記事

犯罪と社会構造

容疑者は「特殊な人間」か

 相模原の障害者施設で陰惨な事件が起きた。

 事件そのものについてはまだ解明が始まったばかりなので、特に書くことはないし、書くべきでもないだろう。ここで取り上げたいのは、事件についての<語り>である。

 まず紹介したいのは、藤田孝典さんの記事である。この記事で藤田さんは、事件の背後に障害者施設を取り巻く社会構造があると論じている。一部を引用したい。

労働の内容に比べ、対価があまりにも安すぎるのです。障害者施設の職員だけでなく、介護士や保育士もそうですが、これまで家族に委ね、押し付けてきた分野が、少しずつ社会化しているわけですが、その労働環境があまりにも劣悪で、半分ボランティアのような状況で働かせられている。容疑者が社会福祉というものに対しての欺瞞性を感じていたことは確かです。

 悲劇を二度と起こさないためにはどうすればいいのか。課題は山のようにありますが、彼が特殊な人間でないということ。まず誰もが内面に差別なり偏見というものをもっているんだということを受け止めなければならない。

(出典)なぜ殺人鬼は生まれたか 「人間らしさ」を奪う障害者施設の現実 http://ironna.jp/article/3728?p=1

 このように、藤田さんは容疑者が「特殊な人間ではない」として、福祉関連の施設で働く人びとと容疑者を連続線上に位置づけている。つまり、構造的な問題が改善されなければ、同じような凶行に走る人が出てきてもおかしくないという論理になっている。

 藤田さんのこうした見解に対して、大野更紗さんはツイッターで厳しい批判を加えている。これもその一部を引用しておこう。

労働環境が厳しい作業所や施設は、全国に残念ながら沢山あります。職員の待遇改善は必ずなされるべき事です。しかし厳しい労働環境であるからといって利用者を殺傷したりは職員は絶対にしません。今回の事件の特殊性と、ワーカーの待遇改善は、異なる次元で冷静に議論されるべきことだと考えています。現在施設入所なさっている障害のある方々の心情を、二次的に脅かしてはならないからです。
(出典)https://twitter.com/wsary/status/758665249117450242およびhttps://twitter.com/wsary/status/758665416705126400

 このように大野さんは今回の事件の容疑者と障害者施設で働く人たちとを連続線上に位置づけることを明確に否定する。言い換えれば、この事件の容疑者はあくまで「特殊な人間」であって、彼が抱えていた問題を安易に障害者施設で働く人たちに敷衍すべきではないということになるだろう。

 それでは、この二つの立場について、どのように考えればよいのだろうか。

永山事件を考える

 ここで古い事件ではあるが、1968年に発生した永山則夫連続射殺事件について取り上げたい。この事件の加害者である永山則夫は、米軍基地から盗んだ銃を使い、1ヶ月足らずのあいだに4人を射殺している。1990年に死刑が確定し、1997年に執行された。

 永山は崩壊家庭で育った。幼いころに一度は親からも棄てられ、ゴミ漁りで食料を得るなど、極貧のなかで幼少時代を過したと報じられている。永山の背負うこうした不幸な生い立ちから、彼の犯した犯罪の背後に社会構造を見る言説は珍しいものではない。獄中での読書経験を通じて小説家として名を成していくことになる永山自身、自らの事件についてそうした解釈を行っている。彼の著作から一部を引用しておこう。

社会主義には貧乏人いない/生活が苦しい時 皆一緒だ/政治が危うい時期/皆が耳を傾ける/誰一人その集団から逃げはしない/この日本も何時の日か その日が 来る/そして 俺のような奴が出ない国に変わる/人たちよ!/俺の叫びを無駄にしないでくれ/俺は非人に落ちたが/あなたたちは未だ人間だ/俺の叫びを無駄にしないでくれ/それとも それとも/まだ出そうとするのか 第二の俺を(以下略)
(出典)永山則夫(1990)『増補新板 無知の涙』河出文庫、p.373。

 しかし、彼の犯罪を社会構造と位置づける論理は、結局のところ裁判では否定される。彼と同じ境遇に育った兄弟が犯罪に手を染めるといったことはなかったからだ。また、劇作家の寺山修司も、自らの犯罪を社会構造の問題と位置づけ直し、「加害者」から「被害者」へと転身してしまう永山の論理を厳しく批判している。

