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G7首脳宣言に中国が反発するワケ - 小原凡司 (東京財団研究員・元駐中国防衛駐在官)

 2016年5月27日に発表されたG7伊勢志摩首脳宣言の中で、中国が名指しで批判されることはなかった。

 首脳宣言は、ただ、「我々は,東シナ海及び南シナ海における状況を懸念し,紛争の平和的管理及び解決の根本的な重要性を強調する」と述べたに過ぎない。中国に対するけん制というよりも、当事国全てに向けられた要求でもある。それにもかかわらず、中国が反発するのはなぜなのだろうか?

欧州は中国を「脅威」と認識していない

 宣言は、さらに続けて、「我々は,海洋安全保障に関するG7 外相声明を支持する」という表現を用いている。「海洋安全保障に関するG7外相声明」は、G7伊勢志摩サミットに先立つ4月11日に、G7外相会談において出されたものだ。この時も、中国外交部は敏感に反応している。

 「外相声明」は、「我々は、東シナ海及び南シナ海における状況を懸念するとともに、紛争の平和的管理及び解決の根本的な重要性を強調する」と述べて、南シナ海問題を提起した。「首脳宣言」は、「外相声明」と同様の表現を用いたのである。

 一方、「外相声明」は、「我々は、現状を変更し緊張を高め得るあらゆる威嚇的、威圧的又は挑発的な一方的行動に対し、強い反対を表明するとともに、すべての国に対し、大規模なものを含む埋立て、拠点構築及びその軍事目的での利用といった行動を自制し、航行及び上空飛行の自由の原則を含む国際法に従って行動するよう要求する」と、さらに突っ込んだ内容になっている。

 この部分について、中国国内でも、中国をけん制しているという見方が多く、反発につながったのだ。しかし、「首脳宣言」ではその内容を繰り返さなかったことからもわかるように、G7は中国を刺激したくなかった。と言うより、そもそも欧州各国は、中国に対する脅威認識を、日本と共有していない。

 欧州で開催される安全保障に関する会議などでの、欧州各国の国防部や軍、さらにはNATO関係者の発言を聞けば、欧州における最大の脅威はロシアであると理解できる。最近では、「脅威は東だけではない」と言い始めた。「東」とはロシアのことだ。そして、「脅威は南からもやってくる」という。

 「南から」やってくるのは、大量の難民であり、それに紛れ込むテロリストである。そして、問題の根源となっている中東である。しかし、欧州の意識が届くのは、せいぜいここまでだ。中国に関する問題は、経済の問題が主であり、安全保障上の問題としては形式的に少し触れる程度に過ぎない。

 日本が、「中国は脅威だ」と言ったところで、欧州諸国はそれを肌感覚として理解できないのだ。欧州諸国の、「ウクライナに実質的な軍事侵攻を行った」というロシアに対する恐怖感が、日本人にはピンと来ないのと同様である。そこで、最初の疑問になる。中国に対する配慮が示されたにも関わらず、なぜ、中国は反発したのだろうか?

中国がこだわる「国連」の枠組み

 実は、中国が反発しているのは、宣誓の内容というよりも、G7の枠組みについてなのだ。中国が国際秩序を形成する際に使用したい枠組みは、G7ではなく、国連である。なぜなら中国が戦勝国としてのステータスを保持しているからである。中国は、国連安全保障理事会の常任理事国だ。

 日本語では「国連」と名前を変えたこの組織は、そもそも集団安全保障の共同体である。第2次世界大戦の反省を踏まえて、日本やドイツのような「悪者」がまた戦争を起こしたら、「国連」が、すなわち、戦勝国であり戦後世界を牛耳る安保理常任理事国が、この「悪者」をやっつけることを目的としている。日本語とは異なり、英語でも中国語でも名称は変わっていない。「連合国」である。

 中国は戦勝国である。といっても、1945年に第2次世界大戦が終結したとき、中華人民共和国、すなわち現在の中国は、まだ成立していなかった。中華人民共和国の成立は1949年。中国は、戦勝国のステータスを引き継いだが、国力が不足していたこともあり、戦後の国際秩序構築に十分に関わることができなかった。

