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【なぜ南シナ海に進出するのか?】南シナ海 対米核戦略の内幕 - 能勢伸之(フジテレビ解説委員)

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国際法を無視し、米国や周辺諸国からの批判にも耳を傾けず、領有化を進める背景には、核戦略があった

 中国は2007年より、自らが引いた「九段線」内の南シナ海を自国の領海とみなし、2014年より、その領域内の島嶼や埋立てで造った人工島に滑走路や港湾施設、レーダー施設を着々と建設している。当然、米国はこの行動に憂慮を示し、再三、やめるように警告を発している。また、中国との間で南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島などの領土問題を抱えるフィリピン、マレーシア、ベトナムなども、これを批判し、中国への警戒を強めている。「平和的台頭」を掲げていた中国はなぜ、そこまで居丈高な行動に出ているのだろうか。

 その問いに対しては、南シナ海の資源やシーレーンを掌握するためだと指摘されている。  確かに米エネルギー情報局(EIA)が2013年2月に作成したリポートによると、南シナ海には、埋蔵量110億バレルの原油と天然ガス190兆立方フィートが眠っていると推定されている。

 また、世界で取引される原油の約3分の1、液化天然ガスの半分以上が南シナ海を通る。シーレーンとしての重要性は論を俟たない。

 しかし、それらだけでは、中国の南シナ海での強引な行動を説明することはできない。

 中国の行動には、あまり語られないが、非常に重要な意図が隠されているのではないか。

 G2として、米国と並びたとうとする中国は、経済面だけではなく、軍事面、特に核抑止の強化が急務となるはずだ。

 核戦略のために南シナ海をおさえこもうとしているのなら、むしろ、そのように捉えた方が、中国の南シナ海での行動に一貫した戦略を見出すことができる。

 それはいかなる戦略なのか? 現代の核抑止理論をベースに考えてみることにしよう。

 その理論は歴史的には米ソ核戦争の想定によって鍛えられてきた。第二次世界大戦後、全面核戦争をしうる国は、米ソ以外には考えられなかったからだ。

米ロ中の戦略核兵器

 米ソ核戦争において、勝敗を分けると考えられ、核抑止の要とされたのは、互いの敵国本土の都市や核ミサイル基地などの標的を破壊する「戦略核兵器」である。戦略核は、①大陸間弾道ミサイル(ICBM=射程5500㎞以上の地上発射弾道ミサイル)、②潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、③重爆撃機の三種類の遠距離核打撃システムから構成されている。これを核の三本柱=トライアドと呼ぶ。

 米国とソ連の核兵器を継承したロシアは、依然として戦略核を大量に保有しているが、トライアドを構成する兵器と搭載される核弾頭の数量などについては、米ロ間で繰り返し条約で規定し、現在は新START条約(新戦略兵器削減条約)の下、両国とも2018年までに核弾頭を1550個まで、ICBM、SLBM、重爆撃機の合計を700までに削減することになっている。

 米国と中国の核抑止を想定する場合にも、まず、それぞれの戦略核兵器を見ればよい。それ以外の種類の核兵器を保有していたとしても、相手に直接・即時には届かないからだ。

 では、中国の戦略核兵器を見てみよう。中国はICBMとSLBMを保有しているが、米国本土を打撃できる重爆撃機は持っていない。

 中国のICBM(DF‐31A、CSS‐4別名DF‐5、DF‐5AはDF‐5の発達型)は、米国に届く(次頁図1参照)。しかし、その数は米国の7分の1以下である(次頁図2参照)。また、中国のSLBMであるJL‐1の射程は2000㎞台で、米国本土には届かない。同JL‐2の射程は7400㎞以上で、中国沿岸からだと、アラスカやグアムには届くものの、その他には到達しない。

 以上をまとめると、中国の戦略核は、重爆撃機はない上に、SLBMの米国本土への打撃能力は著しく低い。ICBMは米国本土を打撃できるが、弾頭数でかなり水をあけられている。ただし、ICBMについては、新型のDF‐41が開発中である。これは射程が12000㎞以上と米国本土まで届き、搭載した複数弾頭が個別の標的に向かう個別誘導複数弾頭(MIRV)を搭載するとみられる。

