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アップル流、音楽ストリーミング戦争を勝ち抜く方法

By DAVID FRICKE
アップルのオリジナル・ミュージック・コンテンツを担当しているラリー・ジャクソンは、『Apple Music』を「ポップ・カルチャーに関するあらゆる事柄の交差点」にすることが目標だと語る。

テクノロジーの巨人が財布のヒモを緩め、これまでにないやり方でアーティストのキャリアにかかわっていくーー音楽ストリーミング戦争、アップルの戦法とは。

ドレイクの『ホットライン・ブリング』のビデオ、テイラー・スウィフトのツアームーヴィー、ザ・ウィークエンドの『キャント・フィール・マイ・フェイス』には共通点がある。アップルの資金提供を受けているのだ。世界で最も企業価値の高い企業と言われているアップルは、ミュージック・ビデオやコンサート・ドキュメンタリー、ドキュメンタリー作品の制作、そしてとりわけ、アルバム独占配信を入手するためにその巨大な資金を投じている。そしてテクノロジーの巨人の重役たちは、ポップ・スターのプロジェクトに関与している。アップルのCEO、ティム・クックはM.I.A.の『Borders』のビデオ制作に一枚かんでいる。

「ティムはあのプロジェクトには力を入れていたよ」と語るのは、アップルのオリジナル・ミュージック・コンテンツを担当しているラリー・ジャクソンだ。直近の独占配信は、チャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』である。彼はレーベルに所属しておらず、ダウンロード版の販売もしていないので、消費者は『Apple Music』で聞くしかない。「ここをアーティストが好きなことをできる家のような場所にしたいんだ」と語るのは、レコード業界長年の大御所、ジミー・アイオヴァインだ。2014年にパートナーのドクター・ドレーとビーツ・エレクトロニクスを30億ドルでアップルに売却した後、アイオヴァインはアップルのストリーミング・サービスを引き継いでいる。

音楽業界でスピード出世を果たしたラリー・ジャクソンは、アップルの革新的なアプローチのけん引力となってきた。彼は『Apple Music』のボス、ジミー・アイオヴァインとインタースコープ・レコーズで過ごした時間がインスピレーションの元になっているという。当時ラナ・デル・レイと契約したジャクソンは、彼女はインターネットによってインターネットのために生まれてきたようなアーティストであるため、ラジオのプロモーションにお金をかけるよりは、全ての予算をビデオに投じるべきだとインタースコープを説得したのだった。「僕らはもう、こうなったら映画を作ってしまえということになった。そこで長編作品を作ったんだ。だから(ラナ・デル・レイの)『ナショナル・アンセム』は8分もあるんだ」。シングルがラジオのローテーションに入ることもないまま、『ボーン・トゥ・ダイ』はビルボードで2位に初登場し、プラチナ・ディスクになった。このことはジャクソンにとって、自分の考えが正しかったという証明となったのだ。

『Apple Music』もこれと同様、コンテンツ中心のアプローチを取っている。しかし、アップルは音楽ストリーミング事業を制するにはほど遠い状況にある。同社の音楽関連の売り上げは2013年の14億ドルから、2015年には24億ドル近くにまで増加したが、報道によれば、『Apple Music』の有料加入者が1,500万人であるのに対し、『Spotify』の有料加入者数はおよそ3,000万人、『Tidal』は約300万人である。『Tidal』はジェイ・Zが主宰するサービスで、ビヨンセ、リアーナ、カニエ・ウェストといった注目度の高い独占配信を行っている。しかし、企業価値5,860億ドルともされるアップルには、こうした競合企業にはない強みがある。それは、キャッシュだ。

4月終わりの2週間、ドレイクの『ヴューズ』がアップルで独占配信されたが、これは『ホットライン・ブリング』ビデオ制作を含む数百万ドルの契約の一部であるという。同社はまた、ウィークエンドの『キャント・フィール・マイ・フェイス』ビデオの2つのバージョン(1つは結局リリースされなかった)にも資金を提供。2月にはフューチャーの『EVOL』を独占配信、フューチャー自身がDJキャレドのapple music内のBeats 1ラジオショーに出演してお披露目したのだった。「このブランド力だけは否定のしようがない」とDJキャレドは語っている。

「アップルはとても魅力的だ」と語るのは、ウィークエンドやアリアナ・グランデを擁するリパブリック・レコーズのモンテ・リップマン社長だ。「彼らは、これまでに誰もしなかったことをしようとしている。特に最近は、とてもクレバーに、画期的なチャンスを持ち込んでくれている」。ジャクソンは、『Apple Music』を「ポップ・カルチャーに関するあらゆる事柄の交差点」にすることが目標だと語っている。こうしたモデルは、「80年代90年代のMTV全盛期と同じだ。当時はマイケル・ジャクソンやブリトニー・スピアーズがそこにいると感じられたものだ。あのような感覚を呼び起こすにはどうすれば良いのかということを考えているんだ」とジャクソンは述べている。

ラリー・ジャクソンがロサンゼルスのSoHo Houseレストランの特等席でさまざまな契約をまとめる一方で、アップルはエミネムの『フェノメナル』のビデオに資金を投じたり、キース・リチャーズ、ブラック・アイド・ピーズ、セレーナ・ゴメスといった面々とのパートナーシップを締結していった。ジャクソンはまた、テイラー・スウィフトの『ザ・1989・ワールドツアー』の映像制作の契約も結んだ。スウィフトによると、彼女とジャクソンは「一緒にブレインストーミングをして、プランを練って、フィルムを編集した」のだという。こうした関係が、スウィフトがラップを口ずさむ、ドレイク & フューチャーの『Jumpman』の広告へと広がっていったのだ(『Jumpman』のセールスはその結果431%も増加したという)。

いくつかの失策もあった。ジャクソンは、カニエ・ウェストのアルバム『The Life of Pablo』との契約競争に敗れた。アイオヴァインによると、ウェストの方が交渉を打ち切って、自身がジェイ・Zらと共同経営している『Tidal』でアルバムを配信した。「結局は、友だちと仕事がしたかったんだ」とアイオヴァインは語っている。「簡単な話だよ」。(『The Life of Pablo』は6週間後に『Apple Music』をはじめとするストリーミング・サービスで配信されたが、このことがファンの怒りを買い、訴訟沙汰となっている)

アップルのスター重視のシナリオは、アイオヴァインがビーツ・ヘッドフォン時代に取った戦術にさかのぼる。ビーツは同社株式と引き替えに、レブロン・ジェームズとプロモーション契約を結んだ。「当時はとてもうまくいった。でも、いまは独占配信をしても、あの頃のような話題にはなっていない」と語っているのは、元ユニバーサルのデジタル部門担当役員だったラリー・ケンズウィルだ。「だから、まだ結論は出ていない」。

当面、メリットを得るのはトップ・アーティストやマネージャーだ。「クールなことをするためのパートナーシップにすぎないと思っている」と語るのは、フューチャーのマネージャー、アンソニー・サリー(Anthony Saleh)だ。「まるで朝起きて朝飯を食うのに金をもらっているみたいだ。いずれにしてもやることなんだけどね」

リップマンはアップルの「冒険心と攻撃性」には敬服すると語っている。「たとえ話で説明しよう。ジャクソンは、アイオヴァインから聞いたこんな話を繰り返し話してくれた。"電線にハゲタカが2羽止まっている。1羽は、何かが死ぬのを待っていた。するともう1羽がこういった。ああ、もう待っているのはたくさんだ。こちらから殺しに行こう"。それがアップルの哲学なんだよ。こちらから攻め込んでいくのみなんだ。」

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