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不仲、金銭トラブル……もし「親を捨てる」と、幸せになるか?

鈴木俊之=取材・文 伊藤 綾=協力

どうしても親が好きになれない。できれば会いたくないし介護もしたくない。縁を切れたらどんなに楽か……。そう考える人は実は多い。では、実際に縁を切った人は幸せになったのか。

十代のころから、実家の家計を負担

 超高齢化社会になりつつある今、親子の関係も複雑化している。関係に悩む人は親が高齢になったとき、面倒を見られるのだろうか。

 次に紹介する2人は、実は親を捨てている。親を捨てる――。そんなことが実際に許されるのか。しかし、親との縁が切れることで幸せになれるとわかれば、今後その選択をする人も増えるかもしれない。彼らは血縁関係の絆の限界を示すとともに、しがらみを捨てたからこその幸福を手に入れている。

 今井陽平さん(仮名)は、佐賀市生まれの22歳。実家は100年以上続いている仏壇工房で、両親と2つ下の妹の4人家族で育った。親を捨てるきっかけとなったのは高校1年生のころ。父親が金銭的にルーズだと気づいたからだ。「同級生よりも小遣いが少なかったり、家賃を滞納したり。とにかくお金にだらしないんだと思いました」。

 高校卒業後、実家は継がずに和食割烹の店に正社員として就職。深夜2時からの仕込みで1日20時間労働、手取りは17万円にも届かない生活だった。「仕事もキツかったですが、何より嫌だったのが自分の通帳を親が管理していたことです」。実家は物心がついたころから経営が苦しく、今井さんが家計のほとんどを負担していた。

 就職して半年ほどすぎたころ、「妹の大学進学の頭金を用意するため」という名目で、なんと父親は彼に家族用のクレジットカードを作らせた。十代の息子を今から頼るようでは、将来その依存度がより高まる。ただでさえ少ない生活費が、介護や医療費として親に吸い取られるのが耐えられなかった。

 今井さんは、19歳で大きな決断をする。ネットゲームで知り合った千葉の知人男性に思い切って相談し、彼の実家に居候させてもらうことにしたのだ。2013年春、彼は親を捨てた。

 上京後の現在、新宿にある唐揚げ居酒屋の店長を務める今井さん。稼ぎは決して多くはないものの、実家にいたときと比べて経済的に安定している。当然、親の遺産は期待していない。

 「親の介護を考えないと言えば嘘になりますけど、深刻には考えていません。自分たちでなんとかするでしょうし、むしろしてほしい」

 連絡先をすべて変えた現在、両親とは一切の交渉を断っている。上京して3年経つが、自分を探しているという話は一切耳に入ってこない。

 「解放されました。お金関係で足を引っ張られるのが本当に嫌だったので」

義理の母との不仲で、50年前に縁を切る

 「家庭は自分で選べませんから、私が幸せになるにはこうするしかなかったでしょう」。親を捨てて49年。現在は仙台市南部にあるマンションに住む小野寺康平さん(仮名・66歳)だ。

 生まれは福島市。物心がついた6歳のときから父親の再婚相手である義理の母のもとで育った。愛情は血の繋がっていない弟に向けられていたこともあり、17歳で高校を中退後、古川市(現大崎市)の親戚の家に転がり込んだ。実質的に親を捨てた瞬間だ。

 キャバレーのボーイなどアルバイトを転々としながら自動車免許を取り、21歳で上京した。しかし、上京後2年で東京に見切りをつけ、1973年に再び仙台に戻り長距離トラックの運転手に。特に生活に困ることはなく、34歳で14歳年下の職場の同僚と結婚し、すぐに2人の子どもをもうけた。3LDKのマンションを35年ローンで購入し、今もそこに住んでいる。99年から現在まではずっとタクシー運転手だ。これまで親の存在がよぎることはなかったのか。

 「自分でも驚くほど意識していません。むしろ最近は親の介護で大変なご近所さんを見て安堵感すら覚えますよ」

 2人の息子にはサッカーもさせたし、受験期には塾にも行かせた。小泉政権以降、改正道路運送法により新規参入が急増。売り上げが減少し深夜出勤が増えた。朝帰りの生活は66歳にとって楽ではないが、2人の息子は独り立ちしているのでいくぶん気は楽だ。現在の年収は週5日勤務で約250万円。

 「仮に今、父親の介護を負担していたとすれば、経済的にも精神的にもストレスは計り知れません」

 昨年、連絡先を調べた姉が訪ねてきて父親が亡くなったことを知った。1回だけ墓参りに行ったがそれきりだ。自宅マンションには仏壇もない。

 親を捨てた背景も年齢も異なる2人。現在は親子関係のしがらみなどの精神的側面と経済的側面の、2つの解放を手に入れている。

「姥捨山」は極めて合理的!?

 2人のケースを専門家はどのように見るのか。ファイナンシャルプランナーの山本俊成氏は、かつてあった「姥捨山」は極めて合理的だったと語る。

 「労働力として機能しなくなり、生活費など支出だけが増える高齢者は、企業でいえばリストラ対象。今は言いにくいでしょうが、かつての姥捨山は極めて合理的な文化だったと言えます」

 あまりに冷酷な分析に聞こえるかもしれないが、現状を振り返ってみよう。

 日本は世界一の長寿国だ。「世界保険統計2015(WHO調べ)」によれば、現在日本人の平均寿命は約84歳。大正時代の平均寿命は約43歳で、この60年ほどで寿命は倍近く延びている。加えて、介護保険が充実していないことも老後問題を深刻化させている。

 「遺産相続や医療、葬儀に比べ、介護は親子トラブルが起きがちな分野。日本人は介護保険に興味が薄いが、アメリカの保険会社は介護保険を優先的に考えさせます。国が介護分野の負担を実質国民に任せているからです。対して日本の介護保険には魅力的なプランが整備されていない」(山本氏)

 介護にはどれくらいかかるのか。

 「自宅介護の場合最低でも300万円(月5万円×5年分)用意することをすすめます。しかし、払えない親は子どもに負担させる。これは大問題。子どもは介護に時間を奪われ収入が減るので、ジリ貧状態に陥るからです」(同)

 では、親はどうすればよいのか。

 「出費を減らすか収入を増やすか。子どもに頼らず、定年後も稼ぐ手段を考えるべきでしょう」(同)

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