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有権者との「物語」共有など

 石破 茂 です。
 相模原市の凄惨な事件には言葉を失います。犯人は「知的障害者を殺せ」という神の命令が聞こえた」「(障害者は生きている価値が無いという)ナチス・ドイツの思想に共鳴した」とも伝えられますが、実際にそれをどのように考えるべきなのかは精神分析の知識に乏しくてわかりません。学生時代に刑法学や犯罪学で習ったロンブローゾやフェリーの社会防衛論や生来的犯罪人論ではとても説明しきれないように思われるのですが、あれから40年、知識も随分と古くなってしまい、軽々なことも言えません。深い闇を覗いたような、とても重苦しい気分です。
 障害を持った人であっても健常者と等しい暮らしが出来るようにすることを目指すノーマライゼーションの思想は、「どのような人もこの世における使命を持って生まれてきた」との考え方に基づくものと承知していますが、「一億総活躍」を標榜する以上、政府・与党としても、この問題に真摯に向き合わなくてはなりません。

 今週水曜日7月27日は田中角栄元総理が東京地検特捜部に逮捕されてから40年に当たる日でした。昭和51年夏、大学2年生のあの暑い夏の日のことは今でもありありと覚えています。
 なぜ今「田中ブーム」なのか、と今週出演したいくつかのテレビや雑誌の企画で問われたのですが、それは恐らく田中角栄元総理が「歴史」になったからなのだと思います。現職衆・参両院議員で直に田中先生の謦咳に接した者は私も含めてほんの数人となり、官僚には全く居なくなったという状況が、このブームの背景にはあるのでしょう。それに加えて、未来に希望が持てない、言い難い閉塞状況の中で英雄待望論的なものも根底にあるようです。
 「今田中角栄ありせば」というのは典型的な「たられば論」であってほとんど意味がありませんが、直に教えを受けた最後の弟子である私は、田中先生の本質は「報いを求めない親切心」であったと今も考えています。屋山太郎氏は「田中角栄の妄想と増長」と題してVoiceの5月号で痛烈に批判していますが、私にはどうしてもそうは思えないのです。

 来月3日の内閣改造を控えて、いつもながらに新聞やテレビはいい加減な報道を繰り返しています。これも季節の風物詩と思って受け流せばよいのですが、何とも煩わしいことです。
 内閣改造といえば、14年前、小泉純一郎総理から防衛庁長官に任ぜられた時の驚きを今も忘れません。小泉先生と私は、政治改革・小選挙区制導入を巡って立場は真反対、小泉総裁誕生の際の自民党総裁選挙でも私は橋本龍太郎先生支持で徹底的に戦ったのですが(あの総裁選で橋本先生が小泉先生に勝ったのは京都・鳥取・島根・岡山・沖縄だけでした)、意気に感じて精一杯の仕事が出来た日々の充実感を今も懐かしく思い出します。

 週末は先週に引き続き、地元での諸会合の合間を利用して、各地の夏祭りなどに参加したいと思っております。
 前回、「有権者との間に出来るだけ『物語』を創ることが大事」と申し上げました。私が議員になる前年の昭和60年夏、渡辺美智雄先生(元自民党政調会長・蔵相・外相・通産相・農水相・厚相)が主宰される派閥横断的政策集団「温知会」の研修会が箱根で行われて参加した時のこと、渡辺先生が一時間余にわたる大変素晴らしい講演をされたのですが、その中で「君たちは何のために政治家でいるのか、また政治家になろうとするのか。先生、先生と呼ばれたいのか、いい勲章が欲しいのか、カネが欲しいのか、女にモテたいのか。そんな奴は今すぐ辞めろ。政治家の仕事はただ一つ、勇気と真心を持って真実を語ること。それしかないのだ」と仰ったことが強く印象に残っています。

 真実を見つけるのは決して容易なことではありませんし、見つけた「真実」は往々にして一般受けしないものですが、それでも学者や官僚諸兄姉の中には、真実を見出し、それを語る勇気を持っている方が一定程度居られます。彼らと政治家との決定的な違いは、「世間受けしない、見出した真実」を「実現する立場」にあるかどうかで、実現出来ない、或いはその努力をする気もないのであれば政治家としての存在意義はないのではないでしょうか。
 「あいつの言っていることは気に入らないが、それでも一度話だけでも聞いてみようか」と思って頂けるのに必要なのが、渡辺先生の仰った「真心」なのだ、と私は理解しています。
 選挙期間中の休日に選挙カーが「この度○○に立候補した△△、△△でございます!」と叫びながら家の近くまでやってくると「うるさいな」と思うのが普通ですが、候補者との間に何らかの「物語」を共有していれば「玄関先まで出て行って手でも振ってみようか」という気になる方が何人かに一人はおられるのではないでしょうか。
 「弱者に冷たく景気を悪くする消費税率引き上げ反対!」「アメリカの戦争に巻き込まれる集団的自衛権反対!」「危険な原発の再稼働反対!」などという主張は、感情に訴えるワンフレーズでそれなりの効果を持ちますが、「何故それが必要なのか」を御理解頂くためにはその何倍、何十倍もの時間と労力を要しますし、そもそも聞く耳を持って頂けなければ話にも何もなりません。せめて「聞く耳」だけでも持って頂けるために「真心」は必要なのであり、その気の無い人は議員になるべきではないのでしょう。

 久しぶりに選挙区にゆっくり帰ると、いくつもの新しい発見があってとても面白いものです。
 鳥取県八頭郡若桜町にある喫茶店「夢豆庵(むとうあん)」の鹿ステーキなどのジビエ料理は実に逸品で、先日訪問した鹿児島県阿久根市のものと比べても全く遜色のないものでした。機会があれば是非お試しくださいませ。(八頭郡若桜町若桜・国道29号線「道の駅桜ん坊」前・0858-71―0636)

 東京もやっと梅雨明けとなりました。
 皆様、ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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