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少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代へ - 塚崎公義(大学教授)

少子高齢化というと、労働力が不足する、年金が破綻する、財政が破綻する、日本経済が人口減少で衰退していく、といった悪い印象が強いのですが、筆者は全く逆に「少子高齢化による労働力不足で日本経済の黄金時代が来る」と考えています。今回は、今後10年程度の日本経済について、考えてみましょう。

以下を読んで「非常識だ」と考える読者は多いでしょうが、そこで止めずに「どこが間違っているのだろう?」と考えてみて下さい。きっと有益な頭の体操をお楽しみいただけると思います。それだけでも筆者としては、お役に立てて光栄ですが、結果として、読者が筆者の誤りを指摘できずに、筆者に賛同していただければ、更に幸いです(笑)。

■バブル崩壊後の諸問題の根源は失業問題だった

バブル期までは、日本人が勤勉に働いて倹約に努めたため、多くの物が生産され、多くの物が残り、おかげで工場やオフィスビルなどを建てる事ができました。しかし、バブル崩壊後、工場やオフィスビルなどの需要が落ち込むと、物が余るようになりました。

余った物を輸出すると貿易摩擦が激化するほか、円高ドル安を招くので、際限なく輸出を増やすわけにも行きません。そこで企業は生産を絞り、失業者が増えました。失業者が不幸であったのは当然ですが、それ以外にも失業は多くの問題を引き起こしました。

失業者が多いために(労働力の需給が緩いために)、賃金が下がり気味で推移し、消費が落ち込みました。企業は、人件費コストが下がった一方で売れ行きが悪化したので、値下げ競争を繰り広げ、日本経済はデフレになりました。デフレになると、人々が「待っていれば安くなる」と考えて買い控えをするので(実質金利が高くなるので、と言い換えても構いません)、一層物が売れなくなり、一層のデフレになるという悪循環(デフレ・スパイラル)に陥りました。

■ワーキング・プアも財政赤字も、失業問題に起因していた

ゼロ成長時代を迎えた企業は、一度余剰労働力を抱えてしまうとずっと余剰を抱え続けるというリスクが高まりました。一方で、失業者が多いので、企業は必要な時に必要な労働力を調達出来るようになりました。そこで、終身雇用によって労働力を囲い込む必要が無くなり、正社員を非正規社員で置き換えるようになりました。

それにより、学校を卒業しても正社員になれずに非正規社員として生計を立てる「ワーキング・プア」が増えました。ワーキング・プアは、結婚したり子供を産んだりする事が難しいので、ワーキング・プアの増加が少子化の一因となったとも言われています。

また、「会社を辞めれば失業だ」という恐怖心からブラック企業の社員が辞表を出せず、ブラック企業が増えて行きました。

財政赤字が増えた主因も、失業の増加です。失業対策としての公共投資が増えた事は勿論ですが、景気の悪化で税収が落ち込んだことも痛手でした。更には、増税や歳出カットを検討すると「そんなことをしたら失業が更に増えてしまう」という反対論が強く、なかなか実行できませんでしたし、実際に実行して失業者が増え、かえって財政赤字が増えた事もありました。「景気は税収という金の卵を産む鶏」なので、殺してしまわないように、慎重に扱わなくてはならないのです。

■少子高齢化は失業問題を解決

労働力の需給は、少子高齢化により労働力需給が引き締まって行くという大きなトレンド(方向性)と景気循環によって労働力需給が変化するという二つの力の合計で決まって来ます。アベノミクスによる景気回復で労働力が不足するようになりましたが、この程度の景気回復で労働力が不足するというのは、背景として労働力需給が引き締まって行く長期的なトレンドがあったからです。作る人(現役世代)が大きく減っていて、使う人(総人口)はそれほど減っていないからなのです。

今後も景気は循環するでしょうが、トレンドとしての少子高齢化は続きますから、10年後には「多少景気が悪くても失業者は出ない。少しでも景気が良くなると労働力が不足する」といった時代が来るでしょう。日本経済を長年悩ませて来た失業問題が消えるのです。

労働力需給の逼迫を背景として非正規労働者の待遇が改善し、ワーキング・プアが消滅します。それにより少子化問題も緩和されます。ブラック企業も社員の退職が相次ぎ、消滅します。1日4時間しか働けない高齢者や子育て中の女性でも、仕事が見つかるようになります。まさに一億総活躍社会になるわけです。

デフレ・スパイラルが解消し、緩やかなインフレの下で金融情勢も正常化に向かうでしょう。デフレ時代からインフレ時代への転換によって、様々な点で我々の頭を切り替える必要が出てきますが、その話は別の機会に。

■労働力不足は財政にも良い影響

失業問題が解消すると、失業対策の公共投資が不要になります。増税や歳出カットを計画しても、「失業が増えるからダメ」という反対意見が出て来ないので、増税や歳出カットが行ないやすくなるでしょう。

