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天皇の生前退位を憲法「改正」の口実に使う最悪の政治利用

天皇が生前退位を希望する意思表明をしましたが、これにかこつけて憲法「改正」が公然と主張されているようになっています。
現行憲法では、生前の退位が認められていないというのです。
憲法上、摂政の規定が置かれているからだというのですが、実質的な理由は次のように説明されています。

①生前退位が認められると政治的圧力によって意に反して退位させられる場合がある
②皇位をめぐって争いが起きかねない。
③天皇が退位するとその処遇が困難。仮に上皇とした場合、天皇と象徴が2つになってしまう。
④天皇自ら退位することで政治的影響力を行使する。

だから生前退位は皇室典範の制定(戦後の改正)のときも導入されなかったと言われています。
しかし、これが憲法「改正」をしなければ生前退位が認められないという議論は本末転倒です。
憲法上は、あくまで皇室典範という1つの法律に全てを委ねています。法原理からは憲法が法律に委任していようとも憲法との整合性を前提にしているので、白紙委任ではありませんが、生前退位を禁止しているということまでこの憲法の中から読み取るということは、極めて恣意的な解釈です。
皇位につきたいということではなく、天皇であることをやめたいというだけであり、それを他人が強要できるのかという問題です。

産経グループは、この憲法問題にひっかけて極めて意図的な世論調査を実施しています。
天皇陛下の生前退位「制度改正急ぐべき」70・7% 「必要なら憲法改正してもよい」84・7%」(産経新聞2016年8月8日)
「「生前退位」が可能となるように「憲法を改正してもよい」と思う人は84・7%に達した。「思わない」と答えた人は11・0%にとどまった。」

参照
フジ産経の天皇利用。生前退位に改憲は必要ないのに、生前退位のために憲法改正はしてよいかという世論調査。」(Everyone says I love you !)

これを改憲派が「84.7%」と読むべきなのでしょうか。
最初に天皇の退位について、公務多忙、高齢という情報が垂れ流され、そして、平成の玉音放送が各局一斉横並びで垂れ流しですが、世論誘導は、ここに極まるといったものです。
しかも、選択肢には、「憲法の改正は必要ない」がありません。
この天皇の生前退位だけで憲法「改正」がなされることは現時点ではないと思われますが、いとも簡単に国民が「改憲派」にされてしまう状況をまざまざと見せつけてくれました。
これが「世論」の実態でもありますし、国民を改憲意識に導くには格好の材料だったということでもあります。
天皇退位と世論誘導 グリーンに染まる東京都知事選が頭に浮かぶ

世論誘導のために各局がしのぎを削る
平成の玉音放送


生前退位の問題点についていえば、これ自体、大した問題ではありません。天皇制の一番の問題は元首化であり、元首扱いする保守・反動勢力による天皇の政治利用です。
天皇が自ら政治的影響力を行使しようというほどの権威は天皇家には既にありません。現在の皇太子の処遇をみればわかるとおり、天皇制の権威は今後、ますます失墜していきます。
他方で、保守・反動勢力による天皇の元首化は、極論すれば誰でもいいから天皇の地位に据えておけばいいというものです。もっともこの点では女帝を認めるかどうかで温度差はありますが、天皇家断絶という事態は避けなければならないという点では一致するでしょうから、保守・反動勢力にとっては大した問題にはなりえません。
皇室典範 女帝を認めないのは性別による差別か 国連女子差別撤廃委員会の報告書最終案

保守・反動勢力にとっては、国民を黙らせる、一定の方向に世論を誘導することに天皇制に価値を置いているのですが、これが一番の問題なのであって、生前の退位を認めることの「弊害」などこの範ちゅうで考えるべきものです。

また、憲法9条の解釈改憲をやってのけた安倍自民党政権が、天皇の生前退位のために憲法改正が必要だなどと言ったとしたら、これほど立憲主義を愚弄するものはありません。

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