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ストリートファイトではなくウエイトトレーニング——「はかないことを夢もうではないか、そうして、事物のうつくしい愚かしさについて思いめぐらそうではないか。」展 / 美術家・会田誠氏インタビュー

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東京・市ヶ谷のミヅマアートギャラリーで開催中の美術家・会田誠さんの個展には、「はかないことを夢もうではないか、そうして、事物のうつくしい愚かしさについて思いめぐらそうではないか。」という長いタイトルがついている。「なんなら今までの僕のファンが総取っ替えになっても構わない」という意気込みの新作は、ランチボックス・ペインティングと銘打たれた、小さな作品の群れだった。それは、ちょっと気の利いた社会批評を見せてくれるのではないかと無意識に期待したこちらの下心に、「僕は美術家ですよ」と真顔で返されたような感じでもあり……。(聞き手・構成/長瀬千雅)

美術のほうに閉じたくなった

——DMのイメージだけを見てギャラリーを訪れたので、不意をつかれたと言いますか、やられた、と思いました(笑)。

ねえ(笑)。誇大広告のようなプレスリリースで、社会に開いているような展覧会に見せておいて、完全に美術のほうに閉じている展覧会なんですけれども。

aida_press

個展のDM

——これまでの会田さんの作品は、「日本の社会から生まれてきたものだなあ」と見る人にしみじみと思わせるものが多いと感じていました。実際に「論争」というかたちで社会の側に波紋を生じることもありました。だから「閉じる」というイメージがなかったのですが、今回の展覧会は、国会中継の安倍晋三首相のイメージを使用しているDMを除けば、わかりやすく社会を表象する要素は見られません。なぜ今、美術に閉じたくなったのでしょうか。

「抽象美術」と仮に簡単に言っておきますが、抽象美術に関係する作品はこれまでにもあります。《美術と哲学》シリーズと銘打って、ドイツ人やフランス人のふりをしてドイツっぽい絵やフランスっぽい絵を描いてビデオで撮影したり、ハイデガーの哲学書を読みながら絵を描いていくところを長時間撮影したりというような作品をつくりました。ただ、それは、なんならちょっと笑ってもらいたいような、お笑いビデオのフォーマットの中で抽象美術をやるようなものでした。今回の作品は僕がはじめて本腰を入れて抽象美術に取り組んだものです。

会田誠さん

会田誠さん

それでも、正々堂々とやるならキャンバスに油絵の具なのでしょうが、僕の性分としてどうしてもそういうわけにはいかなくて、弁当箱(使い捨てプラスチック容器)と発泡ウレタンを選びました。そこは僕のひねくれたところかもしれませんが、そう決めたあとは、真面目に取り組んで、より良きものをつくろうと、そのことだけを考えていました。

なぜ今かということで言えば、前からやりたかったことではあるのでタイミングはいつでもあり得るのですが、たしかに、去年の通称「こども展」*に、主に《檄》という作品を出して騒動になったことは、ひとつの理由ではあります。それはある程度僕の心を疲れさせました。

また、騒動もあって《檄》の写真が今でもネットに貼られていますが、見てのとおり、白い布に黒い墨で文字が書かれている作品で、色彩的にはかなり禁欲的です。造形的にも、家族3人の下手くそな毛筆だから味わいがあると言えばあるのかもしれませんが、それでも字は字ですから、造形美術としての潤いはあまりない。そして、言葉というのは意味や主張が乗っかる媒体です。そのイメージが、去年自分がつくったものの代表的な作品として出回っているわけです。その反動で、意味がまったく乗っからない、色と形だけのものがやりたくなったんです。

会田家 檄 2015 布、墨 510×180cm 展示風景:「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」東京都現代美術館、2015 撮影:宮島径 (c) 会田家 Courtesy Mizuma Art Gallery

会田家 檄 2015 布、墨 510×180cm 展示風景:「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」東京都現代美術館、2015 撮影:宮島径 (c) 会田家 Courtesy Mizuma Art Gallery

*東京都現代美術館の企画展「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015年7月18日〜10月12日)に会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)として参加。「社会はだれのもの?」と題されたパートで、学校や社会を批評精神をもってとらえる作品を出展した。しかし会期中、美術館と東京都が《檄》を含む2作品の撤去・改変を要請。会田さんは不当だと抗議、要請は撤回された。

