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食べログの書き込みが裁判になる本当の理由 - 及川修平(司法書士)

飲食店の利用者が評価を書きこむサイト「食べログ」の内容について、投稿された店の経営者が削除を求めて争いとなっていた裁判。最高裁判所は削除を認めないとする判決を出してニュースになった。
「食べログ」情報削除認めず 最高裁で判断確定 産経新聞 2016/06/02
この件は、一見すると、飲食店側はどのような書き込みがあったとしても、それを甘んじて受け入れるべきだという判決のように読めるが、そうではない。

裁判で争われたのは、「店舗情報そのもの」を削除するべきかどうかで、「個別の書き込みの内容」を削除するかどうかということではなかった。

これは実は大きな差で、根拠のない悪質な書き込みが何でも許されるというわけではないので要注意だ。

■裁判で争われたものは?

裁判では、訴えた飲食店側から「いつ、いかなる形で本件店舗の情報を発信していくかの自由を害され、原告の営業権が侵害された」との主張ながされた。

これはどのような主張かというと、口コミサイトに載せるかどうかのコントロール権はあくまで店側にあるべきだ、店側が掲載をやめたいと言えばサイト側はそれに従うべきだ、というものだ。

これに対して、札幌地方裁判所は「原告の飲食店は広く一般人を対象にして飲食店業を行っているのであるから、個人と同様に情報をコントロールする権利を有するものではない。飲食店側が望まない場合に、これを拒絶する自由を与えてしまえば、得られる情報が恣意的に制限されることになってしまう」という趣旨の理由を述べて、原告を敗訴させている。

札幌高等裁判所でも「社会的に妥当な口コミであればそれを受け入れるべきだ」という趣旨の理由をつけて原告の主張を退けているが、この度、最高裁判所でもこのような考え方が支持された形だ。

今回の裁判所の判断理由は理解できるものであるが、このような裁判が起こる背景をもう少し考える必要がある。

■問題の背景には、一方がやられっぱなしという事情がある

判決文によるとこの事件、発端となったのは、食べかけの写真を投稿されたり「料理が出てくるまで40分くらい待たされた」という趣旨の書き込みがされたりした、ということであったようだ。

当初、飲食店側の主張は店舗情報自体の削除ということではなく、この写真や投稿の削除を求めている。

今回裁判になった書き込みの内容が真実であったかどうかは不明だが、このような飲食店などを評価する口コミサイトの書き込みのなかには、全く事実と異なることや、酷いものになると単なる誹謗中傷に過ぎないものまである。

飲食店は個人事業主であったり中小企業であったりすることが多いだろうが、口コミの内容によって経営が大きく左右されることも珍しくないだろう。

問題は、このような悪質な書き込みがあったとしても、対処はあくまでサイトの一存に委ねられていて、投稿された側としては現実的には取りうる手だてがない、ある意味で一方的にやられっぱなしの状況にあるという点にある。

■なぜ店が「やられっぱなし」になるのか

誹謗中傷などの書き込みがあった場合、損害賠償の請求をするといったアクションを起こしたい考えることがあるだろうが、ネット上の書き込みは、そもそも誰が書き込んだのかということを特定することに大きなハードルがある。

殺害予告などの書き込みがあった場合、例えそれが匿名であったとしても、誰が何処で書き込んだのか即座に特定され、警察に逮捕されるというニュースを度々目にする。これはインターネット上に発信された情報は「匿名のように見える」だけで、実は匿名ではなく、多くの場合はその気になれば特定は容易だということだ。

しかし、警察などの捜査機関であるからこそ容易なのであって、これを個人として行おうとすると、なかなか骨の折れる作業を強いられる。

掲示板や投稿サイトでの発言の書き込みをした人物を特定する場合、そのサイトの管理者などに対して、IPアドレスなどの情報の開示を求め、さらにその情報をもとにプロバイダから住所や氏名などの情報を開示してもらうことになる。

この情報開示には要件があって、「書き込みの内容そのもの」が違法なものといえる場合に限られる。例えば差別的な表現であったりする場合だ。違法な表現かどうかという点については、評価が難しいものもある。「違法かどうか」の判断が難しいグレーなものについては、サイトの管理者も情報の開示に及び腰になってしまうのだ。

こうなると残る手段は「裁判」ということになってしまうのだが、「仮処分」といって比較的速く開示をしてもらえる手続きがあるものの、ふらっと一人で裁判所に出かけて行ってちょっとした申し込みでできるような気軽なものではなく、個人として行うには躊躇してしまうことだろう。

そもそもこれは損害賠償を請求する手続の前段階として行うものである。

損害賠償をしてもらえるかという本来争うべきポイントにたどり着くのは、その後なのだ。

冒頭では飲食店のケースを紹介したが、例えば個人でやっているような小さな飲食店ではこのような手続きをやっている時間的な余裕はないだろうし、その度に専門家に依頼をして対処するほどの資金的な余裕もないという人もいるだろう。

こうなると事実上泣き寝入りせざるをえないことになる。これが一方的にやられっぱなしになる理由の一つだろう。

■一方的に泣き寝入りをしなくて済むような仕組みが必要

今回の食べログの裁判で裁判所が述べているように、店側が自分のいいように情報をコントロールできるということは問題であるにしても、しかし、一方で誹謗中傷や事実と異なることを書き込まれた際、これを是正することが難しいという状況も問題だ。

これは実は掲示板などで起こる名誉毀損やプライバシーの侵害でも同じことが言える。

是正を求める前提として発信者情報の開示が必要となる。

もちろん安易に開示がなされればよいとは言わないが、現在の制度ではあまりにハードルが高すぎる。その判断をサイトの管理者やプロバイダに負わせることも問題だ。

例えば発信者情報の開示をするか否かの判断を簡易で迅速に行う裁判手続を作り、いざとなれば不当な書き込み等に対する処置ができるといった仕組みがあってもいい。これは一つの例に過ぎないが、一方的に泣き寝入りをしなくて済むような仕組みについて、もっと議論がなされてよいと考えている。

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