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なぜ歯医者は「予防医療」をためらうのか? 知られざる日本の歯科医療の深刻な問題

【連載第3回】「子どもを生涯むし歯にさせなくない!」という思いは親なら誰もが持っているはず。そんなお母さん、お父さん必読の当連載。「治療をしない歯科医療」を広めようと、全国で講演やセミナーも行っている歯科医師・辻村傑(すぐろ)先生に、子供の口腔健康を守る方法を教えていただきます。第3回の今回は、なぜ日本で北欧のような「予防」という歯科医療が普及、定着しないのか? についてお話しいただきました。









記事のポイント

●なぜ日本の歯科医療に「予防」という発想がないのか?
●日本の歯科大学は国家試験の予備校!?
●「予防」をカバーしない日本の保険制度
●歯科医師が「予防医療」に躊躇する理由

*本連載は2015/2発行の書籍『治療ゼロの歯科医療をめざして(著:辻村傑)』の内容をもとに再編集しお届けします。
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なぜ日本の歯科医療に「予防」という発想がないのか?

以前の記事で、歯医者さんを選ぶときには必ず「“検査・診断”をきちんと行っている歯科医院」を選ぶことが重要、という話をしました。ではなぜ、日本の歯科医療には北欧諸国のような「予防」という考え方、そして治療に入る前の「診断」というプロセスが欠如しているのでしょうか?
その原因は、日本の歯科医療のシステム、制度にあります。お父さん、お母さん方にもぜひ、この日本の歯科医療に横たわる問題について知っておいていただきたいと思います。

なぜ日本の歯科医療が北欧諸国などに遅れをとっているのか?
ひとつには「教育」の問題があります。日本の歯科大学、歯学部では、極論を言えば「削って詰める」ことしか教えていません。「予防」という考え方も、「診断」の大切さや技術も教えてくれないのです。日本の歯科医療において、これは大きな問題です。

幸い私はフィンランドのトゥルク大学で「予防」や「診断」について徹底的に学ぶことができました。
そこで感じたことですが、日本の歯科医療教育の中に「予防」という発想はありません。「いかに精度よく削って詰めるか」「歯がない部分にいかにインプラントで歯を入れるか」といったことしか学んでこないのです。まずこうした歯科医療教育のスタイルを変えないかぎり、日本の歯科医療の改善は望めないのではないでしょうか。

また現在のアメリカやヨーロッパなど海外における歯科大学や歯学部での教育と、日本の歯科医療教育はさまざまな点で異なっています。

一番大きな違いは、海外の歯科医療教育のほうが専門性が高い、ということです。
虫歯治療、歯周病治療、矯正、インプラント、審美歯科など、大学を卒業した段階でかなり高度な診療ができる状態で、各専門分野のライセンスが与えられます。

日本の歯科大学は国家試験の予備校!?

一方日本の場合は、どこの歯科大学もそうなのですが、歯科医師国家試験に受かるための予備校のような教育環境になってしまっていて、知識だけは習得しますが、技術に関しては卒業してから独学で勉強していく、という状況です。
最近では、大学を卒業するまで、実際に患者さんを治療した経験が一度もない、という学生もいるようです。にもかかわらず、卒業してからの一年間は研修医として診療できるため、国家試験は通ったけれど、危なくて診療させられないという歯科医師がたくさんいる、という問題が発生しています。

こうした日本の歯科医療教育は、30年前と比べてほとんど変わっていません。
そのため、治療の技術面だけでなく、歯科医療において本当に必要な「予防」に対する考え方や、「診断」に関する知識や技術がまったく身に付かない。臨床に活かせない知識だけでいっぱいになってしまっているのです。

また、日本の歯科医師は各分野を網羅的に勉強しているため、専門分野に特化した医師はあまりいません。
アメリカであれば、根の治療ならこの専門医、かぶせる治療ならこの専門医、外科ならこの専門医、歯周病の治療ならこの専門医といったように、専門医制になっています。一方、日本の場合はどこの歯科医院でも、大抵すべての分野の治療ができます。

