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がん検診による絶対リスク減少はどれくらい?

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ワクチンは有効性を過小評価されやすく、がん検診は過大評価されやすい

公衆衛生についてあまりなじみのない方にはあまり知られていないようだが、一般的にワクチンはがん検診と比較して有効性が高い。たとえば、おたふくかぜワクチンはおたふくかぜの罹患を85%減らす。一方で、乳がん検診は乳がん死を20%しか減らさない。

また、ワクチンは一次予防であるのに対し、がん検診は二次予防である。ワクチンは疾患そのものの発症を抑制するが、一方で検診は病変が見つかったら何らかの治療介入を要する。検診には偽陽性や過剰診断についての問題もある(なお、乳がん検診は乳がんの罹患を減らすどころか増やす)。子宮頸がん検診の受診割合が十分に高い海外でなぜ、HPVワクチンが開発され、接種が推奨されているのか、ここらあたりに理由がある。

ワクチンと比較して検診の利益が過大評価されやすく、害が過小評価されやすいのには理由がある。主観的には、検診の利益は実感しやすいのに対し、ワクチンはそうでもない。

韓国では成人の甲状腺がん検診が広く施行され、がんの罹患率は15倍になったが死亡率は変わらなかった。増えた甲状腺がんの多くは過剰診断で、結果的には必要のない治療を受けたのであるが、その「害」は統計的な数字をみなければわからない。検診で甲状腺がんを発見され、手術を受けた人は、過剰診断であったとしても、「検診のおかげで早期発見でき、いまも再発も起こっていない。助けてもらった」と考えているだろう。

一方、ワクチンによって「助けられた」ことは自覚しにくい。統計的な数字をみれば多くの人がワクチンによって助けられたのだが、誰が助けられたのかを同定することはできない。いっぽう、ワクチンによる「有害事象」は容易に同定できる。因果関係の有無に関わらず、ワクチン接種後になにか好ましくない症状が起きれば、ワクチンのせいであると自覚しうる*1。これが、検診と比較してワクチンの害が過大評価されやすい構造的な理由である。

がん検診の有効性と「副作用」はどの程度か

有効であると証明されているがん検診ですら、多くの「副作用」が生じる。たとえば、乳がん検診では、1人の乳がん死を防ぐために4人の過剰診断が生じるという報告がある。1人の乳がん死を防ぐために必要な検診数は720人であるので、検診を受けた人の中に過剰診断という「副作用」が起こる割合は約0.5%である。因果関係は明確だ。この「副作用」には、10日程度の入院と、必要だと判断されたら化学療法と、そして乳房を失ったことや再発への不安などの著しいデメリットがある。

これほどの大きなデメリットのある副作用が0.5%も生じるワクチンはとうてい容認されない。それどろかワクチンでは、因果関係があるかどうかも明確でない何万人に1人、何十万に1人という有害事象ですら問題にされる。「もともと健康な人に対する医学介入なので高い安全性が要求される」という理屈には一定の合理性があるが、だとするならば、同じくもともと健康な人に対する医学介入であるがん検診にも同様の安全性を要求するべきであろう。

乳がん検診や子宮頸がん検診はまだいい。有効であるという臨床的証拠があるからだ。問題は福島県の小児の甲状腺がん検診である。小児の甲状腺がん検診の有効性は証明されていない。成人の甲状腺がん検診の結果を外挿すると、小児の甲状腺がん検診も、害だけあって有効性はない可能性が高い。

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