 中国は、現在の国際秩序は欧米諸国によって都合のよいように構築されたと考えている。だからこそ、中国外交部の、「現在の国際関係は不平等が突出している」といった発言になるのである。経済発展によって国力をつけてきた今こそ、戦勝国たる中国が、国際秩序形成に関わるべきだと考えているのだ。

 そのために使用される枠組みは国連でなければならない。中国には、国際秩序形成に関わる権利があるという認識でもある。ところが、戦後の国際秩序は、すでに経済を回復した先進諸国によって固められてきた。G7は、この先進諸国によって形成される枠組みだ。

 中国は、先進7か国に含まれていない。そして、「あろうことか、敗戦国である日本が含まれている」のである。G7が国際秩序形成の主役になるというのは、中国にとっては許せない。中国は、戦勝国であるにもかかわらず、国際秩序形成において影響力を行使できないまま、「不当に」抑え込まれるという意味だからだ。

 中国の、G7に対する憎しみにも似た反発は、今回の伊勢志摩サミットに対する中国国内の論調からも窺うことができる。中国のネット上では、「G7の言うことは気にする必要がない。中国は南シナ海や東シナ海の開発を進め、力をつけるためにまい進すれば良い」、「中国はG7の存在がなくても中国は世界一の大国になれる」、「G7は世界の将来が見えていない。日米はすでに衰退している」、「G20でやり返してやる」と、批判一色だ。

議長国・日本への批判も

 こうした、子供じみた中国国内の反発に反応したところで意味がない。しかし、日本は、G7サミットを主催したからと言って、安穏としていて良い訳でもない。日本は、欧州諸国と情勢認識を共有できていないことを真剣に考えなければならないのだ。中国に対する脅威認識について、日本と欧州諸国に差があることは述べたとおりだが、国際経済の状況についても、日本と欧州の認識の差は明らかだった。

 純粋に認識の差があるだけなら、まだ良いかも知れない。今回のサミットで、日本が「リーマンショック以来の危機」であるかのような表現を用いたことについて、欧州各国の首脳から批判が出ていると報じられている。

 さらに、「G7伊勢志摩サミット議長記者会見」において、安倍首相が日本の国内問題である消費税引上げの問題に触れたことも、一部の海外メディアに違和感を以て報じられた。「消費増税延期の口実」にG7サミットが利用された、というのである。

 どの国も多かれ少なかれやっていることであるとは言え、日本が、国内問題処理の口実としてG7の枠組みを利用した、と認識されるのは、日本にとって決して良いことではない。欧州各国の日本に対する評価を下げてしまうことにもなりかねない。日本が孤立してしまっては、国際社会における日本の主張が通らなくなる。

いかに国際社会の支持を獲得するか

 一方の中国は、最近になって、「世界40か国以上が、南シナ海における中国の立場を支持している」と主張している。中国も、国際社会から孤立しては、中国が求める国際秩序の変更がおぼつかないことを理解しているのだ。

 現在、米国、日本、中国は、国際社会における支持の獲得競争を展開しているとも言える。軍拡競争よりはましだ、と言えるかもしれないが、国際社会における支持の獲得においても、中国を侮って良い訳ではない。

 中国は、米国のシンクタンク等にも巨額の資金を投じていると言われる。国際会議等において、米国の研究者等から、「中国は国際社会に対する挑戦者ではない」といった発言や、「日本が核武装するかもしれない」といった、まるで他人ごとのような発言が聞かれることもある。

 日本は、すでに、米国との同盟関係を安全保障の基礎という決断をしている。米国の核の傘に守られることによって、日本は核武装をしないという選択をしてきた。万が一、米国の、「日本を防衛する」という意欲が下がったら、日本の安全保障は根底から揺らぐことになる。

 国際社会とともに国際秩序を維持し、平和に貢献するために、日本は中国と同様の手法で各国の支持を獲得しようとする必要はない。しかし、日本が国際社会の中で何を求め、どのように貢献するのかは明確にしなければならない。日本も、国際社会の中で孤立しては生きていけないのである。

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