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自動車メーカーは置き去り Googleが目指す完全自動運転

計150万マイル(約240万km)の公道実走試験を行うなど、米Googleは米国で積極的な自動運転開発を行っている。しかし自動車業界の関係者からよく耳にするのは、「Googleは恐るるに足らず」という声だ。それは本質を捉えているのだろうか? Googleはなぜ凄いのか、自動車業界関係者が徹底解説する。
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 自動運転車の開発で、Googleが他社を凌駕している技術がある。それが、一般道まで含めた完全自動運転のソフトウェア(走行アルゴリズム)だ。いわゆ るレベル4と呼ばれるドライバー不要の自動運転車が走る時代には、このソフトウェアの良し悪しが、クルマの重要な競争要因になる。

 Googleが他を凌駕している根拠となるのが、AI(人工知能)におけるディープラーニング(深層学習)という技術だ。

 ドライバー不要の自動運転を、米国の報道ではしばしば「Drive by themselves=クルマが自ら運転する」と表現する。そのためには、走行中、人間が脳で認識、判断している作業を、コンピューターが代替することになり、信号のない交差点で他のクルマとの発進順を判断するといった、走行に
必要なソフトウェアをそのコンピューターに搭載する。

人間ではほぼ不可能な
自動運転用のソフトウェア開発

 このソフトウェアに入る走行アルゴリズムの開発は人力ではほぼ不可能なゴールの無い作業だ。自動車の運転環境は、高速道路、一般道路、生活道路等によって大きく異なる。一般道路や生活道路では高速道路と異なり、交差点があり、信号があり、多様な道路標識があり、歩行者がいて、実はコンピューターではバイクと見分けがつきにくい自転車もある。一般道は各国で交通ルールも若干異なり、地域の暗黙の了解といったものもある。クルマに搭載されたコンピューターが状況判断に窮することは容易に想定される。

 そこでディープラーニングの有効性が注目されている。ディープラーニングによって学習した画像認識は、2015年には人間のエラー率より低くなったといわれる。米国を競争の場として世界中でこうした研究開発が急激に進んでいる。今年3月、Googleの囲碁AI「アルファ碁」が韓国の世界トップレベルのプロ棋士・李セドル九段に勝つなど、この分野におけるGoogleの技術力は圧倒的だ。

 ディープラーニングでは周りの人間や自動車の動きに対して、こうした状況ではこのように走り抜けるのが「最も正しい」といったことを、環境データや走行データから、自ら状況把握して学習する。人間よりも早く走行方法を最適化して、そのソフトウェアを逐次クルマのコンピューターにダウンロードする。それを販売後のクルマに対しても行うようになる。複数の対象物を同時に早く正確に認識するなど、人間には困難なこともやってのけ、結果的には、さも人間が運転しているかのごとく自動運転車が走るようになる。

 とりわけ自動運転の開発は、「人間の運転」を置き換える部分に集約され、人工知能の一つの初期的適用分野として最適である。クルマは2足走行ロボットや工事現場や荒地を走行するロボットとは異なり、まず人間が運転できる道であることを前提としている。日常生活の全てをこなすことを求めているわけではなく、交通ルールを守るという前提や、道路上で想定し得る全ての事象を認識・分析・判断対象として網羅することも課題を限定しており、十分限定的な条件設定が可能だ。

ディープラーニングを行う際は、大量の「生データ」が必要になる。Googleはカリフォルニア州マウンテンビューに行けば誰の目にもとまる物量で公道実走試験を行い、せっせとデータを溜めこみ分析している。

 Googleが毎月公開している報告書によれば16年4月30日時点で、特徴的な形をしたSelf-Driving Carのプロトタイプ計34台がカリフォルニア州マウンテンビュー、テキサス州オースチン、ワシントン州カークランド、アリゾナ州フェニックスで走行しており、これまでの総走行距離数は約150万マイル(約240万キロメートル)に及ぶ。1週間で1万〜1.5万マイルも、「ソフトウェアがクルマを運転しておりテストドライバーは手動(足を含む)の操作レバーにタッチしていない」クルマが走行データを積み重ねている。

Googleに依存せざるを得ない
自動車メーカー

 更に、昨年3月のTEDカンファレンスでは、Googleの自動運転開発責任者であるクリス・アームソンが毎日300万マイル(約480万キロメートル)もの距離を自動運転車がコンピューター上でシミュレーション走行しているとコメントしている。