 実際のところ、4人の人命を奪うという行為を社会の問題へと還元してしまう発想には危うさがあると言わざるをえない。永山と同じように不幸な生い立ちをもつ人たちを、潜在的な犯罪者として位置づけてしまう論理にほかならないからだ。貧困に苦しむ人たちは誰でも「第二の俺」になる可能性を有しているということになってしまう。

 加えて言うと、ごく一部の特異な行動を集団全体の問題と位置づけ、その解決を求めるという態度は、ごく一部の人の犯罪をもって集団全体に対する差別を扇動しようとする動きとコインの裏表のような関係になっている。「この集団から犯罪に走る人たちが再び出ることのないよう、社会構造を改善しよう」という発想と、「こんなにも凶悪な犯罪に手を染める人物を生み出す集団は、やはり信頼できない」という発想との距離は決して遠くはない。

 以上の点を踏まえるなら、相模原での事件のような特異な犯罪を社会構造の問題へと安易に位置づけることにはやはり慎重であってしかるべきではないだろうか。2008年に秋葉原で発生した通り魔殺人に関連して、事件と加害者の社会的境遇とを直接的に結びつける語りは少なくなかったが、それに関しても同様の指摘を行うことができる。

「犯罪者」と「普通のひと」の連続性

 とはいえ、犯罪をつねに「特殊な人物」によるものと見なし、社会構造の問題とはつねに切り離して考えるべきだと言いたいわけではない。

 ここで別の事例について考えてみたい。終戦後の食糧難のもと、配給される量では到底足りないために多くの人たちは闇市で流通する食糧を入手していた。だが、そうした闇市での食糧調達は食糧管理法に違法する行為、つまり「犯罪」であった。

 そうしたなか、配給される食糧のみを食べ続け、餓死してしまった山口良忠という裁判官がいたことはよく知られている。闇市での食糧調達によって検挙される人びとを裁く自分が、闇食糧を食べていても良いのか――そうした良心の呵責が彼を餓死に追い込むことになったと言われる。

 このような状況下において、山口良忠のように振る舞い、犯罪に手を染めることなく生きることは果たして可能だろうか。もちろん、そのように立派な人物もいるだろうが、少なくともぼくにはそうした自信はない。これは言わば、どれだけ長い時間、鉄棒にぶら下がっていられるかを競っているようなもので、いかに腕力が強かろうとも最後には転落してしまうタイプの競争である。

 したがって、この事例の場合には闇市での食糧調達という犯罪と、食糧管理法を含む当時の社会構造の問題とをリンクさせて語ることは間違いではないし、「犯罪者」と「普通のひと」とを連続的に考えることは妥当だろう。

 それでは、この事例と先の永山事件とを分かつものはなにか。それは犯罪の性質ではないだろうか。

 つまり、闇食糧の問題については、社会構造によって生み出される食糧難という問題と、闇市で食糧を手に入れるという「解決策」は直接に結びついている。だからこそ、社会構造の問題として語ることは妥当である。

 他方、崩壊家庭で育ったという問題に対して、見ず知らずの人物をピストルで射殺するという行為は何の「解決策」にもなっていない。だからこそ、社会構造の問題として語ることは不適切であり、永山自身の特異な行動として位置づけるべき犯罪なのではないだろうか。

 もちろん、この二つはいずれも極端な事例であり、この二つの極のあいだに無数の事例が位置づけられるだろうが、普通のひとが法に触れざるをえない状況に対する想像力はやはり担保しておきたいと思う。

相模原の事件はどう考えるべきか

 それでは、相模原の事件はどう考えるべきなのか。言うまでもなく、福祉関連の施設をとりまく環境が劣悪であるという問題と、そこに入所している方々を殺害するという行為は全くもって結びついていない。したがって、大野さんが言うように、これはあくまで「特殊な人間」による犯罪として考えるべきではないかと思う。

 ただ、障害者施設に入所している方々を殺害するという行為を「解決策」とする社会構造の問題があると考える人もいるかもしれない。だが、今後、容疑者からどのような供述が出てこようとも、いかなる背景が明らかになろうとも、容疑者個人にかような残虐行為を強いた社会構造の問題は存在しないと断言しなくてはならない。

 それはまさに「加害者」を「被害者」へと転身させてしまう論理にほかならないのだから。

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