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学校から飛び出した“出る杭”は大気圏を突破できるか−−「異才発掘プロジェクト」の挑戦

「出る杭は打たれる」のが日本社会だとされているが、それならばいっそのことロケットのように大気圏を突破し、打とうにも打ちようがないところまで突き抜けてしまえばいい。

そんな若者の育成を目指して進められているのが、「異才発掘プロジェクト ROCKET」である。

ROCKETは、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが2014年から実施しているプロジェクトで、突出した能力はあるものの不登校傾向にある小・中学生を選抜。各分野のトップランナーの話を聞くプログラムを受講できるほか、エリア外からプログラム参加する際の旅費や宿泊費、自分の能力を高めるための物品、取材旅行の費用などをサポートしていく取り組みだ。

2014年度は約600人の応募者から15人、2015年度は約550人から13人を選抜し、2016年度の候補生も6月15日から募集する予定となっている。

つまり、学校生活に馴染めなかった子どものなかから、「出すぎた杭」になる才能を見出し、育成していくというものだ。日本財団の沢渡一登氏によると、ROCKETに参加する子どもたちには、以下のような学習傾向が見られたという。

・オールマイティー型 さまざまな事柄に興味を持ち、教師を質問攻めにする。結果、大人数での学校教育に馴染めず、自身も授業に退屈してしまう。

・凸凹型 興味関心が偏り、一つのことを突き詰めて考えていくタイプ。プロジェクトには物理や数学、歴史、「ボウリングのピンセッター(ピンを自動的に並べる機械)」などに強い関心を持つ参加者が集まった。

凸凹型“異端児”たちのアート


では実際に、ROCKETにはどのような「異才」が集まっているのか。6月3〜4日には、アートに興味がある参加者3人の共同展示会が開催された。3人とも「凸凹型」の異端児だ。

作品『夜間飛行』と濱口瑛士さん。2015年には、
初の画集『黒板に描けなかった夢』を出版している

濱口瑛士さんは、東京在住の中学2年生で、言語IQは133︎。濱口さんは3、4歳の時、脳梗塞で入院した祖母のお見舞いに行ったことがきっかけで、絵に興味を持つようになった。病院の中で大人しくしていることができなかった濱口さんは、母からペンと紙を与えられ、それ以来、絵を描くことに没頭したという。

ROCKETに参加して得たことは、「まだまだ自分は足りない」と思えたことだという。自身もアートに興味がある「凸凹型」だが、まだまだ突き抜け方が足りておらず、トップランナーになるには、さらに好きなことを追求する姿勢が必要だと感じたそうだ。講義を受けた全盲ろう者の東大教授・福島智さんの「前例がないなら、自分で作ればいい」という励ましが、「自分の一生に残る言葉」になったという。ROCKETでは、パリへの取材旅行に参加し、「美しく繁栄している部分だけではなく、貧困や移民の問題も肌で感じることができた」と、その成果を語る。

山下泰斗さんは、飛行機の立体模型などを展示した

山下泰斗さんは、大阪在住の中学3年生。「空想と現実」が融合した世界観を描き始め、お菓子の空き箱などを用いた立体模型の制作も得意としている。

「学校が少し苦手」という山下さんはROCKETに参加し、学校では話すと浮いてしまうような自身の興味分野の話も普通に受け入れてもらえることに驚いた。人と変わっていることが当たり前の環境に、「自分の居場所」を見つけたように感じたという。今後は、「もっと積極的にプロジェクトを利用し、美術館に足を運ぶなどして興味範囲を広げていきたい」と話してくれた。

永山さんは大学卒業後、絵に特異な才能があることから特別生に

精密な建物の絵を得意とする永山亜樹さんは、プロジェクト対象外の年齢だが、才能を認められ特別生として参加している。

永山さんは、大学在学中に発達障害の診断を受けた。「自分を言葉で表現するのが苦手で、感情ばかり先走っていました。ある時、大学の先生から、『喋らなくていい伝え方』を勧められ、絵を描くようになったんです。はじめは、『崖から岩が降り注いでくる』といったような感情的な絵を書いていたのですが、九州新幹線の絵を描いたら、『上手いね』とほめられて。絵でほめられることがあるなんて、自分にとってはびっくりでした」。

それ以来、永山さんは、実物を精密に描く作品を描きためるようになっていく。

大学卒業後は、就労移行支援事業所に通っていたが、「普通の仕事」と区別されることに違和感を覚えた。一方、絵を描く活動を続けていくうちに、自分の描いた絵がテレビ番組のスタジオセットとして使われるなど、好きなことが仕事になることの可能性を感じていったという。ROCKETをさらに利用し、「絵に没頭できる時間を、もっと確保したい」と意欲を見せる。

異才を育てる「アジール」


ROCKETでは「自主性」が重んじられる。「枠にはめようとすると、参加者が持つユニークさが損なわれる恐れがある」(沢渡氏)からだ。今回の展示会も申請があった3人の自主性によって企画が進められた。

また、不登校傾向にあった参加者の半数ほどが、プロジェクトを通して学校に通えるようになったという。理由としては、

・居場所ができて、「学校の世界だけが、すべてではない」と相対化できるようになった ・興味があることを突き詰めるには、ほかの分野のことも知らなければならないという「関連付け」ができるようになり、学校教育の意義をとらえ直すことができた

などが考えられるという。しかし、あくまで「学校教育を否定するわけではないが、学校教育では育成できなかったような、突出した異才を輩出することが本来の目的」(沢渡氏)である。

ROCKETは、一種の「アジール」(自由領域)的な役割を果たしているように思える。学校や家庭がすべてだと思い込んでしまいがちな小・中学生にとってアジールを用意することは、意味があることだろう。

まだまだ、たくさん失敗して、試行錯誤できる年齢。いずれ大気圏を突破するために、発射台から飛び立つエネルギーをたっぷりとためてほしい。しかし、「出る杭が打たれる社会」を変えることまで彼、彼女たちに負わせるのは、大人として情けないのではないか。異才を育てると同時に、社会のあり方そのものを見直すことが、大人には求められる。アジールを「異才を閉じ込めておく場所」にしてはならないのだ。

[ PR企画 / 日本財団 ]

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