 クルマにディープラーニングを適用させるには、個人情報的な観点からはもちろんの事、競合上の観点からもデータを他社に出すことはできない。Googleのように自社の実走試験から得た「生データ(一次データ)」をいかに確保できるかがポイントになる。自動運転車が走れば走るほど、学習するデータが増え、ソフトウェアの運転は更に上手くなる。

 ただ、データさえあれば誰でもディープラーニングを行えるのかというと、そうではない。ディープラーニングには複雑な計算を解く極めて高度な数学的知識やネットワークを介した分散処理、計算機としてのコンピューターの特性に対する高度な理解が必要だ。

今後は、ディープラーニングを利用するためのいろいろな支援ツールが出てきて、現状よりは広く扱えるようになる可能性はある。しかし、究極的な問題解決には常に先駆的な人間の卓越した能力が必要だ。今後は更に広範なAI全体に対する知識や、脳神経科学、分子生物、遺伝学、倫理、法学といった学際的知識も必要となる。このような高レベルの人材を一番抱えているのはGoogleだろう。

Googleが送った
50項目以上の質問状

 13年5月30日に、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が「クルマの自動化」に関する提言(Preliminary Statement of Policy Concerning Automated Vehicles)を発行した。その冒頭でNHTSAは、過去100年間で構築されてきた人とクルマの関係が、今後10〜20年でこれまで以上の変化を遂げると指摘した。

 更に、レベル4の完全自動運転に対して、「それを実現する技術やクルマと人間とのかかわりに関する多くの課題は、今後レベル3の開発と公道試験を通して解決されるものと確信する」とし、それを実現する社会的メリットを含め必要性を強調している。これが3年前の話であり、提言中に示した研究期間を4年としているので、17年にはレベル4の定義が明確に提示されることが期待されている。

 このNHTSAとの間でGoogleは、「コンピューターがドライバーとして認められるか否か」について、50以上の項目に対して詳細な議論や具体的な解釈、事実のやりとりを行っている。「クルマが自ら運転する」レベル4の自動運転開発がGoogle内部で具体的に進んでいることを示している。

ソフトウェアは競争領域
ようやく認識した日本


昨年開催されたTED カンファレンスではGoogleの自動運転開発責任者、クリス・アームソン氏が登壇。TEDのHP上ではこの際の映像が確認でき、Googleの自動運転開発の状況が一目でわかる。日本語版も閲覧可能(http://www.ted.com/


 トヨタは1月、AIの研究開発を行うTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を設立した。

 方向性としては正しいが、製造業のど真ん中を走ってきた日本の自動車メーカーが、これからいかにソフトウェア技術においてGoogleをキャッチアップし追い越し得るのか。高い壁であることは間違いない。

 自動車メーカーだからこそ、膨大な実験のデータは得られるだろう。車載センサー、地図、走行用ソフトウェアの開発を全て自らやろうとする発想を否定はできない。しかし、これから世界中で独自の地図を作成しメンテナンスすることなど、経済性から見てもコストが合わない。大きく先行するGoogleよりも効果的なディープラーニングが行えるかも疑問だ。

 Googleは走行アルゴリズムを開発するために、「三次元地図」と呼ぶ詳細な地図情報を自ら開発して利用している。三次元地図は車載センサーが得た情報を照らし合わせるため、道路の勾配やカーブの角度などをデータとして持つ。しかし、IT的な発想からすれば、Googleは今後どんな第三者から新たな三次元地図が出てきても、ソフトウェア自体に手を加えずに例えばデータ形式の変換のみで、自動運転が行えるよう開発を進めているはずだ。

 彼らの作るソフトウェアは自分自身の地図や相手のハードに縛られることなく利用できる形式になっているだろう。つまり、コンピューターが言った通り正確に走れるクルマを自動車メーカーが造れば、そこにGoogleのソフトウェアを載せて一足飛びに自動運転領域で名を上げる可能性がある。

 フォードが1月に公開した雪道での自動運転の実験動画は、Googleに近い自動運転技術を使ったものだった。

 自前技術に固執している時間はない。協調すべき領域は積極的に協調し「クルマが自ら運転する」、自動運転時代にふさわしい自動車開発に向けて、自社の優位性が発揮できる競争領域に集中し進んでいかなければ、自動運転領域で日本の自動車メーカーは国際競争力を失いかねない。

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