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有給休暇取得率を上げるなら是非やってもらいたいこと - 後閑徹(人材・組織開発コンサルタント)

2016年7月11日に発表された「子育て世代の年次有給休暇の取得意識」調査(株式会社第一生命経済研究所)によると、有給休暇をとることへのためらいを感じる・ややためらいを感じる、と答えたのは男性57.3%、女性63.2%。全体で実に61.2%に上る。そして、その理由は、他人への気兼ねとするものが圧倒的に多い。

■有給休暇を取得することにためらいを感じる理由

1.休むと職場に迷惑がかかるから 54.2%
2.休むと後で忙しくなるから 33.8%
3.職場の周囲の目が気になるから 30.2%
4.家族の病気や急な用事のために残しておく必要があるから 19.8%
5.職場の周囲の人がほとんど有給休暇を取らないから 18.3%
6.上司がほとんど有給休暇をとらないから 16.3%
7.自分の病気や急な用事のために残しておく必要があるから 14.5%
8.昇格や査定への影響が心配だから 11.7%
9.上司が部下の有給休暇の取得を嫌がるから 11.0%
10.職場の同僚が、有給休暇の取得を嫌がるから 3.8%

複数回答
「子育て世代の年次有給休暇の取得意識」調査(株式会社第一生命経済研究所)より
1・3・5・6・10はまさに他人の目を気にした理由だ。上司や職場メンバーが帰らないから帰りづらい、というよくある残業理由も、上記と同じ他人の目を気にした理由であり、個人が周囲に気を遣い、同調しようという様子がみてとれる。

■集団に統合されてしまった個人の運命は?

組織は集団として、何らかの形でその集団にメンバーを引き付け、留めておく必要がある(集団凝集性)。ドイツ・シュツットガルトにある自動車会社で働く若い友人が、日本の某メーカーと協働した際、一緒に働いていたドイツ人が、日本人の集団での力に目をみはった、という話をしてくれたことがある。これは集団凝集性の高い組織の良い面だ。

しかし、過度な同調は誤った方向へと組織と個人を導く危険性も高い。集団から突出した行動は嫌がられる。横を見て、空気を読み、自分の欲求を押し留める。特異な発想は嫌われ、個人は意見を言うことを止め、やがて思考を停止する。

第二次大戦中、ナチス・ドイツにおけるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の指揮をとったアドルフ・アイヒマンの「私はただ上官の命令に従っただけ」という言葉は、まさに集団に完全に統合されてしまった個人の言葉だ。健全な組織は、常に集団と個人の自律の間を揺れ続ける必要がある。

■めざすのは「和して同ぜず」

孔子の書いた「論語」に和而不同という言葉がある。和して同ぜず。他人と協調はするが、むやみに同調はしない、という意味だ。君子和而不同。小人同而不和。

この言葉は、多くの最高裁判決で補足意見や反対意見を書かれた、故・伊藤正己最高裁判事の座右の銘でもある。先輩裁判官から、補足意見というのは単なる独り言にすぎない、と言われながらもこだわり続けた氏らしい座右の銘だが、この言葉は、組織メンバーのあるべき姿を的確に表現している。

協調するが、個を個として保ち、集団には埋没しない。そうすることで、集団は同じ方向を向きつつ、個人は諦観や思考停止から逃れる。彼我の差異を認めることで、集団を活性化させる健全な対立(コンフリクト)を生むことができる。先の調査は、未だ「和して同ぜず」の組織文化が根付いていないことを教えてくれる。

さて、所属する組織の文化は和而不同(和して同ぜず)だろうか。同而不和(同して和せず)だろうか。いつもギスギスしている不機嫌な職場や、どうせ何を言っても無駄という諦めムードが蔓延している職場は後者になるだろう。これは決して、組織とメンバーに良いことではない。業績・成果を上げるという目的のためにも決して良いことではない。

■やるなら成果につながる方を選ぶべきでは?

マネジャーは、組織(職場)の仕組みづくりをする責務を負っている。組織文化の変革をせずに、単に有給休暇の取得率を上げることも可能だろう。しかし、単に有給取得を推奨するより、組織文化の変革を伴った取得率の向上の方が組織のパフォーマンスへの波及効果は大きいはずだ。そして、マネジャーが負う組織(職場)の仕組みづくりとは、成果を上げる組織の仕組みに他ならない。

2020年までに有給休暇の取得率を70%にするという政府目標に対し、民間企業における2014年の育休取得率は47.6%(厚生労働省「平成27年就労条件総合調査」)。企業の社会的責任の履行としてだけでなく、自らの組織の業績・成果を上げるためにも、有給休暇取得をためらう組織文化の変革に着手しては如何だろうか。もちろん、その仕組みを支えるのは、組織に所属するメンバー個々人である。

【参考記事】
■インタビュー事例紹介 待機/職場復帰の不安(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://redesign64.jugem.jp/?eid=108 
■女性活躍の本質 ~「男性と違う何かをする必要はない」を書いて改めて思うこと~(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://redesign64.jugem.jp/?eid=101
■ワーキングマザーにこそ必要なボスマネージメント(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/48964013-20160629.html
■女性の要望を男性はどこまで推し量れるのか(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/48717990-20160530.html
■「管理職になりたくない」部下をもったなら (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/47559416-20160118.html

Redesign Academia 代表 人材・組織開発コンサルタント 後閑徹

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