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「インターンシップが若者を救う」論を駁す④欧州のインターン=偽装雇用=ブラックという構図 - 海老原嗣生

一方では非正規代用のブラック・インターンシップ

欧州ではなぜインターンシップが普及しているのか。もう一端の理由を今回は書く。
前回の上位グランゼコール向けアプロンティサージュのような、年間500万円ももらえるインターンシップは、普通の大学生にはありえない。普通の大学生を企業が実習生で雇う理由はまったく別物だ。それは、「偽装雇用」(emploidéguisé)とフランス語で呼ばれている。フランスの若年雇用に詳しい五十畑浩平准教授(名城大学経営学部)はこう説明している。
「企業研修は、本来の教育活動としての意義が希薄になる、あるいは欠如することで、雇用形態のひとつとして機能することとなる。企業にとってみれば、有期雇用などの非正規雇用に次ぐ不安定雇用のひとつとしてみなされるようになり、労働市場にとってみれば、雇用の調整弁としての機能を果たすことになる」※1
欧州の場合、非正規雇用が原則禁止(期間限定事業やトライアル事業、産休代替などに限定)している国が多い。ただ、企業は雇用調整弁としての都合のよい人材が必要だ。そこで、インターン生が非正規雇用の代替として使われているのだ。 フランスの公的資料から、その状況を探ってみよう。

「私は、ジュネーブにある国連人権高等弁務官事務所で3カ月の研修を受入れた。無報酬であることははっきりしていたが、研修にかかる費用は知る由もなかった。もちろん旅費、滞在費、食費、交通費などすべての費用が自己負担であった。〔中略〕ジュネーブの物価は高いため、すぐに銀行口座の残金がゼロになった。〔中略〕この研修は自分にとって有意義なものになるであろう、すぐにいい仕事が見つかるであろうと確信していた私は、研修を継続するため借金をし、継続更新をした。6カ月の研修の末、丁重に感謝された。〔中略〕現在私は失業状態で、一時的な仕事を掛け持ちしている。専門分野での経験が十分ないため、私の資格の水準にあった職は見つからない。」※2
「私は、SMIC(編注、最低賃金)の30%分が支給される修了時研修(Bac+5国際貿易専攻)を終えたばかりだ。〔中略〕研修生がいなければ、その部署は機能しない。プロジェクトリーダーは、あまりにも多くの仕事を抱え、その部下も仕事で手一杯である。研修生は、したがって、アシスタントとプロジェクトリーダーの仕事を引き受けることになる。5カ月の研修で、超過勤務は100時間ぐらい溜まった。ただ6月にカウンターがゼロに戻ったから、少なくとも150時間は超えている。就業時間ですか?それは、8時45分から、18時30分まで。時々、19時15分になる。単純に、研修生には、労働短縮の権利や、ヴァカンスの権利がないからだ。それに、私たちは、アシスタントよりもはるかに重く、プロジェクトリーダーと同等の責任をもたされている」※3
「私は、正規ポストを任され、サービスの新規開発に参加していた。そこでは、従業員よりも研修生のほうが多かった。しかし、職務経験を積んでおきたかった。」※4
「うちの制作会社では、あるケーブルテレビの仕事を 請け負っているが、 15 人の 従業員 に対し私たち研修生は10人いる 。」※5

搾取と答えた人43.5% 改善後も最低賃金の3割

実際に、彼らの月額賃金はどのくらいだったのだろうか。

2006年当時のデータを図表⑤にしてみた。

AFJホームページ
これで見ると、報酬ゼロが52%、続いて当時の月額最低賃金の30%水準に当たる365€未満が21.6%、365€きっかりが6%。ここまででほぼ8割となる。この額を超えると、企業は社会保険料負担が義務化されるので、極力この範囲で賃金を抑えようとしているのが見て取れる。

一方で、最低賃金の1217.88€を超える人が3.9%。前出のグランゼコール在籍のエリート予備軍がここに入るのだろう。

Stages Critics.com
報酬への満足度合い(図表⑥)については、「搾取」と受け止める人が43.5%であり、とても不十分(21.6%)と合わせてほぼ7割。一方とても良いが2.8%ほどいるが、やはり、これもグランゼコール在籍のエリート予備軍と考えられる。前回の記事をぜひ参照いただきたい。

ここにも、ほんの一部エリートのみが厚遇される階層構造が見て取れるだろう。

デモ、ストライキ・・・その末、最低賃金の1/3

こうした状態への不満が爆発したのが有名な2005年10月4日、パリで起きたインターン生によるデモだ。11月1日には一斉ストライキも起き、その後も継続的な活動で1万5000名の署名が集まり、翌2006年4月13日に現状改善の請願書が首相に提出される。

そこから3年半をかけて、インターンシップに対して改革が進みはしたが、それでも、2か月を超える実習の月額報酬は、法律で定められる最低賃金の1/3以上となっている。それは月額400€程度で日本円なら5万円強だ。企業にとっては安価で使い勝手の良い雇用調整弁に他ならない。だから企業はインターン生を重用する。決して社会貢献や企業の社会責任で受け入れているわけではない。その証拠に、社会保険料負担が発生する時給以下に彼らの賃金を抑えて、無保険で学生を働かせている。日本のインターンシップが、あれほど生易しい内容なのにもかかわらず、労災保険の扱いをめぐり、繊細な対応をしているのとは大きな差をだろう。

こんな状況のため、欧州ではフランスでもドイツでもインターンシップは、危険要素が大きいから、より透明性のある制度として公的な見習い訓練制度を推奨する流れがある。

ただ、その公的見習い訓練制度(フランスのCFAの場合)でさえ、1年目の報酬基準は最低賃金の53%であり、3年目でも最低賃金の78%にしかならない。この時給に平均的な年間労働時間を乗じて年収レベルを試算すると1年目が80万円強、3年目が130万円弱となる※。初年度年収は、日本の大卒初任給の数分の一、高卒初任給の半額以下だろう。3年目の給与とて、日本の非正規労働者のワーキングプアな報酬にも到底及ばない。それでもフランスでは、大学卒業者の一定数が、在学中に職を見つけられず、CFAで見習い訓練を受けるという。

こうした現実が日本では語られていない。

※1.フランスにおける企業研修(stageenentreprise)の生成と発展―フランス社会への浸透とインパクト(110Pより) 五十畑浩平、以下※2から5も同論文からの孫引き
※2GenerationPrecaire(2006),pp.71-72
※3.GenerationPrecaire(2006),pp.99-10
※4. Le Figaro , 2 mai 2006.
※5. Le Monde , 1er decembre 2005
※6.年間1400時間労働、最低時給12€、1€130円で試算


海老原嗣生
株式会社ニッチモ代表取締役。立命館大学経営学部客員教授、経済産業研究所雇用市場改革プロジェクト、リクルートキャリアフェロー、奈良県行革推進ワークマネジメント部会長。

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