核戦争の勝敗を決するSLBM

 米ロ中の戦略核戦力の保有状況を概観したところで、次にそれによる核抑止がどのように設定されるかをシミュレーションしてみよう。

 一般にICBMの発射装置は、2種類ある。一つは竪穴にミサイルを収め、蓋をする固定式サイロ。もう一つは車両や列車にミサイルを搭載し、発射地点を変えて行く移動式。これは元々は発射地点を敵国に捕捉されないようにするための工夫だった。しかし、今では偵察衛星や偵察機の技術が相当に進歩したので、移動式の場合も特定されないとは言えない。

 したがって、平時から場所を割り出される可能性の高いICBM発射機(基)は、まず敵国の戦略核兵器の標的となる。

 このことを踏まえると、戦略核兵器の標的は、主に敵国のICBM発射機(基)や軍事中枢となる。重爆撃機はミサイルや爆弾の投下前に迎撃すればよい。敵国の都市を狙うとすれば、敵国の国力の破壊と戦意喪失のためであり、ICBMの発射機(基)や軍事中枢を狙うのは、反撃を防ぐためである。むろん核戦争が実際に起これば、自国の都市やICBM発射機(基)、軍事中枢も相当に破壊されるだろうが、核戦争における敗北は、反撃が不可能になった時点で訪れる。逆に言えば、核戦争は、反撃が可能なうちは、物理的に続行しうる。

 このような想定の下で、非常に重要な役割を担うのが、SLBMである。SLBMを搭載して、海深く潜航するミサイル原子力潜水艦は、場所を特定されにくいため、敵国による先制攻撃を免れやすく、SLBMによる反撃に転じられるからだ。

 このことは、敵国にすれば、戦略核戦力によって、ICBM発射機(基)を壊滅させても、反撃される可能性が残ることを意味する。そうなれば、戦略核兵器による先制攻撃を思いとどまるかもしれない。SLBMが核抑止にとって、非常に重要な役割を担うのは、このためである。

 このことを正確に認識していたのは、冷戦期のソ連である。

 ソ連はSLBMによる反撃可能性を保つためにオホーツク海を「ミサイル原潜の聖域」にしようとした。具体的に言えば、ソ連はオホーツク海に米軍の航空機や艦船が入ることを困難にし、そこに潜ったミサイル原潜が捕捉されたり、攻撃されたりしないようにしていた。

 オホーツク海は水深が2000m以上の水域が多く、偵察衛星でミサイル原潜を捕捉することは難しい。また、北も東も西もソ連領土に囲まれている。つまり、聖域化しやすい地理的条件を備えていた。聖域化ができれば、オホーツク海に潜ったミサイル原潜は、千島列島の間を抜けて太平洋に進出することもできた。

 さて、いよいよ米中の核戦争を想定してみよう。戦略核兵器の比較をすると、中国の戦略核兵器は米国に比べてかなり劣るため、頼みの綱は、やはりSLBMだが、中国にはソ連におけるオホーツク海のような「聖域」はあるだろうか。ミサイル原潜が米軍に捕捉されることなく、米国本土を狙うSLBMを隠せる海を持っているだろうか。

 中国が面する海は大きく分けて、黄海、東シナ海、南シナ海の三つである。そして、SLBMを搭載した中国の晋級ミサイル原潜の基地は、知られている限り、2カ所にある。それは、大連の小平島海軍基地と海南島南端にある玉林(三亜)である。

 小平島海軍基地が面している黄海の平均水深は、50m弱で、そこにつながる東シナ海のほとんどの水深は、200m未満と浅い。この水深だと、ミサイル原潜は偵察衛星や哨戒機に捕捉されてしまう。その上、より深い太平洋に出ようとしても、その入口には日本の薩南諸島と琉球諸島が関所のように控え、米海軍最新の潜水艦ハンター、P‐8Aポセイドン哨戒機が沖縄嘉手納基地から展開し、常に目を光らせている。つまり、黄海、東シナ海は中国にとってのオホーツク海にはなりえない。

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