初期は頭を抱えていました

プレスリリースでは、これまでの僕のイメージを根底から覆すと書きました。見た人の中には「いや別に会田っぽい」と言う人も多いわけですが、僕は今まで1点1点においては具体的なネタがあり、意味の読み込みがあって面白いという作品をつくってきたと思います。今回の作品も支持体に弁当箱を使っているところは意味性だと思いますが、それを無視して画面を見れば、意味はありません。意味に頼らず、色と形だけで、自立して、良いと思われるような状態がつくりだせるのかという、僕なりのチャレンジでもあるんです。

——挑戦ということは、完成形というか、これぐらいのものにはなるだろうという目論見があって始めたわけではないのでしょうか。

全然、どうなるかわかりませんでした。最初はとにかく、ひとつの塊について1色だけを同じ調子で塗るというやり方だったので、絵画としての魅力というものがなかなか出なくて。初期は頭を抱えていたのですけれど。

——そうなんですか?!

「目指せ“絵画”」でしたので。絵画になっているものがどれほどあるか。

——ある程度まとめて形をつくっておいて、あとでまとめて塗るんですか。それとも形をつくるのと色を塗るのは同時進行ですか。

それは分かれていますね。形をつくったのは、千葉にある、昔買ったボロい家のリビングです。1回に20個ぐらい並べて、気が向いたときに発泡ウレタンをぐにゅっと絞って、しばらく置いて眺めて、というのをしょっちゅうやって、もういいなというものから外していきました。それを東京の自宅に持って帰って、ちまちま色を塗る。

また 20.6×23.8×3.2cm

また 20.6×23.8×3.2cm

——どっちが楽しいですか。形と、色と。

基本的にはどちらも苦しいんですが、形ができていて、どういう色にしようかと睨んでいるときがある意味で唯一クリエイティブな瞬間です。うんうん唸りながらですが。やはり絵画と同じように、一発で決まるわけではありません。塗っていく間に、あるいは全部塗り終わったあとも、こっちをもっと暗くしようとか、赤と青を逆転させようとか、塗り直しは多いです。具象であっても、絵を描くときは、背景をもっと明るくしようかなとか、ここにアクセントが必要だとか考えますよね。それと同じです。詰め将棋のように、フィニッシュするときは細かい調整が必要なんですね。

人類は「観賞するための平面」をつくってきた

実際に手を動かしたのは3カ月くらいですが、今回やりたかったことは、古今東西の人類がつくってきた「絵画」、というより「平面ビジュアルもの」の「図鑑」みたいなものがつくりたかったんです。弁当箱というフォーマットの中で。

いろんな地域、いろんな時代、いろんな個性……いろいろありますが、その「やり口」みたいなものはある意味有限だと思うんですよね。パターンで分析すればもしかしたら50ぐらいにおさまるかもしれない。

僕は美大受験の予備校生のころから、個性的な画風を確立するということに興味がありませんでした。ゴッホ風とかセザンヌ風とか、絵描きは普通自分の絵の「売り」があるものですが、「会田風」をつくりたいということはずっと昔から思ったことはありません。「会田風といえばあれ」と思っている人もいるかもしれませんが、僕としてはそれはないつもりなんです。

そういう奴ですから、自分の個性を確立することよりも、人類のつくってきたビジュアルものを分類してみたいということのほうが、僕の情熱をかきたてるんですね。

撮影:宮島径 Courtesy Mizuma Art Gallery

展示風景 撮影:宮島径 Courtesy Mizuma Art Gallery

人類の歴史の中で、「鑑賞するための平面をつくる」ということにはいくつかのやり方があります。ものすごく簡単に言えば、静的/動的とか、明るい/暗い、細かい/大胆といった性質を選択してゆくわけです。で、僕がやりたいのは、「俺の素敵な色彩感覚を見てくれよ」ということではなく、「人類が使う手ってだいたいこれぐらいじゃない?」というのが出尽くすまでやってみたいんですよね。

——子どもっぽい感想で恐縮ですが、私は、見ているうちにだんだん、「これひとつ欲しいなあ」という気持ちになりました。小さいし。実際には買えないんですが、そういう目で見始めると、「あれよりこれのほうが好き」という好みも出てきまして。

なるほど。でも僕はなるべく自分の好みの外側にいようと努めました。色を考えるとき、古今東西、自分がこれまでに見てきたものを、ファジーなコンピューターである僕の脳みその中でランダムに検索する感じです。その中には美術作品だけでなく、民芸品やイラストやテレビの画面なんかも入っています。【次ページにつづく】

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