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完全自動運転自動車の事故の責任と保険と省益について

2016年5月、TeslaMotorsの電気自動車「モデルS」が自動運転機能「オートパイロット」を使用中にトレーラーと衝突し、モデルSのドライバーが死亡したため、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、予備調査に乗り出すことになった、と報じられた。イーロン・マスクCEOはブログで、「強い日差しがトレーラーの白い車体に反射したせいで、(モデルSの)ドライバーもオートパイロットもその存在に気づかなかった」ことと、「先行するトラックの車高が高く、左折中であったため、トラックの側面に(潜り込むような形で)衝突した」ことが、死亡事故の原因と述べている。

モデルSは、完全自動運転車ではなく、事故当時も、必要に応じドライバーの介入を必要とする「レベルⅡ」の半自動運転状態であり、ドライバーは常時監視が求められていたにもかかわらず、DVDを鑑賞中だったという報道もある。そうだとすれば、本件については、ドライバーに(一定割合の)過失があることは明白だ。ただ、同様の事故は完全自動運転自動車においても起きる可能性があるから、責任の所在と被害者救済のあり方を論じることには、意味があろう。

本件事故の原因が、仮にマスク氏のブログの通りであるとした場合、オートパイロットは「過失」の責を免れないように思われる。先行車が光学迷彩を施していた訳でもないのに、「強い日差しが反射した」くらいでその存在を見失うことは、法的に許されない。もし、ハレーションによって前方注視が困難になったのであれば、先行車の有無にかかわらず停止すべきである。そして、オートパイロット自体は責任を問えない物ないしプログラムに過ぎない以上、損害賠償責任を負うのはメーカーであるテスラ社ということになる(上述の通り、本件については死亡したドライバー自身の過失も一定程度ある可能性があるから、その場合には、適切な過失相殺がなされるべきことになる。なお、死亡したドライバーとテスラ社の責任割合はどうあるべきか、という問題はここでは論じない)。

もっとも、完全自動運転自動車の起こす事故において、問題なのは、オートパイロットの「過失」または「欠陥」の有無が明らかでない場合だ。現在の法体系では、被害者が加害者側の過失か製造物の欠陥を立証しない限り、賠償請求できない建前となっているから、被害者がオーナー又は搭乗者の過失または自動車の欠陥を立証できなかった場合、「泣き寝入り」を余儀なくされることになる。しかし、自動運転自動車のオーナーは、自動運転自動車を購入(導入)することによって、自ら運転する労を免れたり、人を雇って運転させる人件費を免れたりしているのに、その起こした事故の損害賠償責任まで免れるというのは、いかにも不公平だし、社会が受け入れないだろう。そこで、完全自動運転自動車の社会実装は、オーナーに事実上の無過失責任を負わせる強制保険制度の実施とワンセットにならざるを得ない。オーナー(の保険会社)は、被害者救済の責を果たした上で、もし自動車に欠陥があれば、メーカーに求償を行うことになる。

オーナーに事実上の無過失責任を負わせる強制保険制度と書くと、いかにもオーナーの負担が増すように聞こえるが、完全自動運転自動車が起こす事故数は、人が運転する自動車が起こす事故数より減るので、現在の任意保険に比べ、保険料は下がる。それどころか、自動車事故の減少は、損害保険市場の縮小をもたらすから、完全自動運転自動車の普及は、損害保険業界の激変をもたらすだろう。

このように、完全自動運転自動車の社会実装と普及には、わが国の保険制度を根本から改変することになる。特にわが国の場合、自賠責保険制度が、完全自動運転自動車の社会普及を妨げることになりかねない。

わが国における自動車損害賠償保険制度は、事実上の無過失責任となっている自賠責保険と、過失責任を前提とする任意保険との2階建てになっている。しかし、この保険制度をそのまま完全自動運転自動車に当てはめたのでは、被害者に不利になってしまうから、上述のとおり、2段目の任意保険も事実上の無過失責任にする必要がある。そうなると、人が運転する自動車の保険制度と、完全自動運転自動車の保険制度が、異なる建て付けになってしまう。しかも、この二つの保険制度は、別々の自動車に適用されるとは限らない。一つの自動車でも、手動または半自動運転モード中の事故と、完全自動運転モード中の事故とでは、異なる保険制度が適用される、という複雑な話になってしまう。

それだけではない。有人運転自動車の場合、2階部部分の保険加入は文字通り任意だが、完全自動運転自動車について、2階部分の保険加入を強制することになれば、被害者側から見ると「自動運転自動車に轢かれた方が得」という不条理な結果が発生してしまう。また、国家の政策が自動運転自動車の普及にあるなら、完全自動運転自動車の強制加入保険料が、有人運転自動車の自賠責保険料より高いという事態は避けるべきである。

このように考えてくると、完全自動点自動車を普及させるには、自賠責保険と任意保険という二階建ての制度自体を抜本的に見直さなければならなくなる。その結果として、自賠責保険制度が存続の危機にさらされることになるが、これは、国交省の権益と真正面から衝突することになりかねない。

ということで、完全自動運転自動車の社会実装と普及には、実は、省益が最大の障壁になるのではないか、というのが、私の考えである。

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