労働力不足でインフレ気味の経済になると、引き締め政策が必要になります。これまでのインフレ対策は、すぐに実行出来る金融政策が主役でした。たとえば増税で景気を悪化させてインフレを抑えようとすると、法案を準備して審議して成立させ、施行日まで時間を置く必要があるので、その間に景気の局面が変わってしまう可能性も高いからです。

しかし、今後は恒常的にインフレ圧力が続くことが予想されますので、タイミング的な問題はそれほど深刻ではなくなって行くでしょう。一方で、金融を引き締めると政府が巨額の負債に対する利払いをする必要が出てきますので、財政赤字が悪化しかねません。

そこで、金融は緩和したまま、増税で景気を抑えるというポリシーミックスが採用される事になるでしょう。そうなると、増税はインフレ対策でもあり、かつ財政再建でもある、という一石二鳥になるわけです。

高齢者が容易に仕事にありつけるようになると、年金の支給開始年齢を引き上げる事が可能になるかも知れません。「元気な高齢者は70歳まで働いて、70歳から年金を受け取りましょう」というわけです。日本人の高齢者は「元気なうちは働きたい」と思っている人が多いので、それほど抵抗なく受け入れられるかも知れませんね。制度改正は時間がかかりますから、今後10年では難しいかもしれませんが。

■需要超過が日本経済の供給サイドを強化する

潜在成長率という言葉があります。皆が頑張ってフル生産を続けると、どれくらい生産量が増やせるのか、という数字です。最近の日本経済は、労働力不足ですから、「これ以上生産量は増やせない」と考えることも可能です。そう考えると、最近の日本経済の成長率である「概ねゼロ」が潜在成長率だということになります。そう考えている論者も多く、「だから今後も日本経済は成長出来ない」と主張しているわけです。

しかし、筆者はそうは考えていません。過去のデータに頼ることは、バックミラーを見ながら運転しているような物です。あるいは、「氷に熱を加えても氷が融けるだけで温度が上がらない」のを観察しながら、「今後も温度は上がらないだろう」と予測するようなものです。

労働力が不足するようになると、企業が省力化投資を始めますから、労働生産性(労働者一人当たりの生産量)は向上していくでしょう。これまでの日本企業は、安い労働力が自由に使えたので、省力化投資を怠って来ました。そこで、いたるところに「少しだけ省力化投資をすれば労働生産性が大きく向上する余地」が転がっているのです。

労働力不足で賃金が上昇してくると、高い賃金の払えない非効率的な企業から、高い賃金の払える効率的な企業へ労働力が移動しはじめます。そうなると、日本企業を平均した労働生産性は向上するでしょう。

小泉構造改革時代、日本経済の問題は需要不足か供給サイドの弱さか、といった論争が活発に行なわれていましたが、そんな論争をしなくても、労働力が不足すれば自然と供給側が強化されていくのです。もちろん、それを阻害するような規制が撤廃される事などは必要ですが。

以上のように、今後10年程度を考えると、日本経済は黄金時代と言えるような、素晴らしい時期を迎えることになりそうです。その後は「極端な労働力不足になり、黄金時代ではなくなる」のか「人工知能が発達して失業者が増えてバブル崩壊後に戻ってしまう」のか、「労働力不足と人口知能発達が丁度良いスピードで進むので黄金時代が続く」のか、わかりませが、黄金時代が続く事を祈っておきましょう。

■財政は破綻しない(極論)

上記のように、失業対策が不要になり、増税や歳出削減が容易になるため、財政バランスは改善して行くかも知れません。少なくとも、人々が考えているほど悪くはならないでしょう。

ここからは極論です。一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を産むと、何千年かの後に、日本人が一人になります。その子は家計金融資産1700兆円を相続しますから、政府が借金を返すために1000兆円を課税しても、残り700兆円で優雅に暮らすことが出来ます。何も問題は起きないのです。

「財政赤字は、将来世代に増税することになるので、世代間不公平だ」と言われます。そこだけ考えれば、その通りなのですが、日本の高齢者は平均すれば多額の金融資産(および不動産)を持っていて、それらの多くは次世代に相続されていきます。それも考慮すれば、世代間は公平なのです。

問題は、遺産が相続出来る子と出来ない子の「世代内不公平」なのです。これをどうするのか。資産課税をするのか相続税率を高めるのか。重要な問題ではありますが、政治の分野なので、本稿では触れないこととしましょう。

今ひとつ、政治の分野で議論が必要となってくるのは、弱者保護をどこまで行なうか、ということでしょう。「100歳の末期がん患者を治療して101歳まで長生きさせるために数千万円の医療費が必要な場合、税金で賄うべきか?」「高齢者が一人だけ住んでいる離島まで税金で船を出して訪問介護を行なうべきか?」といった問題も、重要ではありますが、本稿では触れないこととしましょう。

【参考記事】
■ゼロ成長でも労働力不足なら、経済成長は無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49037456-20160712.html
■労働力不足でインフレの時代が来る (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49018387-20160708.html
■アリとキリギリスで読み解く日本経済 (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12156174510.html
■失業者が多数いるのに労働力不足の不思議 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/49037258-20160711.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授

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