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金に絡んだ不正や犯罪が急増しているワケ 贈収賄・マネーロンダリング・テロ資金供与 - 渡邊竜士

リチャード・ニクソン大統領(当時)を辞任に追い込み、1970年代のアメリカを揺るがしたウォーター・ゲート事件。当時の連邦捜査局(FBI)副長官であり、ワシントン・ポスト紙の匿名情報源 ”ディープ・スロート” だったマーク・フェルト氏は “Follow the money” (金を辿れ)と言った。

 国際サッカー連盟(FIFA)理事による汚職、マレーシア政府系投資会社とナジブ首相を巡る疑惑、世界の権力者や著名人らの蓄財と租税回避を暴露した「パナマ文書」、そして2020年東京五輪招致活動における贈賄疑惑。近年、金に絡む不正や犯罪が世界中で大きく取り上げられ、報道件数も増加している。なぜか?

 世界銀行による企業調査(135カ国)では、2010~2016年の間に贈収賄に相当する要求が一度でもあったという企業は17.6%にも及ぶ。また、マネーロンダリング(資金洗浄)されている金額は年間8000億~2兆ドルともいわれ、世界GDPの2-5%に相当する(国連薬物犯罪事務所推計)。

 金に絡んだ不正・犯罪行為の総件数はさておき、当局による捜査の結果が明るみに出ているケースが毎年増えている。背景にはガバナンス・リスク・コンプライアンス分野における3つの潮流が複雑に交差している。

グローバルな贈収賄捜査の強化と広まり

 贈収賄やその疑いで数億円~数千億円規模の罰金や禁固刑を受けている企業が世界中で後を絶たない。厳しい罰則で知られている法律に、1977年制定の米・海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act, 通称 “FCPA”)や2010年制定の英・贈収賄法(Bribery Act, 通称 “UKBA”)等があるが、近年その執行が積極化している。

 米国司法省は贈収賄等の腐敗行為を「テロの温床」とし、国家最重要案件である「テロとの戦い」に結びつけている。2010年1月にはFBI捜査員がアフリカの某国家の防衛大臣を装い、おとり捜査で合計22人を逮捕(FCPA摘発)した。捜査の過程や証拠欠落等の問題で公訴棄却となっているが、司法当局が ”おとり捜査“ という積極的な手段を選んでまで贈収賄の検挙にあたっているのだ。

 世界主要19カ国における外国公務員の汚職に関する法執行件数は、1977~2015年(38年間)合計で287件だが、その51%(146件)は直近5年、または82%(235件)は直近10年以内だ。2015年12月時点、主要27カ国では新たな捜査案件が合計251件(注1)もあり、経費、交際費、そして金品・物品の授受に対する厳しい管理が求められる。

 日本では1998年に ‘外国公務員への贈賄行為に対する刑事罰’ が不正競争防止法に導入されたが、摘発は4件に留まっている。ただ、(字数の関係上詳しい説明は控えるが)たとえ日本企業であっても多くが様々な理由でFCPAやUKBAの適用範囲にあり、罰則が科せられている日本企業(又は非米英企業)も年々増加している。

‘マネーロンダリングとテロ資金供与’ 対策が
世界中で強化

 AML(Anti-Money Laundering;資金洗浄対策)とCFT(Combating the Financing of Terrorism;テロ資金供与対策)については、1989年に設置された政府間機関である金融活動作業部会(FATF: Financial Action Task force on Money Laundering)が2012年2月に『国際的なマネーロンダリング・テロ資金供与対策の遵守の改善:継続プロセス(通称FATF勧告)』を公表し、OECD加盟国を中心に世界34ヶ国・地域及び2つの国際機関が積極的に取り組んでいる。

 近年の AML/CFTでは、金融機関における口座開設や取引におけるPEPs(Politically Exposed Persons; 重要な公的地位を有する者)と実質的支配者の確認が肝となる。

 冒頭でも挙げたマレーシア政府系投資会社「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」とナジブ首相を巡る疑惑では、1MDBとの関係を疑われたプライベートバンクの口座が凍結され、先月シンガポール通貨庁(MAS)はスイス・プライベートバンクBSIのシンガポール部門に業務閉鎖を命じた。マレーシア国内ではマハティール元首相らから訴訟を起こされ、国外では米国・英国・スイス・ルクセンブルグ・フランス・シンガポール・香港と捜査網が広まり疑惑は依然として収まる気配がない。

 米国では最近、財務省が実質的支配者に関する情報の把握と報告を強化する銀行秘密法改正案を連邦議会下院に提出している。また、透明性の向上を求められているのは金融取引のみに限られない。英国やオーストラリアでは不動産所有や企業の所有に関して実質的な支配状況の把握と報告が強化されている。

 先述のFATF勧告以降、マネロンやテロ資金供与リスクは ”AML指数” として各国定量的に評価、ランキング(注2)されているが、2015年時点、日本はAML指数が5.80(0が最低リスク、10が最高リスク)で、世界152カ国中76番目にリスクが高い、と見られている。

 充分な水準かどうかの判断は難しいが、例えばマレーシアのナジブ首相/1MDB問題で挙がっている国々、スイス 5.51(88番)、シンガポール 4.91(116番)、ルクセンブルグ 5.93(71番)、そしてフランス4.79(124番)等と比較しても、日本がほぼ同じ、またはより高いリスクにある事が分かる。日本では2016年10月より改正犯罪収益移転防止法が施行されるが、金融界ではAML/CFT強化に対する積極的な参加が幅広く望まれる。

IT技術の進展もAML/CFTの強化を加速

 金融取引・決済ネットワークがグローバルにオンライン化されると共に、仮想通貨や不動産等、より幅広い価値交換の手段も同じオンライン化の道をたどっている。オークションや個人売買市場サイト、仮想通貨交換所、クラウドファンディング、SNS・ゲームサイト等々、様々な経路の資金洗浄・テロ資金供与が(成功するか否かは別にして)インターネットによって可能になった。”Follow the Money” と言われても、その形態も経路も多様化している。

 ただし、この点については、幸い捜査当局、金融機関、そして事業法人にとっても同じ事が言える。IT技術の進展は犯罪捜査の強化にも大きく貢献している。

 AML/CFT捜査の詳細はあえて避けるが、昨年12月に起きた米国カルフォルニア州・サンバーナディノでの銃乱射事件(14名死亡・17名負傷)では、サンバーナディノ署の分析官は犯罪捜査分析システム「CLEAR®」を利用し、様々なデータベースの分析から容疑者やその住所の特定に導いた。

 コンピュータの処理能力が画期的に向上し、インターネット上を含む様々なデータベースを瞬時に結びつけて、関係を発見する事が可能になった。トムソン・ロイターでは司法・行政・金融機関・事業法人それぞれをユーザーとし、PEPsやデューデリジェンス等様々なデータベースや分析ツールの提供もグローバルに行っているが、このAML/CFT分野への関心は過去最高ともいえる。

 日本でもIT技術を活用した管理は広まりつつあり、むしろ、金融機関や事業法人はAML/CFTを含むコンプライアンス全般をフロントビジネス(収益対象事業)にある程度合わせたリスク・ベース・アプローチに進化し始めているように見える。御社は潮流を理解し、対応しきれているだろうか?

注1 米国・メリーランド州の非営利団体 TRACE International統計
注2 Basel Institute of Governance

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式見解を示すものではありません。

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