日本の先生たちは勤勉なので休みがあれば勉強するのが普通です。いろいろな治療ができるのも、そのせいかもしれません。いろいろなことができて、しかもそれぞれのクオリティーが高い。つまりは患者さんが必要なものが何でもそろっている〝一流のデパート〟のようなイメージです。
ですから、ひとつの歯科医院に行けば、歯周病の治療、根っこの治療、かぶせる治療と、全部できてしまうのが日本の歯科医師なのです。

先ほど、日本の歯科医師は大学において知識中心の教育を受けているため、技術面でやや弱いと言いました。
しかし日本の歯科医師は、大学卒業後はスキルアップを目指して非常によく勉強するため、実は施術のスキル、技術面では欧米に引けを取らないくらいに高いのです。
ただ、せっかくいい腕を持っていながら、それを十分に活かしきれていないところに、日本の歯科医療界の問題があります。

「予防」をカバーしない日本の保険制度

日本の歯科医師の能力や技術力は、過去の歴史をさかのぼっても決して正当に評価されてきたとは言えません。
欧米の近代歯科医療が日本に入ってきたときに分かったことは、日本の歯科医師の技術レベルが非常に高いということでした。
例えば、歯に詰めものをする治療の場合、アメリカの歯科医師であれば1日に4~5本しか行えないのに対し、日本の歯科医師は同じクオリティーで、30~40本も治療することができる。なんと6倍以上のスピードです。

その後、日本人の歯科医師としてのクオリティーはどんどん上がっていったにもかかわらず、保険の点数はほとんど変わりませんでした。
医科の場合は薬剤の薬科の点数も、経済成長に合わせてずっと右肩上がりで増えてきたのに、歯科に限っては30年前とほぼ横ばいの水準でほとんど変わっていません。歯科医師の技術力、高度なスキルが正当に評価されてこなかったのです。
現在も、日本の歯科医師が持つ技術力は、世界的に見ても格段に高い。しかしながら、国で決められたさまざまな制約が過剰なために、せっかくの技術力が発揮できない、という点が問題なのです。

とくに、日本の歯科医療における保険制度である「国民健康保険」にはさまざまな問題が潜んでいます。
日本で北欧諸国のような予防医療が普及しない原因のひとつが、この保険制度です。なぜなら、日本では予防医療が保険対象外とされているからです。

海外から見れば、日本の医療保険制度は素晴らしい仕組みだと捉えられているかもしれません。しかし、この保険制度がカバーしているのは、国民が最低限度の生活を営むために必要な部分だけです。
歯科医療においては、虫歯治療には保険が利きますが、予防医療には保険が利きません。よく考えてみるとこれは少しおかしな話です。なぜなら、「国は、疾患になる前の予防に対して保険で援助し、もし疾患になった場合は自己責任のため自費で治療を行ってもらう」というのが本来あるべき姿だと考えるからです。

歯科医師が「予防医療」に躊躇する理由

私は、現状の保険システムでは、日本の歯科医師が持っている知識や技術レベルのほんの一部しか活かされていないと感じています。これは非常に残念なことです。
「予防医療」は保険でカバーされない自由診療(自費診療)のため、ほとんどの歯科医師は予防医療に踏み込むことに対して躊躇してしまうのです。
結果としてどの歯科医院に行っても保険の適用範囲で行う同じ治療となってしまい、歯科医師は患者さんに対して予防医療を積極的に薦めることをしなくなっている、というのが現状です。

こんな状況下でも、従来どおり「削る」「詰める」といった治療で患者さんが健康になって喜んでくれるのであれば、現状の仕組みを変えなくてもよいでしょう。しかし現状の歯科医療に対して、患者さんの満足度は決して高くはありません。そのため、多くの人が定期的に来院されない状況に陥ってしまっているのです。

こうした現状のなか、「一度治療を受けたら、二度と同じ疾患が起きることはありません」と断言できる歯科医療を提供することができれば、子供たちだけでなく、国民皆がもっと歯科医院へ行くことになるはずです。

(次回へ続く)

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