリットがある。大規模化を行わなくても、園芸作物に転作を行う事で生き残る方法もあるはずだ。米の需要量も年々低下している。

(2)と(3)は、生産物の輸入の可否や国際競争力で分かれる。酪農家などは、バターやチーズなどが厳しい価格競争にさらされる一方で、牛乳は影響を受けないことになるだろう。

追記(2011/05/30 09:30):経営規模拡大による生産性向上の実態によると、100a規模の農家だと16万円/10aの生産費だが、200a以上の規模になると12万円/10aとなる。
全国平均の生産規模は130aだ。また、500a以上の農地は、130aの農地の1/4しか面積あたりの作業時間がかからない。

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