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日本国債は危なくないのか

 すでに廃刊となってしまっているが、私が文春新書から「日本国債は危なくない」という本を出させていただいたのが2002年9月20日のことであった。この2002年9月20日は日本の国債の歴史において大きな出来事があった日であった。この日の10年国債入札において、10年国債入札として初めての「札割れ」が発生したのである。なんと「日本国債は危なくない」という本の発売日当日に日本国債は危機を迎えたのである。

 当時の10年国債の発行額は一回当たり1兆8000億円であった。その75%の1兆3500億円が競争入札となっていたが、入札予定額1兆3500億円に対して、このときの業者の応札額は1兆1852億円しかなく「未達」が発生した。ただし、当時の10年国債には国債引受シンジケート団が存在し、入札予定額に満たない分はシ団のシェアによって割り振りされるため、当初予定された発行額の1兆8000億円の発行は可能となり、実質発行額が予定発行額に満たない「未達」ではなく「札割れ」との表現になった。

 この入札日の前の9月18日に日銀の速水総裁は、金融システム安定化策としても日銀が直接に金融機関から株を買い取ることを発表した。これを受けて、債券先物が急落し1999年6月11日以来のストップ安をつけたのである。なぜ、日銀が株を買い取ることで債券が売られるのか。その最も大きな理由は、国債に対しての信用に影響が及ぶと思われたためである。日銀がリスクのあるものを買い込んで、日銀券の信用力の裏づけとなる日銀の資産を劣化させれば通貨、つまり円が大きく売られる可能性がある。日本の通貨に対する信用がなくなれば、国債に対する信用にも当然ながら影響を及ぼすためなのである。

 実際に日銀の株買い取りが発表された直後には、円安が進んだ。ところが、日経平均などが上昇したことで、円は反転買い進まれたのである。つまり通貨に対しての信用が失われるとの思惑は一時的であった。それにもかかわらず、債券は売り込まれてしまった。このときの債券の下落の大きな要因は相場の急ピッチの上昇にあったと言える。債券相場は乱高下を繰り返し、かなりのポジションを抱えていた金融機関は身動きがとれなくなってきた。また9月決算も影響してか、積極的に10年国債を買えるところが限られてきた。そんななかでの10年国債入札であったために、札割れが発生したものと思われる。

 またこのときの10年国債の入札は休日前に実施するという異例の事態であったことも影響していた。10年国債の入札は、慣行上、三連続営業日の真ん中に実施される。しかし、今回は三連休が続いたことなどからスケジュールから三連続営業日の真ん中の日の入札が行えなかった。以前もスケジュールにより休日前に実施されたケースもあったが三連休の前日というものはなかった。しかも、この日は政府のデフレ対策が発表されることになったなど、業者・投資家ともポジションを取りにくかったことも確かであった。

 10年国債の入札で札割れが発生したことで、債券先物は再び前日比1円以上も下落したが、それほどパニック的な売りとはならなかった。このときの札割れは特殊要因が重なったためとの認識であったと思われる。

 その後、国債引受シンジケート団は廃止されており、もし仮に今後同様の事態が発生した場合には「札割れ」ではなく「未達」となる。しかし、いまのところ国債の入札における未達の可能性は小さい。これは元々国債への投資家ニーズがあったにも関わらず、強引に日銀が国債を買い入れており、国債の需給が非常にタイトになっているためである。

 その日銀が市場から国債を買い上げる手段が国債買入オペレーションとなる。債券市場関係者が注目しているのは国債の入札時の未達というよりも、日銀の国債買入における未達の方となっている。

この未達が9日に英国で発生した。イングランド銀行は残存15年超の国債を11億7000万ポンド買い入れる予定であったが、金融機関などからの応札額は11億1800万ポンドにとどまり、予定額に達しなかったのである。

イングランド銀行は4日の金融政策委員会で、年0.5%と過去最低の水準となっている政策金利をさらに引き下げて年0.25%とするとともに、英国債を対象とする資産買入プログラムの規模を600億ポンド増額し4350億ポンドとし、さらに100億ポンド規模の投資適格級社債購入プログラムを決定した。このあらたな国債買入プログラムのもとに行われた国債買入で、早くもつまづいた格好となった。

ただし、英国債はこれにより国債需給のタイトさが意識されてむしろ買い進まれた。英国の10年債利回りは一時0.56%台と過去最低を更新したのである。しかしもし日本で日銀の国債買入での未達が発生すると違った反応を起こす可能性が高い。

日銀の国債買入の未達が頻繁に発生するようなことになると、その対策として日銀が国債買入の額を縮小するなどの対応が取られる可能性がある。これを市場は国債買入額の減少、いわばテーパリングと意識して国債が売られる懸念があるためである。

いずれ日銀の国債買入には限界が来る、いうのが市場参加者の共通認識である。日銀は国債残高の三分の一しか買っておらず、あと三分の二も残っているといった乱暴な意見もあるようだが、金融市場でこれだけ巨額な資産は存在しておらず、しかも安全資産と認識されているものでもある。ほかの代替金融商品に変えろといわれても、安全性を兼ね備え日銀担保にも使える巨額な金融商品は存在しない。国債の年間発行額をほぼ日銀に吸い上げられる今の状況は、かなり限度に近いものともいえる。

7月29日の金融政策決定会合後の日本の国債市場でのプチバブルの崩壊もあり、日本国債はここにきて調整局面を迎えたが、これはあくまで買われ過ぎた反動であった。しかし、それでも国債利回りの上昇は急激で他市場にも影響を与えうることも示され、あらためて国債の価格変動リスクも意識された。いまのところは国債の信用リスクに至る懸念はヘリマネが実施されるようなことにならない限りは小さいが、今後の日銀の国債買入の状況次第ではこの価格変動リスクが意識される可能性はある。すぐに来る危機ではないかも知れないが、これも注意すべきものとなる。

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