記事

アイデンティティー権の件

大阪地裁が、他人に成り済まされない権利を「アイデンティティー権」として認めたという報道がなされた。

共同通信

SNSでは、ネット上の匿名性を背景に、他人名義のアカウントを作って成り済ました人物が勝手な発言をするなどの被害が問題化している。新たな権利が定着 すれば、このような行為の防止や早期被害回復が進むとみられる。原告代理人の中沢佑一弁護士によると、こうした権利を認めた司法判断は初。

ただ、この記事限りなく飛ばし記事に近い類のものである。

なりすましかどうかは、発信者情報と照合しないと明白じゃないという理論的に難しい部分はあるが、なりすまし事案については、ずっと前から発信者情報開示が認められている。

本人になりすまして愚かな発言をした場合は、名誉毀損として処理されていることが多いような気がする。

もっとも、名誉権の侵害である必要はない。

発信者情報には権利侵害が要件になっているが、これは、不法行為の大学湯事件と同じように、○○権という名前がついていなくても、保護に値する利益を侵害することで足りると言われている。

刑事では、女性になりすまして、電車でチカンして欲しいと書き込んだ男性が、逮捕された事案もある。

もっとも、なりすまし事案で権利侵害が認められる場合は、単になりすましただけでは駄目で、これを本人の発言と誤信した結果本人の社会的評価が下落するとか、不利益が本人に生じる場合に限られている。

要するに、アイデンティティ権と呼ぼうが呼ぶまいが、なりすましで不利益が生じた場合は、発信者情報開示が認められており、不利益が生じてなければ認められていないのが従前の裁判実務である。

じゃあ、こういうような不利益が無い場合は発信者情報開示が認められないのか、なりすましそれ自体に、アイデンティティー権侵害が認められないか?という疑問がある。

たしかに、そういう意味のアイデンティティー権を認めたら新しい権利と言えるだろう。

しかし、この判決は、そういう意味でのアイデンティティ権侵害を認めていないし、不利益が生じていないということで権利侵害を否定して、原告の請求を退けている。

というわけで、判決は、アイデンティティ権について若干のリップサービスはしたものの、従前の枠組みを変えていないし、新たな権利を認めたわけでもない。

なので、この判決を踏まえて、記者が、新たな権利が定着すれば、このような行為の防止や早期被害回復が進むとしたのは笑止である。

忘れられる権利のときも感じたが、司法記者の皆さんはラベリングされた権利が好きなようである。しかし、桃中軒雲右衛門事件の時代は遙か昔である。

というわけで、勉強不足甚だしい。

あわせて読みたい

「アイデンティティー権」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    パチンコ団体の無茶な主張に呆れ

    宇佐美典也

  2. 2

    発言捏造? 水原希子の動画を検証

    西村博之/ひろゆき

  3. 3

    議員秘書が明かす蓮舫氏の悪評

    fujipon

  4. 4

    橋下氏「北対策はヤクザに聞け」

    PRESIDENT Online

  5. 5

    解散を要求していたのは野党側

    和田政宗

  6. 6

    キンコン西野「素人の演出迷惑」

    メディアゴン

  7. 7

    よしのり氏「山尾氏は謝罪不要」

    小林よしのり

  8. 8

    民進・岡田氏 解散の違憲性指摘

    岡田克也

  9. 9

    豊田議員糾弾は大衆によるリンチ

    小林よしのり

  10. 10

    トランプ氏 国連演説で北に警告

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。