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よくある選挙公約「介護施設を増やします」について真剣に考えてみた - 藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

参議院選挙が終わり、東京都知事選挙がスタートいたしました。そこで、よくある介護系の選挙公約について真剣に考えてみました。

■よくある介護系の選挙公約


国会、地方議会を問わず介護・福祉の選挙公約は、人々の心に訴えかけやすいのでしょうか。「介護施設を増やします」、「特別養護老人ホームの待機者をなくします」など、耳で聞いている限りでは、心地よいのですが、本当に?と首を傾げてしまう方は少なくないはずです。

■選挙公約「介護施設を増やします」について


介護保険制度が誕生した平成12年4月以降、介護市場は、民間に開かれたマーケットになっています。マーケットである以上、需要と供給の関係が成立します。端的に言えば、採算が取れるようであれば、勝手に民間企業が進出するでしょうし、採算が取れないようであれば、その地域の介護事業所は撤退していくことになります。ですので、「増やします」と言っても増えませんし、逆に増やしませんといっても勝手に増えます。「介護施設を増やします」という選挙公約はリップサービスと思わざるを得ません。

ところで、「介護施設を増やす」の介護施設の種類は、特別養護老人ホームのことを指すと考えられます。「デイサービスや訪問介護を増やします」よりかは、生活面の全ての面倒を見てくれる「特別養護老人ホームを増やします」の方が、一瞬でも私たちの心の中に安堵感を生じさせてくれるからです。

その特別養護老人ホームは、実は多くの補助金が投入されて建設されています。そのため、近年の国の懐事情を鑑みれば、そう簡単に選挙公約で増やすと言っても増やせるものではないことがわかります。

以上から、選挙公約「介護施設を増やします」というのは、有権者にとってはあまりにも無責任で期待できない公約なのではないでしょうか。

■選挙公約「特別養護老人ホームの待機者をなくします」について


特別養護老人ホームの待機者をなくすためには、特別養護老人ホームをたくさん作れば済むことですが、現実は先ほど申し上げた通り、財政の問題からそんなことはできません。そこで、この選挙公約は、特別養護老人ホームに申し込まなくても良い環境作りのこと、すなわち在宅生活を支援してくれる介護事業所を増やしたり、介護サービスの質の向上のことを言っているのだと深読みしました。本気で特別養護老人ホームを増やすと考える立候補者はさすがにいないだろうという結論の結果です。

在宅向けの介護サービスとして良く知られているのは、訪問介護、訪問看護、デイサービス、デイケアなどでしょうか。最近はお泊りもできるデイサービスや24時間対応の訪問介護も登場しています。これらの介護サービスの担い手は、民間企業です。そこで、規制緩和や一時的な補助を行えば、さらなる民間企業の進出や介護サービスの質の向上につながると期待されます。

この選挙公約「特別養護老人ホームの待機者をなくします」では伝わりにくいので、「待機者の多い特別養護老人ホームに申し込まなくても良いように、〇〇介護サービスを増やします」とか、「〇〇介護サービスの質を向上させるために〇〇な政策を実施します!」と言ってもらったほうがよっぽど具体的で、伝わりやすいのではないでしょうか。

■そうは言っても実際は、国に誘導されている介護事業所の進出と撤退


平成27年8月3日、厚生労働省老健局より、「介護保険の第6期計画(平成27年~29年度)及び平成37年(2025年)における第一号保険料及びサービス見込み量について」が公表されました。非常に長い名前で、難しそうなのでスルーしそうなタイトルですが、実は、この報告書には、今後10年間の介護の方向性が示されています。

報告書によると、平成26年時点の特別養護老人ホームには約54万人分のベッドが用意され、平成37年時点のベッド数は73万人分を見込むと明記されています。そこには、改革シナリオと注意書きがあります。選挙公約で増やすと言わなくても、ちゃんと増えることになっています。

また、訪問介護は、平成26年時点では104万人分が受け皿として用意され、平成37年時点では155万人分まで増える見込みに、そして、デイサービスは、平成26年時点では193万人分の受け皿が用意され、平成37年時点では301万人分まで増える見込みとなっています。

つまりは、この平成37年の見込み数値となるように介護事業所の進出は誘導されるということです。たとえ足踏み状態が続く、進出しにくい介護サービスがあったとしても、規制緩和や報酬改善で進出しやすいように促されます。もし、予想よりも増えすぎてしまった介護サービスがあれば、規制強化や報酬削減で調整されるでしょう。私たちの老後の生活は、もうシナリオが示されています。忘れてはいけないこと、それは、介護保険は国が運営しているということです。

他にも気になる記載がありました。65歳以上の方が毎月支払う介護保険料です。平成26年の平均介護保険料は4,972円でしたが、平成37年には8,200円へと大幅増額となりそうです。あくまでも見込みとなっていますが、わざわざ資料にして公表するぐらいですから、知っておきなさいという国からのメッセージと受け止めるべきだと思います。

■私たちに不都合な事実


平成37年時点の65歳以上74歳未満の人口は1,479万人と予測されています。同様に75歳以上の人口は2,179万人と予測されています。65歳以上74歳未満のうち、要支援・要介護と認定される割合は約4.4%です。一方で75歳以上のうち、要支援・要介護と認定される割合は、30%を超えています。つまり、1,479万人×4.4%+2,179万人×30%=718万人の方が日時生活に支障をきたしている状況(介護等のサポートが必要な状況)になっているということです。

日常生活に支障をきたしている人々をサポートするのが介護福祉士やヘルパーなどの介護職員です。平成25年時点の介護職員数は約170万人と発表されています。そして、平成37年の見込み介護職員数は215万人です。ところが、215万人では絶対数が足りません。実際に介護サービスを行うために必要とされる介護職員数は252万人と試算されています。つまり、37万人も不足する見込みなのです。

今でさえも、介護職員が不足しているのは周知の事実です。そして、今から10年後はもっと介護職員が不足している事実が待っていたのです。介護保険を利用しようと思っても、介護職員がいないため、たらい回しにされる可能性があるということです。気付いていらっしゃいましたか?

■私たちが気にしていることこそ選挙公約にして欲しい


私たちが気にしていること、それは、これからも介護保険は必要な時に使えるのかどうか、そして、これからも1割負担で安く使い続けられるのかどうか、ということではないでしょうか。介護職員の不足が見込まれている将来、そして、国にお金がないということから、いつも通りに問題の先送りをされたら、いずれの答えもNOとしか考えられません。

当選した暁にはなかったことになる選挙公約「介護施設を増やします」は、もう結構です。たった10年後には、今とは異なる本当に危機的な状況が待っています。現状と将来を示して、だからこそ「手遅れにならないためにも、今、この政策を実現させます!」という本気の選挙公約こそ、私たちが心から望む公約ではないでしょうか。

藤尾智之 税理士・介護福祉経営士

【参考記事】

■介護が必要になった!どうする?(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/49045000-20160709.html
■介護の問題を絶望にしない秘訣(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48944579-20160626.html
■介護保険が知らぬ間に保険ではなくなる事実(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48473153-20160428.html
■介護保険はやっぱり保険ではなくなった(藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)
http://sharescafe.net/48977075-20160701.html
■介護保険は保険でなはい 「親の介護は老人ホームにお願い」は甘い考え 介護保険を考える(1) (藤尾智之 税理士・介護福祉経営士)

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