記事

逃げる黒人を警官が背後から射殺 〜シカゴ:銃撃の都市

またしても黒人青年が警官によって射殺された。シカゴ。青年が運転する車に向って警官が何発も発砲する様が、警官が装着している小型ビデオカメラ(ボディカム)によって撮影されており、その銃撃の派手派手しさはアクション映画さながらだ。しかし、車を降りた丸腰の青年を警官が背後から撃って死なせた瞬間の映像だけは、なぜか残されていない。

7月28日、午後7時半頃。イリノイ州シカゴ。黒人青年ポール・オニール(18)は盗難車を運転していたとされる。警官はオニールの車を停めようとしたが、オニールは停まらず、パトカーと接触。そのまま走り去るオニールの車に警官が発砲。その後、オニールの車は別のパトカーに衝突。この時点でオニールは車を乗り捨て、民家の裏庭へと逃走。複数の警官が徒歩で追跡。数人の警官は裏庭の塀の戸に阻まれるも、一人の警官が戸をよじのぼって乗り越える。その時、戸の向うで数発の銃声。この発砲でオニールは死亡したと思われる。


警官のボディカムによって撮影された事件のビデオ映像(編集版)

しかし発砲の瞬間の映像はなく、ビデオは塀の反対側のシーンに飛ぶ。地面にうつ伏せに倒れているオニール。黒いバックパックを背負っているが、白いTシャツの背中の右側に大きな血の染みが見える。おそらくすでに死んでいるか、死にかかっているオニールに手錠をかけ、バックパックの中を探る警官。一人の警官は自分も撃たれたと思い、身体をチェックするが、どこも撃たれてはいない。なぜなら、ポール・オニールは銃を持っていなかった。ビデオに録音されている警官たちのセリフによると、最初の警官の発砲を他の警官がオニールによる発砲と勘違いし、“応戦”したのだ。そもそも警官が動いている車へ発砲すること自体が違法である。

8月5日に警察の記者会見が開かれ、複数の警官のボディカムとパトカーのダッシュボードに取り付けたビデオカメラの映像計9本が公開されたが、オニールを撃った警官のボディカムは「うまく動作していなかった」と発表された。発砲した警官3人はすでに停職中だが、本格的な捜査はこれからとなる。

映像の中で、ある警官は「マザファッカー、オレたちをファッキン撃ちやがった」と言っている。ハイファイブ(ハイタッチ)をする2人の警官がいる。発砲した警官は「30日のファッキン・デスクワークだぜ」と不平を言っている。


■シカゴ:荒廃の都市


この事件が起ったシカゴは犯罪発生率が非常に高い。アメリカで治安の悪い都市と言えば、日本ではニューヨーク、中でもハーレム、サウスブロンクス、LAならコンプトン、サウスロサンゼルス(旧サウスセントラル)などが知られるが、そうした“イメージ”と実態は異なる。ワシントンンD.C.や、ニューヨーク旅行の際に使われることもあるニュージャージー州の空港のあるニューアークなど、日本ではなんとなく治安が良さそうだと思われている場所が犯罪多発地区であることも少なくない。

特に近年、シカゴの治安が大きな問題となっている。
人口と事件数をニューヨーク市と比較してみる。


ニューヨーク市
人口:850万人
発砲事件の被害者:636人(1/1~7/31)
殺人犠牲者:193人(1/1~7/31)

シカゴ
人口:270万人
発砲事件の被害者:2,430人(1/1~8/6)
殺人犠牲者386人(1/1~8/6)


シカゴの人口はニューヨークの3分の1以下だが、発砲事件は4倍近く、殺人はちょうど2倍となっている。

シカゴの新聞、シカゴ・トリビューンのサイトを見ていると、6日(土)に「金曜の朝から土曜未明にかけて発砲事件により4人死亡、17人負傷」の記事があった。翌7日(日)にサイトに戻ると、「土曜の午前10時から日曜の午前4時半にかけて銃により2人死亡、24日負傷」の記事。

シカゴ市長のラーム・エマニュエルは、下院議員を経てオバマ政権の初代ホワイトハウス主席補佐官となった人物だ。オバマ大統領とは同郷であり、個人的にも仲の良い友人同士だったが、就任から2年を待たずに辞任して地元シカゴの市長に立候補し、当選。下院議員→首席補佐官→市長とは異例のルートだが、それだけ荒れ放題の故郷への思いが強く、また闊達なエマニュエルは自分の辣腕を発揮するチャンスとも思ったのだろう。話は逸れるが、同じように荒廃を極めたニュージャージー州ニューアークで「殺人件数を減らす」ことを目標に市長となり、今は上院議員となっているコーリー・ブッカーとは逆のルートだ。

それだけやる気のあったエマニュエル市長だが、シカゴの犯罪には手こずっている。犯罪者の間に違法の銃が蔓延すればするほど、警官は自己防衛のために先に撃つようになる。すると容疑者と取り違えられた市民や、銃を持たずに軽微な犯罪を犯しただけの者までたやすく撃たれる。その際、警官に黒人への偏見があることは被害者の人種別データを見れば分かる。

こうした事件が続くと黒人市民と警察の関係が険悪になり、さらなる悪循環を招く。2年前に同じくシカゴで起った警官による黒人少年ラクアン・マクドナルド(17)射殺事件の際、射殺の瞬間のビデオ映像が長らく公開されなかった。内容に憤慨した市民による大規模なデモや暴動を恐れ、かつ保身のためと思われるが、結果的に市民をさらに怒らせることとなり、ラーム市長への辞任要求が起った。シカゴの警官がボディカムを付け始めたのもこれが理由だ。警察活動の映像を残して透明性を保つという主旨で、今、全米の警察が徐々にボディカムを導入しているが、警官たちはその存在を驚くほど無視した行動を続け、さらには「なぜか機能しなかった」と言う。

遺族と地元民、ブラック・ライブス・マターは今回の事件への抗議運動を続けている。現時点では事件の先行きは不明だが、シカゴに限らず、市民を殺害した警官の多くは起訴さえされず、裁判になっても圧倒的多数は無罪、もしくは実刑を免れている。

あわせて読みたい

「人種差別」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏"小池都政は大成功だ"

    橋下徹

  2. 2

    報じられない「熊本地震」の現状

    田野幸伸

  3. 3

    創価学会本部のありえない行為

    週刊金曜日編集部

  4. 4

    "安定を求めて公務員"は正しいか

    シェアーズカフェ・オンライン

  5. 5

    TVの"つけっぱなし"をやめてみた

    幻冬舎plus

  6. 6

    "日本死ね"を言葉狩りする曽野氏

    小林よしのり

  7. 7

    椿鬼奴夫妻「お酒がかすがい」

    BLOGOS編集部PR企画

  8. 8

    日産「ノート」が売上1位の理由

    片山 修

  9. 9

    mixi黒歴史晒しで休眠アカ一掃?

    アクトゼロ ブロガーズ

  10. 10

    "依存症"諸悪の根源はパチンコ

    木走正水(きばしりまさみず)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。